異世界で最強の妻を娶ったら…

東風 吹葉

第1話 転生

「ごめん、嫌いになった訳じゃないの。他に好きな人が出来ただけで。本当にごめん」

 そう、今日俺は振られた。大学を卒業したらどこか会社に入って、2年ぐらいしたら、プロポーズしようと思っていたのに。

 その人生の計画は今日で崩れ去った。

 失恋ってこんなに辛いものだったのか。

 どうすればいいんだ。人生に疲れていたのか。

 本当にどうすればいいのか、分からない。

 もし、彼女が直ぐに目の前に現れて「ごめんね、冗談だったんだ」と言ってくれればどんなに嬉しい事だろう。


 でも、そんな望みもない。

 相手は、バイト先の同僚だって?いつから付き合ってたんだ。

 いつから、別れようと思っていたんだ。

 なんだか、俺はピエロだな。

 ふと、気が付くと公園のベンチもかなり薄暗くなっており、さっきまで遊んでいた子供の声も聞こえなくなっていた。

 どうする?とりあえず帰るか。

 今日は腹も空かない。


 立ち上がろうとしたその前に、ふと一人の人影が写った。

 そして、そのまま目の前の人を見上げてみて驚いた。

 プラチナブロンドの外人だ。しかも、かなりの美人。

 前の彼女が霞むぐらいに…。

「ええっ?」

「どうかされました?ひどく落ち込んでいるように見えましたが?」

「えっ、い、いや、ちょっとショックなことがあったもので……」

「そうですか、それでどうでしょう、嫌な事を忘れるために他のところに行ってみるというのは?」

 なんだ、これ、新手の詐欺か?

 そりゃ、美人だから鼻の下は長くなるけど、いくらなんでも、こんな時でもそんな手にはひっかからねーよ。

 一応、話を合わせてみるか。

「旅行ですか?」

「いえ、旅行みたいなもんでしょうかね」

 どっちなんだよ。旅行詐欺なのかよ。

「申し訳ありませんが、今旅行にいける程の余裕もないし、時間もないので参加はできません」

 まあ、とりあえず却下だ、却下。

「いえ、代金とかは、いりません。ただ、人生をやり直す事になるのですが……」

 へっ、今、何て言った。人生をやり直すだって?

 なんだ、宗教の勧誘か。

 そうだよなー、美人が一人で来たりするなら、やっぱそっちだよなー。

「ああ、俺は宗教には興味ありません。神を信じるかと言われれば、お金の紙なら信じますけどね」


 う、うざい、宗教うざい。はっきり、断ろう。

 くそっ、失恋している男にこれ見よばかりに声を掛けよって。

「いえ、宗教の勧誘でもありません」

「ほう、では何の勧誘ですか?」

「実は私は天空から見ていた女神ですが、あなたが振られたのを偶然に目にして、あまりに落ち込んでいるようでしたので、何とか力づけようかと思いまして…」

 ええっ、そんな話信じられるかい。もっとましな嘘をつけよ。

 これなら、遅刻してきた彼女が「ごめん、途中で宇宙人に遭って、世間話してて遅くなっちゃった」と言った方がよっぽど信頼性があるわい。

 よし、それなら。

「そうですか、それでは今からデートして下さい」

 こんな美人ならデートしてみたいもんだ。傷心も癒やされるだろう。

「ごめなさい、この世界にいれるのは10分ぐらいなんです。なので、率直に言いますね。

 今から異世界に行ってみませんか?そこで、新しい人生を送ってみませんか?」


 なんと、チートな。ここは秋葉原じゃねーぞ。

 こうなりゃ、やけくそ。

「そうですか、分かりました。女神さまの言う通りにしてみます。どうすればいいんですか?」

「では、私の手を握って下さい」

 俺は指し出された右手を握った。

「では、行きます」


 ふっと、気が遠くなって、気が付くと何もない白い部屋だった。

 壁があるのかどうかも分からない。

 霞なのか雲なのか、とにかく目に見える範囲すべてが白いだけの部屋だ。

 いや、部屋かどうかさえも分からない。

 目の前には手をつないだままの女神さまがいた。

「ええっと?ここはいったい?」

「ここは天界です。今から、異世界へお送りします。そこで人生をやり直すことができます。

 ですが、何もないといきなりの世界でお困りでしょう。

 そこで、異世界に行くにあたって、1つだけ願いを叶えてあげます」

 ええっー、ええっー。どういうこと?

「1つの願いって正直、良くからないんですが……、異世界の言葉を理解するなんてのは願いの一つになるんですか?」

「基本的に生活するのに困らない限りの能力は付与されますので、言葉の問題はありません」

「じゃ、願い事100まで叶えられる事なんてのは?」

「できますよ。ただし、願いが叶えられるのは、この天界のみになります。なので地上に降りたら、何も願いは叶いません」

「じゃあ、どういう願いならいいのでしょうか?」

「この天界で身につけられるものと言った方が良いかもしれません。例えば、剣がうまいとか、魔法が使えるようになるとか、幸運になるとか、健康だとか」

 えっ、今なんて言った。魔法?

「魔法が使えるんですか?」

「使えますよ。ただし、属性が3つだけになります。もっとも、それ以外は地上に降りてから訓練しても使えるようになりますけど」

 なになに、転生して直ぐに使えるか、それとも後から使えるようになるかの違いってことか。

「それは訓練次第で、強い魔法を使えるようになるということですか?」

「そうです。0から始めるか1から始めるからの違いですが、最初の0と1の差は大きいですからね。それは剣術とかも同じですね」

 そうか、結局、転生してもいきなり、勇者さまって訳じゃないのか。

 うーん、どうするかなー。と思っているとふと、別れた彼女の事を思い出した。

 今度は、彼女とラブラブな生活を過ごしたい。でも、どうすれば……。

 そういえば、彼女を抱いてもいつもマグロだったな。それが原因だったのかなー。

 よし、それじゃ。

「では、願いとして、私が見つめた女性は、私の事を好きになってくれる、というのを希望します」

「……いいんですか?そんな願いで?地上に降りたらキャンセルはできませんよ」

「はい、いいです。ところで、転生ってどこに転生されるのですか?」

「ごめんなさい、地上のどこかとしか分からないんです。ランダムに転送されるので……、ただし、地上であることは確かです。多分?」

「ええっ、た、多分ですか?」

「それでは、転生します、お気をつけて」

 って、おい、「お気をつけて」ってなんだよ。

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