第89話 戦争準備
約2週間後に、アリストテレスさんから調合が出来たとの連絡があった。
俺はその間、軍議や店の移動に関わっており、暇にしていた訳ではない。
崖上に運ぶ、油樽は40樽ほど用意できたが、油自体が高額なため、かなりの費用が必要となったそうだ。
軍議に出席している人の中にスパイが居るかもしれないので、公費は使わずに、エルバンテ公のポケットマネーで揃えたそうだ。頭が下がる。
それをエルバンテ公に言うと
「なんの、なんの、もし失敗すれば孫の顔も見れなくなると思えば安い買い物じゃわい」
とか言ってくれた。
出来た火薬は桶に入れられている。
これを竹に詰め、火薬を塗した糸を導火線として火を点けるとダイナマイトのような形になった。
これって火を点けるとロケットにならないだろうな。
早速、砂漠地帯に転移して試験をしてみる。
出席者は、俺とミュ、エリス、アリストテレスさんの4人だ。
早速、ダイナマイトに火を点けてみる。
すると物凄い爆音とともに砂が舞い上がった。
「うっ、ぺっぺっ」
「ひどーい、ちゃんと風向き考えてよ」
エリスが文句言ってくる。
「いやー、酷い目に合いましたが、取り敢えず成功です」
アリストテレスさんのおかげだ。
4人とも砂まみれになるが、成功だ。
そして、もう一つ試す物がある。
今度は、ダイナマイトより大きな竹筒に羽をつけてある。
そう、ミサイルだ。
ミサイルとして飛ばすには、火薬の燃焼方法が難しい。
ミサイルに点火すると勢いよく上空に飛び出した。
こっちも成功だ。
そして、ミサイルの先端にダイナマイトを取り付けて飛ばす。
ミサイルは2kmくらい先まで飛び、ダイナマイトが爆発した。
今度は遠かった事もあり、砂まみれにはならなかった。
この結果から量産体制に入るが、調合の秘密厳守のため製作は俺とミュ、エリスにアリストテレスさんに限定した。
製作目標はダイナマイトが200本、ミサイルが50体である。
火薬の調合と詰めるのに慎重を期するため、作業効率は悪い。1日にダイナマイト10本、ミサイル5本がいいところである。
20日後、ダイナマイトとミサイルが目標の200本と50体になった。
戦争開始と思われるまで、後1か月程だ。
そうなるといろいろと忙しくなる。
まず、オープンしていた2号店だが、閉店し、従業員と家族をトウキョーに避難させた。
この時点でキチン車を引けるキチンも5羽増え、全部で10台のキチン車が用意できていたので、かなり迅速な移動ができるようになっている。
そして、崖上の前哨戦である。
この時期に占領しなければ、準備ができない。
メンバーを確認する。
俺とミュ、エリス、アリストテレスさん、ミスティ、ミント、ホーゲン、ポール、ウォルフ、それにセルゲイさん全員で10人である。
セルゲイさんは剣と弓の名人なので参加して貰う事にした。
月のない夜。エリスの転移魔法で、崖のかなり後方に転移する。
転移した瞬間、獣人たちがみんな嫌な顔をした。
「どうした?」
「シーハの葉の臭いがします」
どうやら魔物除けとして植えたみたいだ。
「大丈夫か?」
「大丈夫です。どうにか我慢できます。行きましょう」
音を立てずにみんなで進む。月がないので真っ暗だが、獣人たちとミュは大丈夫みたいだ。
俺、アリストテレスさん、セルゲイさんはミュに掴まって進む。
崖の淵のところにテントのような物が張ってある。
その周りには見張りと思わしき兵士が3人程居る。
「ミント頼む」
ミントが手を広げると何やら白い霞のようなものが出ていくのが分かるが、だんだん空気に混じり、透明になる。
こちら側が風上なので、匂いはまったくしない。
そのうち、見張りたちが眠りだした。
一番、近くにあるテントに近づき、そっと帳を開ける。
「今度はミスティ」
ミスティは胸の前で手を組む。
すると、テントの中に寝ていた5人の兵士が起き出し、鎧を着だした。どうやら戦闘開始と思っているようだ。
隣のテントも同じようにする。
5張りのテントで兵士を幻惑させると武装した兵士たちが、まだ寝ている兵士たちに向かって切り掛かる。
いきなり奇襲された方は堪ったものではない。抵抗らしい抵抗もせず切り殺された。
切りかかった兵士は今度は次から次へと崖上から川に飛び込んで行く。
見張の3人の兵士も同様に川へ飛び込ませる。
ミスティの魔法の威力は凄まじい。
結局、こちら側の犠牲は一人も出さずに相手方50人の兵士を始末した。
「それでは次行きます」
残った兵士たちの鎧を人型に作った木に着せていく。
つまりは案山子だ。こうすれば、後1か月ハルロイドの兵士たちが崖上に居るように見えるだろう。
「よし、終了だ。監視用水晶を設置して引き上げるぞ」
ミュが監視用水晶を木の枝に設置する。
こうすると、ミュの占い用水晶でこの場所をいつでも監視できる。
次の日からエリスが転移魔法で工作兵50人を崖上に転移する。
奥にある竹林から竹を切り出し、投擲機の製作をすると同時に、油樽40樽も転移させる。
そして、戦争準備をしていた1か月が過ぎ去った。
後は、いつ来るかが問題だ。
農作物は多少早かったが、刈り上げて食物倉庫に入れてある。
例年より多少石高が少ないが仕方ない。
エルバンテ領全体が緊張に包まれている中、司教が公爵邸に走り込んで来た。
「今、ハルロイド領の教会から連絡がありました。
ハルロイドの港という港から船が出たそうです。その数全部で55隻」
「いよいよ、来たか。全員戦闘準備」
エルバンテ公の声が響く。
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