吸血 4
基山は動かなくなった男を地面に置くと、こっちを振り返った。
「――ッ」
一戦交えた後だというのに、その目はあまりに冷たい。いつもと全く違う様子の基山に、思わず体を震わせる。
正直とても怖かった。目の前にいるのは基山なのに、何だか基山じゃないような気がして。私の血を飲んだせいで、基山が変わってしまったような気がして、怖くてたまらなかった。
「水城さん…」
無表情のまま私を呼ぶ基山に、思わず体を震わせる。するとそんな私の様子を見て、ようやく慌てたような表情を見せた。
「ごめん、怖かった?」
それはちょっと元気のない、怖がらせてしまったことを申し訳なく思っているのか、何だか悲しげな表情をするいつもの基山だった。
それを見てようやく息ができた。基山は足早にこちらに掛けてきて、膝をつく私のそばまでやってくると、しゃがみこみ様子をうかがう。
「水城さん大丈夫?血を吸われて、気分悪くない?」
「私は大丈夫だけど……あいつ、生きてるよね?」
基山の後ろに横たわる男に目をやる。あんな奴どうなったっていいというのが本音だけど、何かあったら基山がまずいことになるんじゃないだろうか。
「平気だよ、気絶してるだけだから。目が覚めた時には吸血によるドーピングも消えているだろうから、後は警察に任せれば大丈夫」
その言葉にほっと胸をなでおろす。
完全にのびているようだし、もう襲われる危険は無いだろう。それにしても――
「ねえ、さっきのあれは何なの?」
「あれって?」
「あいつをやっつけた時の基山よ。基山、あんなに強かったの?」
「まあ、護身術は昔習っていたけど」
そう恥ずかしそうに答える。
ちょっと意外だった。男子にしては小柄で気が弱そうなのに、道場かどこかで格闘技を習っている姿はどうにも想像し難い。
「あ、でも今回のはほとんど水城さんから貰った血のおかげだから」
それはなんとなくわかっていた。あんなに圧倒的に強かったのだ。血のおかげでなければペリカンや山小屋で犯人と戦った時にも基山は勝っていたはずだろう。だけど――
「血を吸ったのはあいつも同じよね。だけどあそこまでは強くはなかったわよ」
吸血後の犯人も相当人間離れした強さだったけど、基山の場合は更にその上。あれはもうレベルが違うと言ってよかった。
「それはたぶん、水城さんの精神状態に左右されたんだと思う。水城さん、あいつに血を吸われる時、嫌だったよね」
「当たり前よ!」
嫌だった。とてもとても嫌だった。嫌に決まっている。
正直思い出させないでほしい。お父さんやお母さんが死んだ時に次ぐ、人生の嫌な出来事トップ3に入るくらい最悪の出来事だったのだから。
「いくら水城さんが血を与えることを承諾したとはいっても、本心は偽れないからね。水城さんの血だとたとえどんな状態でも大きな魔力は得られるけど、やっぱり良い精神状態の血を飲む方が得られる魔力も段違いに違うから」
「いい状態って……私、基山に血をあげた時、結構余裕なかったんだけど」
「それは……そうかもしれないけど。たぶん水城さんが僕に血をくれるのは……嫌じゃないって思ってくれた……から……」
最後の方はごにょごにょと声が小さくなり、頬を染めながら顔を背ける。
私も基山の言わんとしていたことが何となくわかり、なんだか私も恥ずかしくなってきて、二人して互いを直視できなかった。
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