第190話 内紛
年が改まり、年末休暇の余韻も抜けた頃、一つの情報が入ってきた。
ハルロイド領で、エリス教派と貴族派の軽い小競り合いがあったというのだ。
情報では軽い小競り合いと言っているが、追加の情報では死人も出たというので、既に軽い小競り合いではないだろう。
ハルロイド公都からは、既に避難を開始している住民もいるらしい。
現在は教会が2派の仲介に入って収まっているらしいが、いつ爆発してもおかしくない状況にまでなっているということだ。
そんな話を司教のアーデルヘイトさんから聞く。
「どうでしょうか、アーデルヘイト司教。ハルロイド領はこのまま紛争になりますか?」
「恐らくなるでしょう。今の段階では、両者が振り上げた拳を降ろせない状況までになっています。
一度、剣を交わさないと収まりがつかないでしょう」
この紛争の原因となったエリスは、渋い顔をしている。
「シンヤ会長も他人事では、済みませんよ。
紛争が激化すれば、王国は平定に努めなければなりません。そうなると、エルバンテ領やキバヤシ領にも出兵の依頼が来るでしょう」
それは十分考えられる事だ。それに、その原因を作ったのは我々でもある。無視するということは出来ないだろう。
そんな話をしている時だ、司教室の電話が鳴った。
この電話は、教会内の連絡網のために作られた魔道具である。
アーデルヘイトさんが、付き添いの助祭から電話を受け取り、応答している。
電話が終わったアーデルヘイト司教は、
「ハルロイドですが、とうとう紛争に発展しました。今の電話は教会本部からの連絡ですので、ほぼ間違いないでしょう。
貴族派が立てこもる屋敷に、エリス教派が攻撃を仕掛けているということです。
貴族派は高額で雇った冒険者ともども立て籠っており、さらに高額で冒険者を募っているそうで、王国各地から冒険者が集まり出しているらしいです」
こうなると、いつ派遣命令が来てもおかしくない。
俺はアリストテレスさんに言って、出兵の準備を始めた。
もちろん、キバヤシ領代官のシュバンカさんにも連絡を入れた。
そして、1月も終わろうとしている頃、とうとうその使者がやって来た。
「国王陛下よりの命令書です。キバヤシ領、エルバンテ領ともども5千ずつ、計1万をもってハルロイド領の内紛を平定せよ」
俺とエルバンテ公は、謁見の間にて国王陛下の命令書を受領した。
俺たち以外にも、王国各地から兵が出て、計5万人もの兵力になるらしい。
内紛の平定に5万人は多すぎる気もするが、相手が元軍隊と腕っぷしのいい冒険者なら、これぐらいの数がいないと無理と考えたのかもしれない。
かねてより、このような事を考慮して準備はして来た。
出陣となれば、1週間ほどで準備は整う。エルバンテ領、キバヤシ領からは、船で途中にあるアジェラまで行き、そこで、各地からの兵と集合した後、ハルロイドに向かう事になった。
キバヤシ公都に集合したキバヤシ軍を率いるのは、リチャード・ザンクマン将軍だ。
横にはオイキミル副将も居る。
「将軍、我々も後から行きますので、先行の方はよろしくお願いします」
「ご領主さま、軍師殿、ご指示の通りに」
出陣挨拶を交わしているところへ、伝令が入って来た。
モン・ハン領から兵1千が、到着したというのだ。
モン・ハン軍も一緒に行動したいとの申し入れだ。
モン・ハン領は小さいので、恐らく兵1千というのは、現在出せる最大の兵力だろう。
最大の兵力を持って加担してくれるのは、頭が下がる。
モン・ハン軍の大将が挨拶に来た。
「エルハンドラ、何故ここに居る?」
「この度の、遠征の大将を授かりました、エルハンドラでございます。よろしくお願い致します」
「いや、何故、領主がお前を寄こした?」
「一つは、ハルロイド領の事が分かっている事、もう一つは私の参謀が、ご領主さまの質問に明確に答えられた事からです」
後ろに控えていた人物が、ベールを脱いだ。
「ミドゥーシャではないか?お前が参謀か?」
「この度、参謀を努めます、ミドゥーシャでございます」
「ミドゥーシャは、私の妻でもあります」
「エルハンドラよ、あの時の答えは分かったのか?」
「いえ、分かりません。なので、その事を母上に申し上げたところ、『それなら、結婚すれば分かりますよ』と言われたので、ミドゥーシャの意思も確認して妻に迎えたのでございますが、ミドゥーシャは未だに答えを教えてくれません」
見るとミドゥーシャは、笑っている。
「そうか、それなら子供ができれば、分かるかもしれないな」
「それなら、一刻も早く、子供を設けたいと思います」
それを聞いたミドゥーシャは、顔を赤くしている。
モン・ハン軍を含めたキバヤシ軍6千は、集合場所であるアジェラへ向かって、先行して行った。
俺たちは、エルバンテ領に戻ってきた。
「アルフレッド、ヤマトはいつできる?」
「はい、後2週間程で」
「アリストテレスさん、2週間後に出港の準備をお願いします」
「分かりました、船長のジョニーにもそのように言っておきましょう。ちょうどシナノで訓練中の船員が1週間後に戻ってきます。その者たちにも出港の連絡をします」
「船員は忙しくなりますが、よろしく頼みます」
こうして、俺たちの準備も着々と実施していった。
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