第147話 みんなの顔

 教会から寄宿舎へ転移する。

 寄宿舎の食堂に現れると、ちょうどルルシィさんとマルガさんが居た。

 二人ともいきなり現れたので、びっくりしている。

「こんにちわ、驚かせてごめんなさい」

「ええ、ちょっとびっくりしましたけど、大丈夫です」

「ところでアロンカッチリアさんは?」

「塾長は畑の方に行っています。学院が出来て、就学年齢に達した子供たちは学院に入学したので、子供たちがいなくなりましたから」

 見ると子供たちは10人もいない。

 サリーちゃんたちと始めた頃に近いだろうか。

 それでも、年齢は4歳以下なので、ほとんど赤ちゃんで働く事はできない。

 今の男手は、アロンカッチリアさんだけなのだと言う。

 寄宿舎を学院に統合するのは簡単だ。

 しかし、今だに捨てられる子供もいる。

 寄宿舎を無くすると、その子たちの行き場がなくなる。

 だが、現状では維持していくのが難しいだろう。

 そういえば、キチンを育てて販売していたが、どうしているのだろうか。

「キチンの販売はホーゲンたちがいないとできないので、学院の方に移管しました」

 ルルシィさんが答えてくれた。

 そんな話をしているところへ、アロンカッチリアさんが帰ってきた。

「おおっ、シンヤ、戻って来たのかい」

「ただいま、かなりの期間、開けてしまいました。

 話は、ルルシィさんたちから聞きました。

 子供たちが学院の方に行って、子供の数が少なくなったとか」

「こんな寄宿舎はないにこした事はねぇ。しかし、まだ必要とされているのも事実だ。まあ、ぼちぼちとやって行くしかねぇが……」

「しかし、広い土地に反し、人手はいないんですよね」

「そうだな、キチンもここではやっていけないので、学院の方に移したんだ。収入の目途もなくなっちまった」

「それなら、学院の組織に入りませんか?

 今の低学年の下の保育院に寄宿舎を統合して、この畑とかは学院の資産とすることで学院の生徒たちに管理させます。

 中には、農業とか畜産を志す生徒もいるでしょう」

「なるほどな、うん結構いい案だと思うぜ。ルルシィとマルガはどう思う?」

「ええ、いい案だと思います。私たちはこのまま、子供たちと居る事が可能なんでしょうか?」

「もちろん、そのつもりです」

「それなら異論はありません」

 これで、寄宿舎と保育院の統合が決まった。

 このまま、アロンカッチリアさんと一緒に学院の方に転移する。

 学院長室に現れた俺たちに、エルザさんがびっくりしている。

「会長、いつもいきなりですね」

「ごめん、ごめん、アロンカッチリアさんは既に紹介の必要はないよね」

 寄宿舎の事と学院との統合の事をエルザさんに話すと、

「お話の内容は分かりました。私もその方がいいと思います。

 寄宿舎で開拓した土地については、実習とかで使用するには最適でしょう。

 とすると、一つお願いがあります」

「何でしょうか?」

「学院長はアロンカッチリアさんにして頂きたいです」

「ちょっと、待て。俺は学がねぇ。そんな大層なものは無理だ」

「今まで寄宿舎を立派に、やってこれたのはアロンカッチリアさんのお蔭です。

 それは、寄宿舎出身の子供たちを見れば分かります。

 そんな人が学院長になるのは当然の事です。私もお手伝いしますから」

「では、アロンカッチリアさんを学院長、エルザさんを副学院長という事でどうでしょうか?」

 アロンカッチリアさんは首を傾げていたが、

「分った。事務仕事はエルザさんが、やってくれるというのなら、そうしよう」


 ちょっと先の話をしよう。

 アロンカッチリアさん、エルザさんとの話し合いから、学年の途中であったが、保育院を創る事になった。

 学院内に建物の増設を行い、寄宿舎に居た子供たちがこっちに移ってきた。

 カリーちゃんは寄宿舎の弟、妹が来たので嬉しそうだ。

 直ぐにお姉さんぶって、いろいろ教えている。

 今ままでの寄宿舎の方は農業実習の時の宿泊所として活用する事が決まった。

 それと戦争とかになった場合の、いざという時の避難場所の役割も成す。

 これは先のハルロイド領との戦争での教訓だ。


 話を元に戻す。

 アロンカッチリアさん、エルザさんと話をした後、工場、研究所の方へ顔を出すと、やはりみんなが来てくれた。

 服の方はアイラちゃんがいろいろなデザインの物を考案している。

 アイラちゃんデザインの服は着心地もいいので、売れているそうだ。

 戦争が勝利に終わった事もあり、景気もいいかもしれない。

 もちろん、靴やバッグ、下着も好調だ。

 下着と言えば、ゴムの使い勝手はどうだと聞いたところ、なかなか好評とのこと。

 ただ、次の手配をしないといつかは在庫もなくなる。

 研究もサロイデリア、ルネサス、カシー、ザンジバルたちが開発した装置の改良や新製品の開発を行っていた。

 その中に一人見覚えのある顔がある。

 あれは、木工屋のオヤジのイルクイントではないか?

「イルクイントさん、久しぶりですね。どうしてここに?」

「おお、あんたはあの変な人形の注文に来た男じゃねぇか、あんたこそ何でここに?」

 へ、変な人形?まあ、たしかに間違ってはいないが……。

「いや、俺はキバヤシコーポレーションの会長だからね」

 イルクイントさんが周りを見回すと、みんなが頷いている。

「え、ええっー、か、会長さんで、これは失礼しました」

「それで、何故ここに」

「いや、人形作りで食べていくのは結構、た、大変で。

 そ、それで、この会社の試験を受けたんですが、どうにか受かって、一応、し、新人でやって、お、おりゃます」

 俺が会長と分かった途端、噛んでるよ。

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