第231話 開発

「会長さんも変わった人だ。あんな泥臭いものが好きなんて。まだ、鮎の方がいいと思いますが……」

「鮎もいるのですか?」

「ええ、川の上流の滝壺に行けばいくらでも採れます。ただ、海の魚に比べ骨は多いし、それほど美味しくないしで、村人はあまり食べません。それに川の生き物は全体的に泥臭いですし」

「村長、この村に炭はありますか?」

「あります。この村周辺の山には『ウバメガシ』という木があって、その木で作る炭がいいんですよ」

「ウバメガシ」それは備長炭じゃないか。

 よし、材料は揃った。明日の夜はうな重と鮎の塩焼きだ。

 村人が採って来たうなぎを綺麗な水に入れ、一晩寝かせて泥を吐かせる。

 これは鮎も同じだ。

 その間に、醤油とみりんと砂糖でタレを作るが、ザラメがないので、さとうきびから採った黒糖を使う。

 分量や作り方については、エリスが培養液の中で植え付けられた知識を利用する。

 しかし、培養液の中で植え付けられる知識には、料理の知識とかも入っているのか。エリス、パッねえっす。

 次の日の夜、久々に俺が包丁を握った。学生時代、ありとあらゆるバイトを経験している。もちろん、料理店の厨房経験もある。

 うなぎは蒸してから焼くのとそのまま焼くのがあるが、今回は、蒸してから焼く方法にした。

 俺が調理をしていると、みんなが珍しそうに見ている。

 うなぎを蒸している間に鮎の方も調理して行く。

 とは言っても鮎は塩をまぶし、串を刺すだけだ。

 蒸しあがったうなぎは今度は炭火で焼く。それと一晩寝かしたタレをつけて、ご飯に乗せれば完成だ。

 炭火の周りには串を刺した鮎を斜めにして焼く。

 こっちは、こんがり焼き色がつけば完成だ。

 ミュには松茸のお吸い物を頼んでおいたので、うな重、鮎の塩焼き、それに松茸の吸い物と揃った。

 卵があったから、茶わん蒸しも作ればよかったかもしれないが、後の祭りだ。

 みんなの前に、料理が並んだ。

「いただきます」

「「「「「いただきます」」」」」

「あっ、美味しい」

「ほんとだ、この甘いタレがうなぎとご飯に合って、なんとも言えない味だわ」

「鮎も美味しい。うなぎと対照的に塩が効いているのが、なんとも言えないわ」

「ほんと、なぜか幸せを感じる」

「このスープも最高、昨日は『えっ』と思ったけど、今日のスープは全然違う。この濃い味に対して、すっきりしてとても美味しい。うなぎがくどくならなくていい」

 女性陣は、全員が食レポをしながら食べている。

 対する男性陣は、全員が無言だ。

「お、おかわりはありませんか?」

「あっ、俺もおかわりが欲しい」

 男性陣からは、おかわりの声が上がるが、うなぎは全部使ってしまったので、もう無い。

 その事を言うと、

「タレはまだありますかい?ご飯にタレだけでいいから、おかわりをお願いします」

 船員は体力勝負だからね、いっぱい食べないと。

 タレは、まだあると言ったら、船員たちがご飯にタレをかけて食べ始めた。

「いやー、食った、食った。こんなにうまい物、初めて食べた」

「おいしかったわ、さすがお館さまは違うわ」

 男性にも女性にも好評だったようだ。

 うなぎのタレは何年か寝かした方が美味しくなると分かっているが、今の状況では仕方ない。

 何もないマーキャブ村だと思っていたが、以外や以外、まだ開発されていないだけだった。

 リゾート施設を造っても、マリンレジャー、食、鍾乳洞観光、宝飾品といろいろと開発できるだろう。

 ついでに富裕層を対象とした、カジノも併設しよう。

 カジノで、貴族の力を削ぐのも有りかもしれない。

 そして、マーキャブ村からキッシュナトルを通り、キバヤシ公都まで続く道を造ろう。

 水族館を造るのも、いいかもしれない。

 イルカショーなんて人気が出るだろう。夢はいろいろと膨らむ。

 ヤマトに帰った俺は、エリスと一緒に新社長となったアールさんの元に転移し、マーキャブ村の開発の事を話した。

 アールさんは早速、調査隊をマーキャブ村に送ってくれることになった。

 だが、今度はマーキャブ村が、どこの領地に属するかが問題となってくる。

 他領だと、紛争問題に発展し兼ねない。

 その事を村長に聞いたが、どうやらキバヤシ領に含まれるらしい。

 キバヤシ領の端になるそうだ。

 ここを管理する議員とかにも確認して、キバヤシコーポレーションが開発する事を伝えなければならない。

 そちらについては、宰相のヤーブフォンに連絡を行い、行政上の手続きをする事になった。

 翌日、ヤマトは一路サザンランドに向け、錨を上げた。

 次に到着するのはサザンランドにあるグンネル国の港になるだろう。

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