第28話 行動開始
翌日、ギルドに向かった俺たちは相も変わらず周囲の視線を集めているが、構うことはない。
「おはようございます、栞様。本日は依頼受注ですか?」
目の前にいる受付のお姉さんとは初対面だと思うが、ギルドなら名前を知っていて当然か。
「ホワイトフォレストに行こうと思っているのですが、その道中に何か簡単な依頼などありますか?」
「ホワイトフォレストですか……少々お待ちください」
そう言ってしゃがみ込んだお姉さんは、ファイルを取り出すとそれをパラパラと捲り出した。
そんな姿を眺めていると、横にいたロットーが俺の服を掴んだ。
「栞、依頼の種類を狭めたほうがいいんじゃないか?」
「ああ……まぁ、前みたいな特殊な依頼じゃなければ討伐と捕獲どちらでもいいけどな。たしか捕獲の場合は別のヴァイザーだかが回収してくれるんだよな?」
ロットーに視線を向けて問い掛ければ、代わりにファイルに視線を落とすお姉さんが口を開いた。
「時と場合によりけりですが、ヴァイザーが回収することもあれば依頼主が回収する場合もございます」
「依頼主がってパターンもあるのか。……そりゃあそうか」
魔物の討伐ではなく捕獲を依頼する場合は、その魔物から取れる素材が必要だから、だろう。ヴァイザーに頼むよりは自分で受け取りに来たほうが早いのは確かだ。
「それでは依頼をご紹介する前にいくつか説明させていただきます。ヴァイザー個人やチームには序列があり、第一位はゴールドリングの勇者様方で、そこから第二位第三位と続き、実績の無いチームは第五位から始まります。栞様のチームは事情が特殊なので色々と検討中らしいのですが――現在、ホワイトフォレスト付近で受けられる依頼は三つだけなので、その全てをご紹介いたします」
どんなことにも順序は付くか。まぁ、仕事をする以上は必要な信頼だな。
「三つですか。割り振りは?」
「討伐が二つ、捕獲が一つです。前者は大量発生したホワイトベアーの討伐と、クリスタルリザードの討伐。後者は龍酵石の回収です」
言いながら手渡されたファイルを開けば、それぞれに詳細が書かれていた。
「見せて~」
覗き込んでくるサーシャにファイルを傾けながら内容を確かめれば、ホワイトベアーと龍酵石はホワイトフォレストの中のようだが、クリスタルリザードの生息地は若干離れている。
「そんで、どうする? この二つは大丈夫だと思うが」
問い掛ければ、ロットーは頷いて見せた。
「だな。サーシャとハティはどうだ?」
「サーシャも大丈夫!」
「ボクも問題ありません」
「決まりだ。お姉さん、この二つをお願いします」
受ける二つの依頼を上にしてファイルを返せば、お姉さんは大きく頷いた。
「畏まりました。報酬の前払い金がありますが如何いたしますか?」
「え、っと……それはこちらが決めることなんですか?」
「前払い報酬を受け取り、その依頼を失敗した場合はヴァイザーとしての評価が下がります。偶に前払い金だけを受け取って依頼を引き下げるヴァイザーもいるので、その対策です。その代わりに前払い報酬を受け取らずに依頼を失敗した場合は特に評価を落とすことはないのでご安心ください」
どの世界にも狡い奴はいる。この場合は正常に機能しているギルドを褒めるべきだな。
どうするかと視線を向ければ、特に何を答えるでもなくそれぞれが頷き首を傾げている。俺の判断に委ねるってことね。
「じゃあ、どちらも後払いで大丈夫です」
「畏まりました。依頼を受領致しましたので、どうぞお気を付けていってらっしゃいませ」
そんなこんなあって――旅の準備をするため武器屋へ。
「各々、予算内で必要な物を買い揃えて店の前に集合。はい、解散」
それぞれにバラけて店内散策に向かうが、ロットーとサーシャはすでに装備を買ってあるし、ハティは獣化して戦うから基本的に武器も防具も必要としていない。だから、主に俺の防具を買うことが目的だ。
どうせ生き返るとしても死にたくはない。かといって防御を高めて死に難くなるのも違う。死ぬならすっぱり死にたいが、やはり極力死なないに越したことない。
動き易さ重視だと、ここで買った今着ている服でも良いが、何一つ役に立たなかった。だとするともう一つ上の革鎧だな。
「……ノースリーブの革鎧のセットか……」
ズボンと合わせてアームカバー、ブーツとマント。郷に入っては郷に従え、と。朱に交われば赤くなる。だとすると、さすがにボディバッグは似合わない。実際に持ち運ぶ物の量を考えれば腰に付けるタイプの背嚢で十分だろう。
渋る店員に金貨を払って着替え、次は武器を見よう。
深層の古城から帰った後、蔵書には剣針の替え刃が記されたから買う必要はない。やはり接近戦武器よりは中・遠距離武器が欲しい。とはいえ、この世界での戦いは異能力をベースとしているせいもあって武器自体の進化はあまり見られない。
弓以外だとロープと石が繋がった狩猟などに使うボーラと、ブーメランがある。どちらも戦闘で使うには相当な訓練が必要だが――ん?
「今の違和感は……」
背中に走った悪寒のような感覚。蔵書を確認してみればボーラとブーメランが記されていた。実物に触れ、使い方を理解すれば蔵書に記される、か。まぁ、現状での使い道は無いな。
とりあえず中・遠距離武器については保留にしよう。今回の依頼と真名探しで必ずしも使うというわけでもないし……なんなら自分で作ることを念頭に置いてもいいかもしれない。
大した収穫もなく店を出れば、そこにはレーションを買って戻ってきたであろう袋を持ったロットーとサーシャがいて、ハティはいつもと変わらぬ服装でそこに居た。
「ああ、そういやハティは異能力の関係で着れる服は限られているのか」
異能力・獣化は着ている服も変化させてしまうため、ハティ自身の毛を紡いで作っている。今はワンピース型の服が四、五着あると聞いた気がする。
「そうですね。でも、前までは武器屋にも来たことがなかったので色々と見られて楽しかったですよ」
「そうか……じゃあまぁ、準備は?」
「数日分のレーションは買った」
「栞も服装変わったね~」
「変か?」
「ん~、違和感はある!」
素直なのは良いことだ。
「同感だが、慣れるしかねぇよな。お互いに」
「でも、しーちゃん似合ってますよ」
自分で言って自分で頷くハティの頭を撫でて――向かうは北の門。背中側に回した背嚢から取り出した携帯でホワイトフォレストの場所を確かめていれば、ロットーが画面を覗き込んできた。
「アタイはよく知らないんだが、ハティはホワイトフォレストに行ったことはあるのか? サーシャは……昔行ったことがあると言っていたか?」
ああ、俺の台詞を奪われた。
「近くまでね~。東側はあんまり行かないように言われているし」
「ボクも無いですね。ホワイトフォレストは普通のヴァイザーでも近寄らない場所なので」
サーシャはエルフだから。ハティは誘拐されたところでドワーフの住むホワイトフォレストでは取引をしない、ってところか?
「全員初めてってことだな。まぁ、情報は俺の頭の中にある。のんびり行こう。焦る旅でもないしな」
開かれた門から外に出れば、空気感が変わった。
さぁ、二度目だ。前回の仕組まれた依頼とは違い、今回は自発的な行動だ。とはいえ、まぁなんと言うか……死ななければ御の字だ。
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