第280話 分断

 宰相が閣僚会議室に消えてから、10分ほどだろうか。

「第一級緊急事態宣言-災害」が発せられた。

「災害」以外にある「第一級緊急事態宣言」は「戦争」だけになる。

「第一級緊急事態宣言-災害」は直ちにテレビ、ラジオなどのマスメディアを使って市民に周知される。

「ご領主さま、ミズホより艦載機と輸送機の発艦について、艦長判断で行いたいとの具申が来ていますが、いかがしましょうか?」

「相手は誰だ?」

「はっ、スパロー提督です」

 オイキミルが提督を引退した後、スパローが提督の椅子に座った。

「許可すると伝えよ」

 軍の指揮権は領主にある。俺が許可しないと軍は動かない。

 憲兵と消防の指揮権は、宰相側にある。

 それが伝わると同時に、ミズホから艦載機が発進するのが見えた。

「スパローめ、許可されると思って、あらかじめ発進の準備をしていたな」

 艦載機は領内の四方八方に飛んで、被害状況を調べるつもりなのだろう。

「お父さま、アヤカから連絡が来ました」

「ホノカ、伝えてくれ」

「サン・イルミド川を遡ってくる波が見えるそうです。高さは10フぐらい、あっ、間違えた。3mぐらいだそうです」

 長さや重さを俺の居た世界に合わせたので、まだ新しい単位に慣れていない者が多い。

「分かった。そのまま引き続き偵察してくれ。川沿いの住民と船乗りに直ちに連絡。高さ3m程の津波が到来する。

 住民は至急高台に避難するように、船は沖合に退避を徹底させろ。特に係留中の船は被害を大きくする可能性があるので、荷積みなどしていても中断し避難させろ」

「ピー、こちらミズホ艦載機、ベータ隊、ただいま、サン・シュミット山脈より火山の爆発と思われる火柱と噴煙を確認しました。

 サン・シュミット山脈が、噴火した模様です」

「噴煙はどちらに向かっている?」

「今の季節は南風ですので、噴煙は北へ向かっています」

「ガー、こちらミズホ第一艦橋、川の下流より、津波を確認、あと数分で来ます。

 高さは3mほどです。

 今、第一波が来ました。ミズホ大きく揺れていますが、視認の範囲では異状はありません。詳細状況を確認します」

「ピー、こちらミズホ、アルファ隊、現在ローレライのところですが、ローレライがありません」

「アルファ隊、言ってる意味が分からん。ローレライが無いとはどういうことだ?」

「ピー、ロ-レライの急流がないのです。川は静かになっています」

 そこへ、情報長官のウェットイットが、飛び込んできた。

「ご領主さま、サン・イルミド川ですが、川でなくなりました。北の方へ抜け、現在海流が入ってきています。

 今はサン・イルミド川でなく、サン・イルミド海峡の状態です」

「アルファ隊、その上流に大きな滝があったはずだ。どうなっているか、確認してくれ」

「了解」

「あの滝が無くなったら、竜がどうなるかわからん。それと北の国から攻め込まれる可能性もある」


 災害本部に入ってきた第一報の情報では、建物の下敷きになり死亡した者27名、重傷53名、軽傷約270名、行方不明14名ということだ。

 この数は今後増える可能性もある。

 余震も1度あったが、それほど大事には至っていない。

 アロンカッチリアさんに言って、学院と昔の寄宿舎に被災者を受け入れて貰うように対応してあるので、被災した人もどうにかなるだろう。

「お父さま、アスカから連絡が入りました。病院だけでは収容しきれないので、教会も臨時の病院にしているそうです。

 アーデルヘイト司教の指示で、教会関係者全員で治療に当たってくれているそうです」

 アスカからも念話で、交信してきたようだ。

「アーデルヘイト司教に感謝すると伝えてくれ」

「アスカ、お父さまからアーデルヘイト司教さまに『感謝する』と伝えて欲しいって」

 そこへ、アロンカッチリアさんが入って来た。

「シンヤよ、俺も何かすることがあるか?」

「公都とトウキョーの建物が崩れて道路を塞いでいるのと、下敷きになっている人がいます。

 特に道路が塞がっていると救助が捗らないので、アロンカッチリアさんは、アーネストさんと一緒に道路の復旧と救助を頼みます」

「分かった、そっちに行ってみる」

 エリスが病院から戻って来た。

「とりあえず重傷者は治してきたわ」

「エリス聞きたい事がある。この時代なのか、アトランティス大陸とローラシア大陸が別れるところというのは?」

「現在の状況を鑑みると、そうだと思った方がいいわ。もしかするとゴンドワナ大陸にも異変があるかもしれないわ」

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