第2回 基本の技術
さて、前置きが長くなりましたが、これから解説を始めようと思います。
この回で説明するのは
・起承転結と序破急
・プロットとハコガキ
・文の書き方とリズム
・一番大切なこと
の四つです。どれも基本的なことなので、これから小説を書く方は是非読んでください。これができるのとできないとではかなり作品のクオリティが変わります。
【起承転結】
言うまでもなく、物語を構成する上で一番大切な要素です。「起」は出だしの部分、世界観や主要人物がどんなものなのかを説明するのがセオリーです。派手なシーンの中にそれらを織り込んで、印象深いものにすると読者を惹きつけて最後まで読んで貰いやすいです。「承」は物語のスタートダッシュから「転」までの展開です。「起」の解説を受けて「この物語はどんなものなのか」をある程度具体的に伝えると良いです。ここがダレやすいのでペース配分やシーン選びに注意してください。
「転」は読んで字の如く物語が急展開を見せる部分です。「起」と「承」に散りばめた伏線を元に「どうせ次はこうなるんでしょ知ってる」と思ってる読者を驚かせて「結」まで一気に読ませるのがその役割です。「結」は物語の終わり。派手に締めくくるかしんみりと締めくくるかは個人の自由になりますが、読んだ人が「やっと終わった」ではなく「ああ……終わってしまった」と思うような余韻を残すのが大事です。
今でも人気のあるドラマ「相棒」の1シーズン1話を例に挙げると
起…亀山を人質に総監室へと立て籠もった犯人を右京が捕える。
承…殺人事件が起きる。
転…解決に向かっていたと思われていた事件が、実は全く違う物だったことに右京が勘付く。
結…真犯人が逮捕される。
となります。そしてこの起承転結の中に実は一つずつ「序破急」と呼ばれるものが入っています。某人気アニメの劇場版ではないです。
例えば先程上げた「相棒」一話の「承」の中には
序…特命係がやっかまれていることが示唆される。亀山が後の被害者と会う。
破…事件が起きる。二人が捜査を始める。
急…汚職に関するデータが入ったディスクを二人が見つけ、右京が地検にいる知人にデータを渡す。
といった具合です。本来であればこの「序破急」は起承転結と同じ様な使われ方ですが、三つだけだと少しペース配分が難しいので、起承転結の中に組んだ方がリズムよく物語を展開できるのでおすすめです。各パートを「急」でシメると「次はどうなるのだろう」と読者を次のパートへと引き込むことができます。
実を言うとその序破急の中にも起承転結の様なものがあるんですが、書いているとキリがないのでここでは書きません。
文章というものは無数の文や単語が折り重なってできている、難しい言葉で言えばフラクタル構造です。大きな流れの中に小さな流れがあることを意識すれば、自ずとできるようになります。
ですがこれらの起承転結や序破急は、何もしないで書いているとほぼ間違いなく破ってしまいます。「書きたい」が先行し過ぎて「読ませたい」という気配りがどうしても欠けてしまうのです。そんなこと無いだろと思う人もいるかもしれませんが本当です。かくいう私も自作を読み返すとそんなのばかりです。
ではどうすれば、設計した通りに小説を書けるのか。それを次で書こうと思います。
【プロットとハコガキ】
プロットは、一言で言えば「下書き」です。おおまかな完成図を書き、そこから手直しやアレンジを加えていきます(この作業を清書といいます)。小説という一つの作品を作る上での、土台と骨組みです。
プロットから書き始める……という人も沢山いますが、初めての人がプロットだけで書き始めるのは、実のところ結構難しいのです。頭の中に八割くらい話の流れを予め入れておかないと、あれよあれよと言う間に話のバランスが崩れて、雑然とした仕上がりになってしまいます。ではどうすればバランスを保てるのか、そこで私は「ハコガキ」と呼ばれるものをおすすめします。
これは言ってしまえば「プロットのプロット」で、元々は脚本を書くときに使うものです。大学ノートやルーズリーフなどに
・背景
・展開
・登場人物
の順に話の運びを書きます。そしてどこまでが「起」でどこまでが「承」なのか等を、ブロックごとに区切っていくとどこまでが「起」のパートでどこからが「承
」のパートなのかがはっきりと分かります。
分けたブロックを先程と同じ様にして「序破急」に区切っていくと、先に上げた起承転結と序破急が誰でもできるようになります。プロット作成の前にこの作業を挟むと、プロット作業は格段に楽で完成度の高いものに仕上がるでしょう。
誰でもできて簡単なことですが、これができるようになると作品の完成度は上がります。しかしキャラやストーリーは生き物の様なものなので、どれだけきっちり書いてても脱線する時はしてしまいます。その時は物語の大筋を見て直すかどうか適宜判断しながら、自分好みの仕上がりにしてください。
最後に一つだけ。小説を書くときは、まず終着点を決めてから書き始めてください。終着点のない作品は十中八九ダレます。
バトルものなら主人公は最終的に誰と戦って何を見つけるのか、恋愛ものなら最後は誰と誰が結ばれるのか、日常ものならどこをその日常の終わりとして設定するのかをきちんと決めておかないと、色んなところに話がブレます。物語は終わりがあるから美しいということを忘れないで下さい。
【文の書き方とリズム】
文を書く上で大事なのはリズムです。一文が長すぎたり文末が同じものばかりだったりするとリズムが悪くなって読むのが苦痛になります。しかしこれらは基本的なものではなく応用に近いので、まずは基本的な文法をおさらいしましょう。
まず、童話形式の様な一部の例外を除いて小説は基本的に常体(「だ」「である」などで終わる少し固めの文)で書くのがセオリーです。ここで大事なのが文体は必ず統一することです。常体なら常体だけ、敬体(ですます口調の柔らかめの文)なら敬体だけで最後まで書き切って下さい。
次に「たり」を使う時は必ず、同じ文に二回使ってください。意外とできてない人が多いですが、義務教育でも習う常識です。
エクスフラメーションマーク(「!」)やクエスチョンマーク(「?」)は使った後全角で一字開けてください。「!?」は半角で打つのが分かり易くていいです。
最後に、一文はなるべく短く刻んで下さい。一文が長すぎると凄まじく読みづらいです。どうしても長くなる場合は読点「、」を気持ち多めに使いましょう。
「今日はお父さんとお母さんと一緒に公園に遊びに行きました。」
という文があったとします。一文が長い上にリズムがなくて、読んでいると何だかかったるい気持ちになってきます。なのでこの文は制限でもない限り、
「今日は公園に遊びに行きました。お父さんとお母さんと一緒に行きました。」
とでも書いた方が読み手は読みやすいのです。しかし先の文もちょっとした工夫を加えれば、結構普通の文章になります。それが読点です。
「今日は、お父さんとお母さんと一緒に、公園に遊びにいきました」
これである程度リズムの良い、読みやすい文になったかと思います。
先に書いた通り、長い一文はリズムを壊します。文のリズムが壊れると、読者が作品を読むテンポが崩れてしまい、結果として読みづらくなってしまうのです。いくら優れた作品であっても、読んでもらえなければ意味はありません。なので長々と一文で表現するよりは、いくつかの短い文に刻んで表現した方が読んでもらいやすいです。
作品を書くだけなら個人の好きにすれば良いと思いますが、それをネットを含めた世に出すとなるとやはり読んでもらう為の気配りが必要です。
他にも文末が「だ」オンリーや「である」だけだと滅茶苦茶読みにくいです。前後の文とはなるべく被らない様に意識してください。
文末が被らないように私がやっているのは、過去と現在を振り子の様にして書くことです。現在何をしているかを書いた後に、その直前に何を考えてそれをしたのかを書くよう意識しています。右足を出して左足を出す様にして、現在の行動とその時の考えなどを交互に書くと、特に何も考えなくてもできるようになります。
リズムが良いかどうかは、小声で良いので書いた分を一度音読してみると分かり易いですよ。リズムが悪いと読みにくいです。
【一番大切なこと】
小説を書く為に一番大切なことがあります。それは文章力でも、才能でもありません。最後まで書き上げることです。
最後の一文を書いて、「完結済」の印を付けて初めて一つの物語です。前述した通り物語は終わりがあるから美しいのです。作品を百本書いていて百本とも未完結で投げてしまっている人が一番駄目です。
最後まで描く為には、先にも書いた通り終着点を予め決めておくことが重要です。終わりを決めて、そこへ行くまでの大まかな過程を考えて、その過程へどうやって話が転ぶかを決めて……といった具合に「過程の過程」をどんどん突き詰めて行けば、ストーリーの大筋はある程度決まります。
起承転結の段でストーリーがフラクタル構造であると説明したのは、こういうことも理由の一つです。過程の過程を突き詰め、それを起承転結と序破急で分けていくと、形になった小説が見えてきます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます