第24話今だけは①
二回の相手の攻撃は、ランナーを出しつつも、何とか0に抑えることに成功した。余り動けない僕が守備の際に出来ることと言えば、ランナーが出たときにみんなが混乱しないように、いち早く状況判断をしてチームメイトに声を掛けてあげるくらいなのが、情けないところだ。
ベンチに帰るときに伊勢と目が合った。
そこにある彼女の瞳の中にあるものは、僕の考えていたものと幾分違った。
さすがに、この状況なら負けても仕方がないのだから、もっと悲しい目でもしてくれているのかと思った。
なのに、あいつときたらこの状況でまだ信じてやがる。野球経験者ならなおさらこの絶望具合が分かるだろうに、まだ信じてやがる。そんだけ信じられたら神様だって戸惑うレベルだ。
このまま諦めれば、どれだけ楽かわからないだろう。諦めたい、諦めさせてくれ、諦めていいだろう。そんな3段活用したところで、彼女は、伊勢はいつまでも僕の背を押してくるだろう。
マンガやドラマじゃないのだ。僕の背を押し続けたところで、僕が華麗な復活を遂げたり、この試合に勝ったりすることが約束されているわけじゃない。むしろ、そういった可能性が少ないからこそ、マンガやドラマにして感動を誘うのだ。
いつもなら……怪我をしてからこれまでの僕なら、ここはクールな振りして、諦めた振りして、覚めた振りして、この胸の熱いものを気付かない振りをしていただろう。
僕は、それこそが大人の対応だと思っていたのだ。
だが、そんなものは大人でも何でもない。ただ、ガキが拗ねているだけだ。
後ろにいるはずの深会先輩は何も言わない。もう、十分すぎるほどの言葉をかけてもらっている。だから、僕は彼女に見せなくてはならない。あなたに出会えたおかげで変われた僕を見せなくてはならない。
「……みんな、ちょっといいか?」
僕は、チームメイトにある指示を実行してくれないかと頼んだ。
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