八月

バカンス バケねこ ひまわり畑

 お日さまの下で、満開のひまわり畑。

 ひまわりのお花の上をそよぐ風。


 今日のあたしは、おすまし気分でバカンス気分のバカンス猫です♪

 おっきなリゾートパラソルとバスケット♪

 バスケットの中には冷たいお水とお気に入りのカリカリのお弁当♪クマパンちゃんには、バナナとにんじんジュース♪


 あっ、来た来た、クマパンちゃん!


 「おはよう、クマパンちゃん!いっしょに、バカンスごっこしようよ♪」


 「ヒェ〜!」


 何よ、クマパンちゃんたら、まるで、お化けにでもあったような声あげちゃって。

 まあ、いいわ。バカンスごっこで遊ぶ前に、ひまわりさんにも、お水をあげなきゃ。クマパンちゃんにも手伝ってもらおうっと。

 こう、暑いとね、お日さまみたいなひまわりさんたちだって、お水がないと元気なくなっちゃうものね。


 バケツに、お水をいっぱい入れてっと。

 

 「ねぇ、クマパンちゃん、バケ……」


 「ヒェ〜、ヒェ〜!!」


 クマパンちゃんたら、ひまわりの下に隠れちゃった。でも、まあるいしっぽは見えてんだけどね。


 「クマパンちゃん、隠れてないで、手伝ってよ。ひまわりばたけ……」


 「ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜!!!」


 クマパンちゃんのしっぽが、ブルブルブルブル、ふるえているよ。


 「クマパンちゃん、どうしたのよ。ひまわりさんたちにお水あげたら、お弁当、食べよう。クマパンちゃんにも用意してきたんだよ。にんじんジュースとバナ……」


 「ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜!!!!」


 クマパンちゃん、暑さで、頭、おかしくなっちゃったのかしら?

 バケツのお水、かけちゃったほうがいいのかしら?

 ……待てよ。

 もしかしたら?

 うん。バケツのお水を、クマパンちゃんにかける前に試してみよう。


 「ケツ」


 「ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜!!!!!」


 「ひまわり、たけ」


 「ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜!!!!!!」


 「ナナ」


 「ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜!!!!!!!」

 

 「ねえ、クマパンちゃん、どうして、あたしが『ば』のつく言葉を言うと、そんなに怖がるの?」


 「ゆるしてよぉ〜、ミケちゃん、ブルブル」


 「なに言ってんのよ、クマパンちゃん。ゆるすもなにもないでしょ。ひまわりさんたちにお水をあげたら、カンスごっこして遊ぼうと言ってるだけよ、あたし」


 「ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜、ヒェ〜!!!!!!!」


 「だから、クマパンちゃん、なにをそんなに怖がってるのよ。説明してくれないと、あたし、わかんないよ。説明してくれないと、もっと『ば』のつく言葉、言っちゃうよ!バ……」


 「やめて!やめて!やめて!」

 クマパンちゃんは慌てて、ひまわりのお花の下から、顔を出しました。

 「だって、化け猫、怖いんだもの〜」


 「化け猫?化け猫なら、あたしだって、怖いよ」


 「それなのに、ミケちゃんたら、会ったとたんに、化け猫ごっこしようというんだもの〜」


 「は???」

 やあだ、クマパンちゃん。あたしが言ったのは、バカンスごっこ!化け猫ごっこじゃないよ。

 「クマパンちゃん、もしかしたら、昨日の夜、『化けの皮をはがす化け猫奇談』の漫画、読んだ?」


 クマパンちゃんは総毛立って、震え上がりました。

 やっぱり、読んだんだ。確かに、ぬいぐるみのクマパンちゃんには、刺激が強かったかもね。

 

 『化けの皮をはがす化け猫奇談』は、あたしが、きつねこちゃんから借りた漫画。

 きつねこちゃんが、息ができなくなりそうで、怖いよって、貸してくれたの。

 夜な夜な、ぬいぐるみの皮をはがして、中の綿わたをペロペロ舐める、化け猫の話なんだけど、読んでると口の中がなんだか綿わたでモシャモシャしてきて喉がつまって息ができなくなりそうで、確かに、きつねこちゃんの言う通り、怖かった。

 でも、怖い話で涼しくなるより、余計、暑苦しくなっちゃったから、あたし、途中で読むのやめたんだ。

 

 「クマパンちゃん、落ち着いて、よく聞いて。あたしが言ったのは『バカンスごっこ』!あたしだって、暑いのに、口の中がモシャモシャになるのは、ごめんこうむりたいよ」


 クマパンちゃんは安心したのか、ペタンと座り込みました。


 「ああ、良かった」


 「クマパンちゃん、『ば』のつく言葉がみんな、化け猫に聞こえるくらい、怖かったんだ」


 「うん。あんまり、怖くて、読むのやめられなくなっちゃって、最後まで読んだら、今度は怖くて眠れなくなっちゃった」


 「あらあら。だったら、よけいに、寝不足で、聞き間違えしちゃうよね。おべんと食べたら、お昼寝しよう!」


 「うん!でも、良かった!ミケちゃんが化け猫じゃなくて、バケツ猫で!」


 バケツ猫?!

 

 「ひどい!クマパンちゃん!バケツ猫じゃなくて、バカンス猫!!」


 クマパンちゃんが笑い出して、あたしもいっしょに笑いました。

 やっぱり、ひまわりのお花畑は、怖がっているより、笑ってるほうがいいよね!


 あたしとクマパンちゃんはバケツ猫とバケツクマになって、ひまわりさんにお水をあげました。

 それから、リゾートパラソルの下で、バカンス猫とバカンスクマになって、お弁当♪


 お弁当を食べながら、あたしは、ふと気になって、クマパンちゃんにきいてみました。


 「ねぇ、クマパンちゃん。『化けの皮をはがす化け猫奇談』って、最後、どうなるの?」


 「あれ?ミケちゃんは、最後まで読まなかったんだ」

 

 「うん」


 「最後のひとりになった茶色いクマのぬいぐるみがね、化け猫に復讐をするために、自分も化けクマになっちゃうの」


 「化けクマ?」


 「そう。それで、化けクマの綿わたをなめた化け猫がね、身体中の水分をみんな綿わたに吸い取られて脱水症になって七転八倒で苦しむの」


 「ヒェ〜!!!!!!!」



 三毛猫 ミケ



***



 化け猫のお話で、少しは、涼しくなっていただけたでしょうか。

 夏真っ盛りの八月。脱水症、熱中症には、じゅうぶん気をつけてくださいね。


 ひまわりは、キク科の一年草です。

 学名はヘリアンツス・アンヌウス(Helianthus annuus)。

 ヘリアンツス(Helianthus)は、太陽を意味するギリシャ語のヘリオス(helios)と花を意味するアンツス(anthos)が合わさって、「太陽の花」。アンヌウス(annuus)は「一年生」という意味です。

 だから、ひまわりの学名は「一年草の太陽の花」という意味になります。


 ひまわりは漢字で書くと、向日葵。

 やっぱり、お日さまの字が入っています。


 そんなお日さまとは切っても切れないひまわりですが、三毛猫ミケちゃんのトレードマークも、ひまわりスマイル!

 ひまわりのお花みたいなミケちゃんは、いつも、みんなの心をお日さまみたいに明るく照らしてくれています。

   

 ちなみに、異なる作者の作品を集めたアンソロジー(anthology)という言葉は、古典ギリシア語のアントロジア(anthologia)から。

 アントロジアは、花の意のアンツス(anthos)と、収集を意味するロジア (logia)が合わさった言葉で、「花集め」という意味。

 それで、アンソロジーは、「詞華集」とも訳されるんですね。


 お花を集めて花束を作るみたいに、いろいろな詩や小説を集めたアンソロジー。

 いつか、ミケちゃんのお話も、素敵なアンソロジーの中の一輪のひまわりになれたらいいなって、密かに願う水玉なのでありました。

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