第12話 黒龍襲来中5

私を撫で続ける手は、ふと止まった。私の祈りは通じたのか...?恐る恐るミカの方を見てみる。すると、ミカは下を向いていた。そして、ミカが私を撫でていた手は、私を離れ、鬼の手となっていた。誇張無しの鬼の手だ。その色は赤黒く、周りを取り囲む黒炎にも全く遜色ない。


「やはりその手は映えるね」


私はその手を知っている。


「まさか鬼関連のコンテンツがこんなに流行るとは思わなかったけどね」


ミカはほんの少しだけ笑って言った。


ここまで来たら私達はぶつかるしかないのだ。結末がどうなるかなど明らかなのに。


「ちなみにこの黒い炎に当たるとどうなるか知ってる?」


唐突にミカは尋ねる。


「いや、どうなんだろう。この状況で聞いてくるということは催淫効果とかですか?」


私は思わず敬語になってしまった。


ミカはニヤリと笑ったまま、鬼の手をゆっくりとこちらに向ける。


ここまで来たら漢、御前創、ジタバタせずにおとなしく掴まれようと覚悟を決めた。


3秒の後、それは私の身体を優しく、しかし決して逃さないように握りしめた。


彼女はまるでワインをテイスティングするかのように何度か私を回した後、とうとう黒い炎に近づけ始めた。正直、ものすごく怖い。人間の不思議な所で、考えている時と実際に起こってしまう時の恐怖感や不安感には、天と地ほどの差がある。何故かは分からないがとにかく酸素を吸っておかなければならない気がした。いよいよ、黒い炎に突入する。まず、感じたのは意外にも綺麗だということだった。しかし、その直後にはある程度の痛みが私を襲った。すごく精神的に辛い痛みだ。お腹を下してトイレにこもっている時の痛みに酷似している。うわ、ちょっと待ってこれが続くのは辛いぞ。そうこうしている間に、頭だけ、炎の外に出ることができた。眼前に広がるのはすやすやと眠っている黒い龍だった。こいつがこの黒い炎を出しているのは間違いない。その点で恨みを感じざるを得ない、しかし、この龍が客龍であることも事実である。その板挟みが私をさらに苦しめる。が、次の瞬間、私は、


「おはようございまぁぁぁぁぁす!!!」


本当に大きな声で挨拶をしていた。今、私は冷静な判断力を失っている。その結果、逆に合理的になっているのかもしれない。あ、ちょっとニーズヘッグさんがビクッとした。


「おい!おい!起きろ起きろ起きろ起きろ!!!!」


もう客とか、そういうのが分からなくなってしまった。人というのは弱く儚い生き物である事を納得させられる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る