第157話 秋祭り
8月14日、そう、この日に決めた。何を決めたかと言うと、秋祭りである。
公都の中は朝から、ざわざわと騒がしい。
街の広場に特設ステージが出来ており、そのステージを囲むように既に男性と女性の若者が居座っている。
何故、そんな早くから居座っているかと言うと、学院の生徒による歌と踊りがあるからだ。
今年は、サクラシスターズに加え、トウキョーボーイズも行うと告知してあったので、女性ファンも早々と場所取りに来ている。
この日はエルバンテ領内から観光客が来る。
いや、エルバンテ以外からも来る。
何故来れるかと言うと、キバヤシツアーズが旅行ツアーを販売しているからだ。
遠くは王都からも来ている。
うん、あれは、王都守備隊の若い兄ちゃんとラピスの侍女じゃないか。
この時代、遠距離恋愛はなかなか大変だが、頑張っているな。
飲食店のオーナーたちが酒樽を持ち込んでいるもんだがら、広場はまだ陽が高いのに酔っ払いばかりだ。
チェルシー長官率いる憲兵たちは皆が浮き浮きやっているのに、交通整理をしたり、酔っ払いの喧嘩の仲裁に入ったりと、なかなか大変だ。
憲兵特設テントの所には、ひっきりなしに迷子がやって来る。
おっ、チャルシー長官自らあやしだしたが、チェルシー長官の顔を見た子供は更に泣き出す。
ちょっと、長官に同情するな。
今年もまずは、大道芸人たちから始める。
今年の司会は学院の芸能希望者の中で、話術を専攻している男女で行っている。
やはり、専攻しているだけあって、ガルンハルトさんよりはうまい。
軽快な口調で進行していく。
大道芸の跡は、学院の体操部による体操演技だ。
特に獣人は身体能力が高いので、体操演技にはうってつけだ。
球乗り、バック転、バランス、力技、どれをとっても見とれてしまう。
最も、これはサーカスとして今後もやって貰いたいところだ。
それが終わると、いよいよだ。
まずは『トウキョーボーイズ』から出てきた。
センターにホーゲンがいるが、あいつは何だか大人びて見える。胸元まで開いたシャツが男の色気を感じさせる。
さっきから女の子の黄色い声が耳をつんざく。もう、歌なのか、女性の声なのか分からない程だ。
女性のアンコールの声が飛び交っているが、それを気にせずにさっさと舞台袖に引っ込んでいった。
なんか冷たいやつだな。
次に出てきたのは男子垂涎の的、『サクラシスターズ』だ。
今回のセンターはサリーちゃんだ。その後ろにはソウちゃん、マリンちゃん、イリちゃんも居る。
この4人は神シスターと呼ばれて特に人気が高い。
歌と踊りが始まると女子の黄色い声に変わり、今度は男子の野太い声が会場を占有する。
「サリーちゃーん」
「ソウちゃーん」
「マリンちゃーん」
「イリちゃーん」
順番に呼ばれていくと、呼ばれた本人が手を振るので、更にヒートアップする。
「えーと、ここからコラボレーションです。カモン、『トウキョーボーイズ』」
MCのサリーちゃんが言うと、舞台袖から『トウキョーボーイズ』が現れた。
女子の声が上がる。
「きゃー、ホーゲンっ」
ホーゲンが手を振ると女の子が失神した。
すかさず、憲兵が女の子を連れ出し介護する。
ざわついていた会場が静まると、サリーちゃんとホーゲンの掛け合いだ。この二人は小さい頃から一緒だったので、息もぴったりの会話が続く。
「僕たちは、以前はキバヤシの工場が建つ前の古い倉庫で暮らしていて、冬なんか隙間風が入るので、サリー姉さまやマリン姉さまたちと、固まって暖を取ってましたね」
「そうだったわね。あの頃のホーゲンはまだ可愛かったのに、今ではこの私に口応えなんてしちゃいますからね」
「いや、僕もまだ命は惜しいので、そんな事はしません」
どっと、会場が沸く。
「でも、そんな時だったわね。キバヤシ会長が、見つけてくれて、お腹が空いているからとおにぎりをくれたわね」
「そうそう、あの時のおにぎりは本当に美味しかった。その後、僕らはキバヤシ会長から寄宿舎をあてがって貰って、今ここに居る訳ですからね」
「私たちにとっては、会長は父であり、兄である訳ですね。次の曲はそんな会長に捧げます」
サクラシスターズとトウキョーボーイズの合唱でバラードが流れると、この場に居た全員が涙ぐんだ。
そういう俺も、涙が溢れそうだ。
「シンヤさま、シンヤさまのやった事は間違いじゃなかった。今、私はそう思うわ」
「そうです。ご主人さま」
「旦那さまに会わなければ、私は今でもバカな公女として過ごしていたでしょう。ですから、私は旦那さまに感謝しています。
そして、これからも末永くよろしくお願いします」
サクラシスターズとトウキョーボーイズが消えると次はファッションショーだ。
アップテンポの曲に合わせ、ミュ・キバヤシの店員や学院の生徒がモデルになって登場する。
今夏は男性服も披露したため、ホーゲンたちもモデルとして登場した。
最近の服はアイラちゃんも進化しているのか、現代風の服に近くなっている。
そして、ファッションショーの最後はウェディングドレスだ。今回は二人登場してきた。
しかし、登場してきた二人に見覚えがない。会場の中からも「誰?」という声が聞こえる。
サクラシスターズにも店員にも居ない。
「あの二人、どっかで見たような?エリス誰だか分かるか?」
「何、言ってるの。ミドゥーシャとルルミじゃない」
ええっ、二人とも化粧しているが、あんなに美人だったけ?女性は怖い。
そして、翌日は俺の誕生日であり、ゴミ0の日だ。
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