8-2
地下を出て上へ。内輪の祝宴とはいえ、警備は整っている。市庁舎は飾られて、廊下には警備兵たちが歩いていた。事務処理のための道具は一切片付けられ、帝国議会の為に仕上げられている。殺風景な役所も、床には絨毯が敷かれてどこかの城かと見間違えるほどに変わっていた。
「おい、そこの。怪我人がいる。助けてくれ」
アンナが警備の一人を呼び止めた。「こっちだ」
「何事だ?」と警備兵。
「わからない。酷い怪我人なんだ」
アンナは警備兵を誘導した。普段は台帳整理の為に使われている倉庫のような部屋だった。
棚の間でエリオットが蹲っている。
「これは――」
警備兵が言った。振り返りアンナを確認する。
「それだ」とアンナ。
分厚い台帳で警備兵の顔面を叩いた。一瞬で警備兵は倒れる。
「着替えろ。血だらけの格好じゃ出来ることも出来なくなる」
アンナの指示に従って、エリオットは警備兵から身包みを剥いでいく。
「血は?」
アンナが傷口を見る。
「大分おさまってる」
傷口の上をきつく縛ったので、少し痺れがあった。だが贅沢を言ってられる状況でないのはエリオットにもわかっている。
「祝宴は裁判座敷で行われる予定だ。たぶんヴァレンシュタインもそこにいる」
「乗り込むんだろうけど、どうする。証拠はないぞ」
「証拠はある。会場では全てが揃って、今か今かと私たちを待ってるはずだ」
「いつも自信満々なんだな」
「毎日祈ってる。神の御加護があるのでね」
「魔女の台詞か」
エリオットは着替えを終える。ビロードの上等なマントにブーツ。ズボンは少しきつめ。それと革の手袋。帽子は趣味じゃないので置いていくことにした。
「神はいいぞ。何でも赦してくれる」とアンナ。
「地獄行きだよ、あんたは」
「生憎、私は死なない」
「俺もあやかりたい」
「大丈夫。私が神だ」
二人は部屋を出て裁判座敷に向かった。「地獄に連れて行ってやるよ」
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