第151話 日常

 トウキョーに戻ってから、毎日あちこちに出かけている。

 公道1号線が出来てから、公都まで行くのが近くなったこともあり、1日おきに公爵さまの所に顔を出している。

 もちろん、子供たちを連れて行くと、公爵さまが喜ぶので、3人の娘も一緒だ。

 しかし、三つ子なだけに父親の俺には全員同じ顔に見える。

 嫁たちにそれを言うと、なんで分からないかと非難されるが、分からないものは仕方ない。

 公爵邸に顔を出していると、ここでも久しぶりの人物と会った。

「お館さま」

「エミールじゃないか」

「お館さま、戻られたのですね」

「ああ、エミールも無事そうでなりよりだ」

「奥さま方も、ご健勝でなによりです」

 嫁たちもエミールと言葉を交わす。

「ところで、エルハンドラさんたちが、まだ帰って来ていないと聞きましたが……」

「そうなんだ。それで一人使いを出したところだ」

「ミドゥーシャとルルミが居るから大丈夫だと思いますが、何かに巻き込まれていなければいいですが…」

「アホの子ほどかわいい」というのは別に親を指す諺ではないようで、エルハンドラのことを会う人、会う人から聞かれる。

 あいつは、確かにアホだが、憎めないものを持っているので、人気があるのかもしれない。

 そして俺は、公爵家の婿という立場での仕事と商人としての仕事で忙しい。

 公爵家の方は最初は俺と距離を置いていた貴族連中も、ハルロイドとの紛争やツェンベリン領を落とした事で、武力を持って敵対するのは損だという事が分かったようで、最近はみんなが擦り寄って来るようになった。

 特に下位貴族の男爵とかが、何かあれば寄って来る。

 それはエミールも同じようで、俺とどうにか顔を繋ぎたい男爵家がエミールに面会を申し出ているようだが、エミールはそれを承知しているので、俺に迷惑が掛かると思っているのか、言って来ない。

 そういう点、エミールは聡い。

 商店の方は、窓ガラスが好評で、この公爵邸の窓もほとんどがガラスに変わった。

 もちろん、俺の自宅は既にガラス窓になっている。

 その俺の自宅を見た公爵さまが公爵邸の窓をガラスにしたため、今では公都中にガラス窓が広がっているが、それでも貴族や大商人クラスでないと窓ガラスに出来ない。

 ところが、学院はさっさと窓をガラスにしたので、今ではトウキョーのシンボルのようになっている。

 公都からトウキョーへの1日ツアーなんてのもある。

 もちろん、こちらも我がキバヤシコーポレーションが手掛ける旅行ツアーの商品だ。

 このツアーはキチン車による送迎と、トウキョーの街見物、学院や工場見物、それに工場の食堂を使った食事の提供もある。

 しかも、格安でやっているので、今まで旅行なんていう娯楽を知らなかった公都民にすれば青天の霹靂みたいなものだ。

 しかし、リピーター用に趣向を変えたツアーも計画する必要があるだろう。

 そんな繁忙の俺をセルゲイさんとスパローさんが尋ねて来た。

「ようこそ、セルゲイさん。シュバンカさんはどうですか?」

「シュバンカのお腹も大分大きくなって、あと2か月で生まれるようっす。ガハハ」

 出たよ。ガハハと笑う声が。やっぱり、嬉しいのだろうな。

「それで、今日来たのは、外洋航路の船を建造中なのは会長も知っていると思いますが、ゴムを引き取りに行くのに、外洋航路の船が出来るまで待っている訳にもいきません。

 ですので、今ある船を改造して外洋航路用にしようと思い、改修中なんですが、こちらもあと2か月ほどで完了する見込みです」

 さすがだ、俺もそれを考えていたが先に手を打っていたとは。

「それで、船員の訓練とかをやってから、サザンランドに向けて出港したいと考えています」

「分かりました。それについては、セルゲイさんにお任せします」

「最初の航海は航路を開く目的もあるため、スパローに行って貰うつもりです」

「スパローさん、危険な航海になるかもしれませんが、よろしくお願い致します」

「会長から、そう言って貰えると元気が出ます」

 サザンランドへの最初の航海には、キバヤシコーポレーションの製品である服、靴、ガラス製品、バッグなど様々な物を持って行く事とした。

 それらはサザンランドに居る、ヘドックやボントスに売って貰う予定だ。

 サザンランドとの交易の話が終わり、セルゲイさんたちが出て行くと入れ替わりに入って来たのは、アールさんとガルンハルトさんだ。

「会長、今年の秋も例のアレをやりますか?」

 例のアレとは、ファッションショーの事だ。

「そうだな、公都の名物にもなっているし、止めると言ったら、俺は公都中の男と女から総スカンを喰ってしまう」

「分かりました。それでは、今年も開催の方向で進めることとします。早速、公都中とトウキョーにポスターを出します」

「ところで、アールさん、ガルンハルトさん、トウキョーに劇場を造りたいと思っているんだが、どうだろう」

「劇場とは何でしょうか?」

 こちらには娯楽というものがほとんど無い。

 劇場と言っても分からないのは仕方ない。

 俺は劇場について説明する。

「なるほど、つまりファッションショーを毎日するという訳ですか」

 いや、あながち間違ってはいないけど、そのもう少し言いようって物があると思うが。

 もちろん、この劇場での観戦も旅行ツアーに組み込まれる事になる。

 では、劇場の出演者はと言うと、一つは大道芸人、ふたつ目は学院の生徒の中で芸能志望の子で行う。

 学院の女学生が、ファッションショーの前座として踊りと歌を披露してから、やってみたいと思う子が学院に入学するようになったためだ。

 その子たちの進路も考えてやる必要がある。

 それを受け、教会前広場に隣接するように劇場の建設工事が始まった。

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