地上戦

 腕三郎はパウクをやっとこ街道の終点に向けて突き進めた。


 右は八十メートル級の踊り菩提樹の森が連なり、左は崖がせり出し、その頂上には「見張り」の奴らが炊いた焚き火がたなびいていた。右カーブを曲がると左手に元角亀製油有限公司だったの砂の山が見えた、烏合の衆はその山の向こう側にいるらしい。


 どうやら海側からやってくる東のホバークラフト隊に警戒しているらしい。


 正面には海を背景に二輌の三十八ミリ二連高速ガトリング砲戦車T500が鎮座していた。


「0時の方向、三十八ミリ二連高速ガトリング砲戦車T500!」泉州の声が車内に響く。


「了解!」蔵之介が砲撃照準を眺めながら叫んだ。


 蔵之介が合わせた照準が、泉州のパノラマモニターだけでなく、腕三郎のメインモニタにも映った。


 その照準は的確に片方の敵の砲塔の付け根を狙っていた。

てぇぃっっフォイア」泉州雨が叫ぶと、蔵之介がトリガーを引いた。


 ドオォォォォン!


 八十八ミリ砲が唸る。


 爆発音が轟き、T‐500の砲塔が真上に飛び上がった。爆煙は天高く上がる。


 もう一輌の戦車に乗ろうと搭乗員が乗り込もうと駆け寄っていたが、蔵之介は取り付く時間を与えず、撃破した。


 ドン、ドン。


 ドーンッともう一輌の砲塔も吹き飛んだ


「うでさん!そのまま前進だ!」泉州が叫ぶ。


 腕三郎がコントローラーを押さえつけたまま、前へ倒した。すると、パウクは低姿勢のまま前進し、爆破した二輌の戦車の方に近づいた。


「五時の方向にも戦車二輌!」パノラマモニターを見渡していた泉州が叫んだ。


 右後ろに森がせり出したところに戦車が二輌止まっていた。ユキが推測した通り、まだ戦車はいたのだ。


 戦車の横にはタンクローリーが一台止まり、タンクに給油をしていた。


 グワッキャラキャラと戦車は動き出した。


 蔵之介はすぐに砲塔を後ろに回した。


 腕三郎は停止しようと第一脚と第四脚を伸ばして、第三脚と第六脚を縮めた。自動収縮装置が働き、六つの鉤爪が大地に噛み付いた。


 バリリリリリリッと戦車のガトリング砲が唸りを上げた。


 ガガガガがガガガッと車内に騒音が轟いたが、パウクの装甲を貫通させることは出来ない。


 ドンッドンッとパウクの主砲が連射する。


 一発はキャタピラに当たるがもう一発は外れ、森の樹に当たる。


 ドオン、バキバキと物凄い音が木霊した。


 森の樹が一本吹き飛んでしまったが、樹に引火しなかったのは不幸中の幸いだ。


 瓦礫の山の向こう側からバイクやら四輪車やらが、ワラワラやって来た。


「腕さん左九十度回転!蔵さんよく狙って撃て!」


 腕三郎は左手を引き右手を前へ押し出してアクセルを踏んだ。六本脚がわしゃらしゃと九十度回転した。車体は左を向くが砲塔は戦車を狙ったままだ。まるでたたらを踏んでいるようだ。


 照準はグンッと二百度廻り、戦車を捉える。


 ドンドンドン。セミオートで主砲を撃つとキャタピラをやられたほうが吹き飛んだ。


 ダダダダダダン。ゴローさんが腕三郎の横で二十ミリ機関を撃ちまくってバイク隊を狙う。


 バリリリリリリリリリリッ。


 ガガガガッとまたもや被弾した音がする。


「あと一台だ!踏ん張れ蔵さん!」泉州が叫ぶ。



 また、ガガガガッと砲塔に衝撃があった。わーん、と衝撃の余韻が車内に響く。


 外ではタタタン、タタタタタンとヤマさんと平八郎が烏合の衆と応戦している音が聞こえた。


 蔵之介が「てやっ」と言うと、ドンッと一発大きな音が響き、残りの戦車の砲塔が空高く飛び上がった。三十八ミリ弾が誘爆を起こし、バラバラと花火のようにガトリング砲弾が弾けた。


「残りは雑魚ばかりだ。蹴散らせ!」泉州の声が車内に響いた。


 腕三郎は更に車体を四十五度くらい左に回転させ、複座のゴローさんが黒天狗を狙いやすくした。


 黒天狗団も銃や迫撃砲のようなもので襲ってきたが、パウクには効き目がなかった。


 ゴローは撃って撃って撃ちまくった。ヤマさんと平八郎も地面にひれ伏して撃ちまくっていた。


 黒天狗団が怒涛のごとく押し寄せる真ん中に蔵之介が八十八ミリ砲をぶちかます。

 機関銃も迫撃砲も効かないと解ると奴らはロケットランチャーを持ち出してきた。


 ピックアップトラックの荷台からロケットランチャーを打ち出した。


 シュボボボッという音と共にロケット弾が飛んできた。


 ロケット弾は第四脚と第五脚の中間あたりに命中した。


 ドーンッ。


 大きな音が木霊した。


 しかし、パウクは無傷のままだった。


 蔵之介が報復の一発をかます。


 ドーンという音と共にピックアップトラックが吹き飛び、粉々に飛び散った。赤と灰色の体液が飛沫を上げて破裂する。


 更に三発、ドンドンドンと黒天狗が集まる中心に八十八ミリ砲の炸裂弾を打ち込むと、黒天狗は散り散りに散って、やっとこ街道へと逃げていった。


 タンクローリーも逃げていくのが遠くに見えた。腕三郎は狙いやすいように六本脚を最大まで引き伸ばし、蔵之介はそれも狙っていたが、泉州が「もう良いだろうと」言い、蔵之介も撃つのをやめた。


 次にヤマさんと平八郎を回収しようと、腕三郎は脚を最低まで引き縮めた。


 平八郎がアンドロノフを背負って走り寄ってきた。


 蔵之介が砲塔ハッチを開けて平八郎を中へいざなう。


 ハァハァと方で息をしながら平八郎が車内に入ってきた。


「ヤマさんはどうした?」泉州が尋ねた。


「駄目だったよ。奴らの中にも狙撃兵がいたんだ」平八郎は吐くように言った。「即死じゃ」


 それ以上誰も何も言わなかった。


 墓でも掘ってやりたかったが、平八郎によると黒天狗が逃げ際に対人地雷をばら撒いていったということで、外に出るのもヤマさんの墓を掘ってやるのも諦めた。




 戦闘は終わった。


 太陽はとうに昇っていて、朝日が眩しかった。


 眼の前には朝日に照らされた海が広がっていた。


「これからどうするね?」蔵之介が誰に言うともなく尋ねた。


「こいつをツヨシ様に返さねば」とゴローさんが答えた。


「いいや、ツヨシ様たちにはもう無用だろう」と泉州。


「そうさな、このまま浅瀬を進んで猫崎あたりに行かんかね」腕三郎がふと呟いた。「こいつは水陸両用だ。このまま浅瀬を通って行けるだろうて」


「そうさな、それもいいだろう」と泉州も呟いた。


 二人の呟きは狭い車輌内に響き渡っていた。


 誰も異議は唱えなかった。



 空は蒼く、青白い月が出ていた。


 腕三郎は六脚機動回転砲台をゆっくりと海の中へ進めざぷざぷと沈んでいった。

 そのまま浅瀬を歩いて行き、やがて見えなくなった


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