弓張月~為朝英雄異伝・大蛇~

野林緑里

語り部

ひねくれ小僧


「おもしろい話をしようか」


 子供たちは、目を輝かせながら、老婆の話に耳を傾けていた。


「どんな話?」


「どうせ、また、あの話だろう」


 無垢な子供の後ろで、ひねくれ小僧だけが仏頂面でそっぽを向いている。


 老婆はまったく気にした様子はない。


「だったら、ここに来なければよかとに」


 とつぶやく眼鏡の少女を睨むと、ひねくれ小僧は、背を向けて歩きだした。子供たちは、不愉快そうに、ひねくれ小僧を見ていたが、

「話を始めよう」

という言葉で老婆のほうに意識が向く。


すでにひねくれ小僧の存在よりも、いまから老婆の語る物語のほうに興味がいっていた。


「それじゃあ、話を始めようか。この唐船地区に伝わる伝説じゃ」


「時は、平安末期。平安京より、この筑紫洲つくしのしまへやってきた武士もののふがいた」


「へいあんきょう?」


「いまの京都ね」


「つくしのしま?」


「いまの九州」


「もののふ?」


「武士よ。ブシのこと」


「説明ありがとう。話を続けるよ。いいかい?」


「はーい」

 

老婆は語った。


平成の世より、さかのぼること数百年

時代は平安

公家の世に翳りを見せ、武士がその勢力を拡大しつつあった時代。

源家に生まれた一人の武士もののふがいた。







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