第159話 砂トカゲ

「ここより、東のオアシスの近くで見たという情報があります。

 その者たちも遠くに見ただけで、近寄ると危ないので、さっさと逃げて来たと言う事です。

 なので、正確な場所までは分かりませんよ」

 シードラから地図で説明するが、砂漠地帯なので、東に何フと書いてあるだけのものだ。

「ミュ、またワームを頼む」

 ミュが念を通すと、足元の砂が持ち上がりワームが姿を現した。

 俺たちはそのままワームの背に乗っている。

 下からシードラが叫んでいる。

「会長、サボテンの棘も例のホックに使えるかもしれません。砂トカゲが見つかったら、そのまま南へ行って下さい」

「分かった、行ってみるよ」

「会長、水と食料は?」

「ああ、いらない」

 俺たちはそのままワームに乗って出発した。

「シードラ隊長、あの会長って本当に人間なんですか?それに一緒に居た3人の美女はいったい誰です?」

「一つ目の質問は、会長はたしかに人間だ。2つ目の質問、3人の美女は嫁だ。ただし、嫁のうち2人は人間ではない。そして残る一人はラピスラズリィ公女さまだ。

 いいか、命が惜しかったら会長に逆らっても、あの嫁たちには逆らうな」

「……」


 東のオアシスに向かうが、なにせ砂漠で距離があるので、そう簡単に着かない。

 夜になると俺たちは自宅へ転移して、朝また転移するという作業を繰り返す。

 ミュとエリスの二重結界はあるが、暑さは感じるので、太陽の光を避けるために、自宅からターフと椅子を持ち込み、ワームの背中に固定した。

 ワームの背中は地面から20mほど離れており、反射光を受けないので、ターフだけあれば、意外と過ごし易い。

 そんな事で3日間ほど過ぎた頃、行く手にオアシスが見えた。あれがきっと、東のオアシスだろう。

 俺たちを見つけた人たちが、家から出て逃げて行く。

 まあ、無理もないが。

 アオシスのところに着いて、ワームから降りる。

 遠くの方から顔だけ出した作業員がこっちを見ている。

「おーい、俺だー。シンヤだー」

「会長ですかー?」

「そうだー、こっちに来てくれ」

「ワームはまだ居ますかー?」

「いや、いないぞー」

 なんか、遠くとそんな会話をしていたが、ワームを砂に潜らせたためか、作業員が近づいて来た。

「やっぱり、会長だ。ところでワームに乗ってきたように思ったのですが……?」

「ああ、そうだ、ワームを飼い慣らしてね」

「……!?」

 一瞬の沈黙が流れる。

「えっと、それでご用件は?」

「砂トカゲを探しているんだが、こちらで目撃したという話を聞いてやって来た」

「……、マジっすか?」

「マジっす!」

「ワームに乗って来るぐらいだ。本気なんでしょうね。砂トカゲはあの丘を越えたところで見ました。それでも遠くに居ましたね。

 今は居るかどうか分かりませんよ」

「ありがとう、行ってみる」

 ワームで行くと、砂トカゲが逃げてしまう可能性があるので、ミュとエリスに飛んで連れて行って貰う。

 ミュとエリスが翼を出すと、そこに居た全員が、腰を抜かしていた。

「シルゲール副隊長、俺は夢でも見ているのですかい?」

「いや、俺も今そう思っている」

 上空に上がると、遠くまで良く見渡せる。

 すると遥か彼方に動くものが居る。あれが、砂トカゲかもしれない。

 エリスとミュも確認したのか、そちらへ向かって飛んでいく。

 姿形が見えてきたが、あれはトカゲじゃない。どっちかと言うとコモドドラゴンってやつだ。

 しかも大きさも半端ない。もはや恐竜だ。

 口から長い舌を出して周囲を警戒しているのだろうか。

 上空から見ると腹の下に卵が見えた。

 今、孵化の時期なのかもしれない。

 だから、シルゲールたちを追って来なかったのか。

「ミュ、砂トカゲを誘惑の魔法で下僕に出来るか?」

「砂の生き物は知能が低いので多分、大丈夫だと思います」

「では、頼めるか」

 俺はミュに下ろして貰い、エリスが俺とラピスを護衛する。

 ミュは、ピンクの霞に包まれると、それを砂トカゲに向けて纏わりつかせた。

 砂トカゲにピンクの霞が纏わりついた後に、透明になって行く。

 ミュが伏せのポーズを取ると見事に伏せをした。

 今は卵を抱いているので、卵が孵るまでは、そのままにしておく。

 その間にソリ型車を作る必要がある。ただし、砂漠まで運んでくる間は車輪が必要なので、車輪とソリの両方に対応しないといけない。

 それ以外にも餌付けをする必要があり、餌も持ってこないといけない。

 そう考えると砂トカゲを使役するだけでも、やる事はたくさんある。

 砂トカゲを下僕にしてから、南へ向かう。

 ワームの移動速度はそんなに遅くないが、それでも荒野のサボテンのある所に辿り着くまで半月ほど掛かるだろう。

 その間にもいくつのオアシスがあるが、シードラたちは未だ発見していないようで、拠点となるような小屋はなかった。

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