メリークリスマス

メリークリスマス。


呟いた声は、白い息になって。

空に吸い込まれた。



一年に一度だけ、あなたに近づく日。

清らかな夜だから。

聖なる夜だから。

この祈りも届くと信じたいから。



ひっそりとした礼拝堂に跪き、祈りを捧げる。

古くなったフローリングの床は、動いたわけでもないのに、ひとりでにミシミシと音を立てる。


あなたが、近くに来てくれている証のような気になって。

僕は瞳を閉じた。



メリークリスマス。


今年もこの日がやってきたよ。


あの日、間に合わなかった僕を、あなたは待ってくれていただろうか?

あの優しい笑顔で、許してしまっていただろうか?



返ってくることのない問い掛けを、毎年繰り返すだけの僕には、この一日が。

一年で何より悲しく、何より愛しい日。


いつかあなたに届けられるだろうか?



メリークリスマス。


また来年も祈りを捧げよう。

あなたに、あなたの魂に届くよう…



重い扉を開けると、鉛色の空から白いものがちらつき始めた。


夜がじんわりと街に染み込んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る