第149話 ウーリカ

「それは俺の友人たちが、今ハルロイド領に滞在しているということだ」

 そこまで言って、ウーリカを見るが、チラっとこっちを見ただけで相変わらず黙ったままだ。

「そこで、お前と取引がしたい。

 ハルロイド領に行って、俺の友人たちを探し出し、連れ帰って欲しい。

 もちろん、代償は払う。それはお前の身の自由だ」

「そんな話、信用するとでも?」

「なんだ、ちゃんと話せるじゃないか。

 信用して貰えないと話が、先に進まないんだが」

「釈放すればそのままどこかへ行くかとか考えないのか?」

「考えないな。どこかへ行っても、王国内であれば手配され、獣人として生きて行くのも難しくなる。

 それより、晴れて自由になる方が良いではないか」

「反対に、連れて帰って来ても、その場で死刑となる可能性もある」

「最後まで付き合って貰わなくてもいい。エルバンテ領に入った時点で、好きなところに行けばいい」

「それでも手配される可能性がある」

「エルバンテは獣人が多い。そこで不誠実な扱いをすると、獣人に俺の悪評判が伝わるだろう。

 俺は商人でもあるので、悪い評判が広がると、商人としてやっていけなくなるからな、俺も評判の落ちる事はしたくない」

「なるほどな、一理あるな」

「一番の理由は、お前が俺に恨みを持って、殺害しようとした訳ではないと言う事だ。

 お前は奴隷として、命令された訳だから、ある意味仕方なかったのだろう」

「……」

 ウーリカは、また黙った。

 牢番に鍵を開けて貰い、ウーリカを外に出すが、大人しくしている。

「それでは行こうか」

 長官室の隣の部屋で、チェルシー長官と憲兵隊長のアルジオさんを交えて話をする。

「それで、連れて帰って欲しいのは、エルハンドラという男、ルルミ、ミドゥーシャという女二人の3人だ。全員20歳ぐらいで、しかも全員美男、美女だ」

「その女たちは、お前の妾かなにかか?」

「違うわ」

「ご主人さまが妾をどうしても所望されるなら、ミュとしては異論はありません」

 ミュが怒っている。

「子供が生まれたばかりなのに、そんな妾なんて、旦那さまは何が不満なんですか?」

 毎日、回数が多すぎる事が不満かな。

 心の中で反論するが、勿論口に出して言えないのは、世のお父さんたちと同様だ。

「エルハンドラは、ある伯爵家の跡継ぎで、預かっている。女二人は情報収集担当だ」

「なんだ、やはりそっちの方の女じゃないか」

「違うわ」

「違います」

「そうだったんですか?」

 ラピス、夫を信じろ。

「これが、渡航費用とエルバンテ公と俺の署名がある通行許可証だ。これがあれば、王国内を問答無用で行き来できる。

 ただし、ハルロイド領についてはどうなっているのか分からないので、通行できない可能性もある。

 あと、アジェラまでは船も使える。アジェラから先は自分の足で行って貰うしかないが……」

「分かった。この依頼、受けよう。で、依頼者の事は何と呼べばいい?ご主人さまか?それとも、旦那さまか?なんだったら、あなたでもいいぞ」

「「「ダメです!」」」

 嫁3人が猛烈に反対してきた。

「会長、またはお館さまと呼ぶように」

 俺に代わってラピスが答える。

「分かった。では、会長と呼ぶ事にしよう。それで、後の特徴は何かあるか?」

「3人とも馬に乗っていると思われるが、情勢が代わっているので、もしかしたら、手放しているかもしれん。

 それと、エルハンドラの剣の腕はなかなかのものだ。ただ、頭はアホだ」

 その言葉を聞いて、ウーリカが笑い出した。

 ウーリカの笑う声を始めて聞いた。

「ははは、会長は面白いな。そいつはアホなのか?」

 どれだけアホかと言う事を、俺に代わって、エリスが答えたが、その話の内容が可笑しくて場が和む。

「そうか、そんなにアホなのか。ところでエリスと言ったか、お前はアホじゃないのか?昔から、胸の大きな女は頭が悪いとか言うだろう」

「ちょっと、失礼ね、私は決して胸は大きくないわ。人より立派なだけよ」

 いや、十分大きいと思う。

 それに俺は知っている。

 食事の時に、乳をテーブルの上に乗せているのを。

 しかし、そんな諺があったのか、エリスがちょっと駄女神なのも頷ける。

 ウーリカに3人の特徴を教えて、旅の資金、道具、武器を渡す。

「明日の朝、一番の船で出るといい」

「いや、船がまだあるなら、直ぐに出よう。会長も気が気でないだろう」

「そうか、悪いな。それでは頼む」

 ウーリカが、港行きの馬車の停泊所に向かって歩いて行くのを長官室の窓から見送った。


「シンヤさま、ウーリカってなんだか普通の女の子みたいだわ」

「そうです。暗殺を請け負っていたからもっとこう、薄情かと思いましたが、至って普通の感じでした」

「ただ、第四夫人には、このエミリーが居るので、第五夫人ならよろしいかと思います」

「「「却下」」」

「エミリー、いつの間に来ていた?」

「所要で、街に来たら、憲兵庁舎に入るキチン車を見かけたので、来てみました」

「お前には感心するよ。ハルロイド領には、ウーリカより、エミリー、お前を行かせた方が良かったかもしれないな」

「ご命令とあれば、このエミリーどこへでも行きます。それでは、この結婚届にご署名を」

「「「却下」」」

 どさくさに紛れようとしたエミリーの提案は、直ちに却下された。

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