番外編 タイムカプセル騒動 4
線路を走る振動が一定のリズムを刻む車内で、私と基山は吊革に掴まりながら揺られていた。
「アリガトね、財布を届けてくれて。でも、何もここまで付き合ってくれなくても良いのに」
駅で切符を買おうとして、財布を忘れた事に気付いた時は愕然とした。普段なら絶対にこんな失敗はしないというのに。
家に取りに帰れば済む話だけど、これはかなりのタイムロスになる。だけどそんな困っている所に、基山がわざわざ財布を届けに来てくれたのだ。
本来なら財布を受け取ってそれで終わりのはずだけど、何故か基山も私に付き合って列車に乗ってきたのだ。
「だって水城さん、相当危なっかしいんだもの。慌てすぎて駅のホームから落ちたりしそう」
「私はそんなにドジじゃない」
「普段なら確かにそうだけど、今は…ね」
そう言われると強くは言い返せない。電話でポエムの事が分かってからというもの、冷静さを失っているという自覚はあった。
「それで、いったい何が起きているの?まだよく状況が掴めていないんだけど」
そう言えば、まだ説明してなかったっけ。ポエムの話をするのは抵抗があったけど、付き合わせているのだから話さないわけにもかない。
私はタイムカプセルにポエムを入れた事や、それが今駅に張り出されようとしている事をかいつまんで説明する。
「そんな事が。というか水城さん、ポエムなんて書いてたんだ」
「昔の話よ。今はもう書いてないわ」
たまにしか、ね。
「とにかくそういう訳で、大変な事態なの。アレを…もしもアレを誰かに見られたら、もう私の人生は終わりよ」
「人生終わりって…水城さんはいったい何を書いたの?」
「聞くな!」
グイッと基山の頬をアイアンクローで絞め、その口を封じる。
「いい!人には知られたくない秘密があるの。それを興味本位で聞いたりしないで。たとえ死んでも…ううん、地獄の底でも知りたいなんて思わないで」
頬を押さえられて喋る事の出来ない基山はコクコクト頷き、私はそれを見て手を放す。
「でも、そんなに凄い物ならタイムカプセルに入れずに、処分した方がよかったんじゃないの?」
「それはそうなんだけど。たぶん当時の私は捨てるに捨てられなかったんだと思う。基山には無いの、人には見せられないけど、つい取っておきたくなるものとか秘密とか」
「有るような、無いような……」
けど、こんな事なら確かに捨てておいた方がよかった。しかし後悔先に立たずだ。
そうこうしているうちに、やがて列車は乗り換え予定の駅に近づいてきた。
「次で一旦降りるけど、基山はどうする?面倒なら本当に引き返しても良いけど」
「いや、ここまで来たら最後まで付き合うよ。何ができるってわけでも無いけど」
相変わらず面倒見のいい奴だ。
私としては話し相手がいた方が気が紛れて助かるけど。一人だとどうしても嫌な想像が広がっていく気がする。
(乗り換えたら後は目的地まで行けるけど、何番線の何時のヤツだったっけ?)
生憎この辺りはよく来ているわけじゃないから、細かいところは分からない。駅に着いてから調べ直すしかないようだ。時刻はもうすぐ十時になろうとしている。もうどうやってもイベントの開始には間に合わないだろう。
せめて出来るだけ人に見られる事の無いようにと祈るのだった。
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