第22話自力で咲いた花

 僕らの一生なんて、宇宙や地球の誕生から比べればまさしく一瞬だろう。ならば、その一生の中の高校一年の一週間なんてあっという間ではないだろう。

 もしくは、今、僕があっという間だと感じているのは、よくある嫌な行事に限ってその前の時間があっという間に感じて、いつの間にか当日になっていたというあの現象だろうか。


 はい、そんなわけでスポーツ大会当日です。


 どれだけ口で覚悟を決めても、内心逃げてはいけないと思っていても、嫌なものは嫌なのだ。

 そんな嫌なソフトボールは昼からのなので、ソフトボール一種目にしか出ない僕は、午前中は他のスポーツをやっている人を冷かしながらグラウンドや体育館をフラフラとするぐらいしかやることはない。

 朝のホームルームで出欠をとらないなら、昼から来たいところだ。

 僕はどうしたものかとグラウンドをフラフラしていると、どこからかなんだか懐かしい音とそれなりの数がいるであろうと分かる歓声がしてくるのに気付いた。

 吸い寄せられるように、その音のする方に向かうとそれは野球部のグラウンドだった。

 うちの高校の野球部のグラウンドは、実際にプロ野球選手や高校野球の公式戦をするような球場のようになっているのではなく、ただ単にうち高校の全体のグラウンドの端に扇形に形をとって試合なんかをする時だけフェンスなんかで区切ったりする。

 という補足説明なんかは、今はどうでもよくて、今そこで何をやっているのかという問題なんだけど、それは一目見ればわかるもので、スポーツ大会の一種目である女子ソフトだった。

 足を運んだ時点で気付いてはいたが、予想通りだったな。

 一般的に学校のこういったイベントで自分の出番ではないときは、どういった行動が多いのだろう? 僕の場合は、適当に近場の知り合いの活躍を見て回ったりする。

 はい! ということで知り合いAの伊勢さんの活躍を見てまいりましょう!


 ーーキィィン


 鋭く澄んだ金属音が、僕の鼓膜に突き刺さる。

 伊勢がセンター前ヒットを打った音だ。元々、伊勢は中学ではソフト部だし、小学校でも野球をしていたのだから、素人たちに混ざってソフトボールをやっていれば、そう驚くべき結果でもないのだが、この結果に僕は素直に嬉しかった。

 勿論、自由にグラウンドを駆け回っている伊勢を羨ましかったり、妬んだりする気持ちが全くないと言ったらウソかもしれない。僕自身には自覚はないけど、心のどこかで思っていないのかと聞かれれば、ないですという自信はない。

 でも、今あそこで活躍している彼女は、誰に与えられた力でもなく自分で掴み取った力で結果を出しているのだ。

 努力が実を結ぶとは限らない。

 でも、それが実を結んで花が咲くときその花は、どんな花にも負けないくらい綺麗なものになるだろう。

 僕は伊勢(あの花)の努力を、長いこと隣で見てきたのだ。それは愛着も湧くってものだ。

 残念ながら伊勢は、ホームに帰ることができず伊勢のチームの攻撃が終わった。

 伊勢が自分のグローブをベンチに取りに戻っているとき、伊勢は僕を含め見物人が多くいる方をきょろきょろと見回していると僕と目が合った。

 どうやら僕を探していたらしい。

 僕を見つけた伊勢は、僕の方に向かって力強くガッツポーズをした。多分先ほどのヒットを自慢したかったのだろう。

 そんな彼女に僕と同じクラスの確かソフト部だった子が、はしゃいで何かまくしたてている。恐らく、勘ではあるがソフト部に勧誘されているのだろう。伊勢はいまだに無所属の帰宅部員だ。僕にも責任の一端があるし、何より先ほどの活躍から見るにまだ腕はそれほど鈍っていない様なのでぜひともソフト部に入ってほしいところだ。

 隣で枯れていった花のことなど忘れて。

 僕はしばらく試合を見た後、静かにその場を去った。

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