第17話
見慣れない天井。
ここは紀梅花の部屋じゃない。
どこか嗅いだことのある花の匂いが漂っている。
業平の邸宅だろうか。
眼が覚めると、腹部に酷い痛みを感じた。
やっぱり夢じゃないんだ。
女に刺されたことも、業平に口づけされたことも。
私は人よりも悪運を呼び込む才能に長けているらしい。
上体を起こして布団から出ると、自分の服が変わっていることに気がついた。
誰が自分を介抱してくれたのだろうか。
もしや女だと知られたのでは。
嫌な思考が頭を過る。
そんなとき、そっと御簾の外側に人の影が出来た。
「痛みは平気?」
彼は中へ入ってくる。
「あのっ、私…」
私が焦っているのを見て、全てを理解したように彼は答える。
「安心して。この部屋には誰も寄り付かないように言い付けているから」
「業平様が着替えさせてくれたんですか?」
私の問いに、申し訳ない顔をして頭を下げる彼。
「ごめんね。でもそのままだとマズイと思ったから」
男に見られたなんて、恥ずかしい。
思わず顔が赤くなる。
仕方なかったとは言え。
そんな私を見て、彼は笑みを見せた。
「キミは…反応が初々しくて、いじらしいね」
癖だろうか、彼は私へ手を伸ばした。
小袖の側から微かに匂う香。
この匂い、好きだ。
そして私の頭を撫でる彼。
くすぐったい。
彼が触れた場所が、途端に熱を帯びる。
自然と鼓動が速くなった。
違う、これは錯覚だ。
慣れないことをされて、自分はどうかしてしまっているらしい。
騙されるな。
彼は私では無く、梅花が好きなのだ。
そう自分に言い聞かせて………。
嬉しいはずなのに、どこか胸が痛かった。
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