第165話 人手不足

 大学部を設立することになり、キバヤシ領、モン・ハン領、王都から先生希望者を募る事になった。

 キバヤシ領は代官のシュバンカさん、宰相のヤーブフォンさんに頼んだ。

 モン・ハン領については、ローランド伯爵からエル=モン・ハン公爵に頼んだが、モン・ハン領も学術が向上することになるので、快諾してくれた。

 王都も国王陛下に、こちらはエルバンテ公からお願いして貰ったが、同じく快諾して貰った。

 この3国には学院設立のための土地の借地をお願いしたが、建物まで建造してくれるとの事。

 どこの国も教育の推進は頭痛の種だったのが、キバヤシでやってくれるのだから、せめて建物だけは負担しようとの有難い申し出だ。

 そんな中、エルバンテ公都の冒険者ギルドのギルドマスターが俺の所を訪ねてきた。

「初めまして、私、エルバンテギルドマスターの『エンヤ・ガンビ』と言います。

 今回、ご相談したいのは、冒険者の事です。

 キバヤシさまが手広くご商売をされているため、誰も冒険者をやろうとしません。

 そのため、魔石が底を尽きつつあり、このままでは、エルバンテ公都の水の汲み上げが出来なくなる恐れがあります。

 そこで、お願いですが、冒険者のうち、作業員となった者をもう一度冒険者に戻して頂けないでしょうか?」

 ハイリスクの仕事の冒険者を救う事になると思っていたが、これはこれで問題があったという訳か。

「しかし、職業の選択は自由です。私が冒険者に戻れと言っても戻るでしょうか?」

「たしかにそれは難しいでしょう。なので、キバヤシコーポレーションで魔物を狩って貰えませんか?」

「魔物の狩りはリスクが高いです。

 会長が行けと言うのは、死にに行けと言ってるようなものです。

 それは指示できません」

「うーむ、それは困りました」

「水が汲めればいいのですよね。ちょっと考えさせて貰っても良いでしょうか?アリストテレスさん」

「何でしょうか?」

「今の話は聞いていましたね。研究者たちとイルクイントさんを集めて下さい」

 それを聞いて怪訝に思ったギルマスのエンヤさんが、聞いてきた。

「キバヤシ会長、研究者でどうにかなるのでしょうか?」

「研究者の知恵を必要とします。取り敢えずは水を汲み上げる事を目標とします」

 集まった研究者たちを前に、俺が説明する。

「エルバンテ公都では、冒険者の減少により魔石が手に入らない。従って、魔石に変わって水を汲み上げる方法を構築する必要がある。

 それで、俺は『水車』と『風車』を作りたいと思う」

 「水車」と「風車」はこちらの世界では見かけないので、多分無いのだろう。「水車」と「風車」について説明する。

「方法は分かりました。俺たち研究者は、その『水車』と『風車』を設計すれば良い訳ですね。

 ところで、このイルクイントは何の為に呼ばれたんでしょうか?」

「『水車』と『風車』の材料は木材だ。木材の加工となれば、イルクイントさんが一番分かっていると思った」

 イルクイントが、指名されてびっくりしている。

「か、会長、そんな大事な物を俺に作れと言うんですかい。いつも、いつも、変な物ばかり頼んで来るんですね、会長は」

「すまない、木材を使った建設はイルクイントさんしか頼めない。力を貸して貰えないだろうか。それにこれは、エルバンテ公都だけの問題ではない。

 このトウキョーだって同じだ。今の内に手を尽くす必要がある」

 みんなの顔色を伺うと、困惑した中にも「何んとかしなければ」という思いが伝わって来る。

「サロイデリアさんは風車の帆の設計を頼む、ルネサスさんは帆の製作、カシーさんは風車本体と地下水の汲み上げ方法、ザンジバルさんは水車についてやってくれ。イルクイントさんはザンジバルさんの下について、水車の製作を頼む」

 しかし、研究者だけ決めれば終わりではない。

 水車は大型となるため、大きな材木が必要となるのだ。

 その大きな材木は、魔物の森に行かないといけないし、どうやって運ぶかも問題だ。

 俺と嫁たちがいれぱ、魔物の森でも木を切る事は、それほど難しい事ではない。

 問題はその木をどうやって運ぶか。木の直径だけでも5mほどある。長さは100mを越える。

 キチンでも引く事は不可能だし、カイモノブクロにも入らない。

 川を利用しようにも、そんな大きな木を流せるだけの川はない。

 小さく切ると使い物にならない。

「ご主人さま、どうかしましたか?」

「ミュか、知っての通り、魔物の森で切った大木をどうやって運ぶか考えていたところだ。何か妙案がないものか」

「シンヤさま、『三人寄れば文殊の知恵』というじゃありませんか。みんなに聞いてみたらどうでしょう?」

 エリス、お前は神だろう。いつから仏教徒になった。

「旦那さま、『文殊』って何ですか?」

「『文殊』って知恵の神様のことだ。3人居れば、『文殊』のような知恵が出るということだな」

「なら、4人以上ならその『文殊』さんよりもっと良い知恵が出る訳ですね」

 いや、ラピスよ、そういう問題ではない。

「ラピスさまの意見を採用しましょう。街中に課題を掲示して、その解決方法を募集しましょう」

 アリストテレスさんが言った。

 トウキョーだけでなく、エルバンテ領内、キバヤシ領内にもこの課題が掲示された。

 もちろん、賞金も出る。

 課題が掲示されてから、1週間程経過したが、なかなかこれといった案が出てこなかった。

 しかし、以外なところから解決案が出てきた。

「あのー、その切り倒した大木を持って来れればいいんですよね。私がやってみます」

 そう言ったのは、マリンちゃんだった。

「マリンちゃん、君が水魔法の使い手なのは知っているが、近くに大河はないぞ」

「水魔法を使える人がたくさん欲しいです。それでどうにか出来ると思います」

「分かった。キバヤシ領とエルバンテ領中の水魔法の使い手を集めよう」

 これで、魔物の森から、大木の切り出し作戦を始める事になった。

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