第57話階層主との闘い

「フハハハハッ、よく来たな愚かな冒険者……」


「氷結系放て!!」


 アキが叫ぶ、


「『氷結槍地獄』行きます」


サアヤが『氷菓』と共に唱える、部屋中の壁や床を凍り付かせて、氷の氷柱が『ゴールデンアップルラビット』を串刺しにしていく、


「『氷の嵐』!!」


コウイチが気障に呟くと眼鏡がキラリと光る、氷の礫を含んだ竜巻がその範囲の『ゴールデンアップルラビット』に孔を穿ちながら凍り付かせる。


「『氷結結界』いくよーー」


タイチが緊張感のない明るい声でいう、地面に魔方陣が浮かび、その上に居る『ゴールデンアップルラビット』が瞬時に氷の彫像と化す。


「みんなやるねえ、『雪花乱舞』」


 ナツオが雪の精霊と共に叫ぶと光の奔流が部屋の中に広がり、それが巨大な綺麗な6角形の雪の結晶を生む、その結晶が部屋の中を舞い散り、触れるものすべてを凍り付かせる。


「くっ、負けてられないわね! 先輩としての威厳が! 『雪崩氷結陣』」


 マコが氷の精霊と共に叫ぶ、結構気合を入れているのか、普段より厳しい顔だ。目の前に雪の壁が生まれ、それが部屋の中の『ゴールデンアップルラビット』に雪崩の様に襲い掛かる。


「『雹霰爆裂地獄』!! ねえこれサアヤちゃんに勝つの無理じゃない?」


 ミホが弱気に呟く、確かに範囲はサアヤが上だが、威力はミホも負けていない、天井付近から降り注ぐ大小の氷の礫が、『ゴールデンアップルラビット』に無数の穴を穿ち、そして凍り付いていく。


「くぅ、この礼儀知らずの冒険者共が!! 口上の……」


喧しいやかましい!」


 苛立だし気にタツオが斬撃を『ゴールデンアップルツリー』の樹の上に浮かんでいる球体に放つ。半月型の斬撃が飛んでいき、それが大きな半透明な球体の周囲を小さな5つの球体がくるくると回っている遠隔観察・音声伝達魔道具らしき物に当たると真っ二つに成って地上に落ちる。  


「ナイスよタツオ君、では続けて風系で残りを始末するわよ! 放て!!」


 アキがタツオにサムズアップしながら叫ぶ、メグミがタツオに、


「良くあの距離届いたわね? 『真空刃』じゃないわよね? なに?」


「ん? 『燕』の支援で空間断絶を前方に飛ばした『空絶波』だ、便利だろ?」


「ねえ『燕』って便利過ぎない?」


「良いだろ? ふふん!」


 タツオがドヤ顔で自慢する。メグミ達が雑談している間にも後ろでは、


「『烈風風刃結界』放ちます」


 サアヤが『風香』と唱える。部屋中に乱舞する真空刃が生き残りの『ゴールデンアップルラビット』を切り裂き、凍り付いた氷像を切り砕く、本体のツリーもその黒く染まった葉を散らし、枝を切り払われる。


「ちょ……連発でこの威力だと? 糞! 本体を狙うぞ『風刃』」


 コウイチは少し魔力容量が少ないのか目の前の氷像を切り砕きながら本体の『ツリー』に向かって魔法を放つ。


「流石に、ここまでの範囲魔法を連発されると凹むねえ、『風刃乱舞』」


 少しひきつった顔をしながらタイチは風の精霊と共に魔法を放つ、生き残りの『ゴールデンアップルラビット』に向かって複数の真空刃が飛んでいく。


「ハハハ、どんな魔力容量してるんだいサアヤちゃん? 僕も本体を狙うよ、『十字風刃槍』」


 ナツオは乾いた笑いを零しながら、『ツリー』本体の幹に大きな十字の傷を生む。


「ねえどうなってるの? くうぅ、もう敵が本体だけじゃない、『十字風刃槍』」


 マコが周りを見回し、焦りながら魔法を放つ、『ツリー』の幹に既にある十字の傷が更に深くなる。全く同じ個所に魔法をコントロールして当てている。


「ココ迄ね、ミホ魔法は良いわ、近接に切り替えます。前衛、本体を叩くわよ」


 アキが指示を出しながら本体の『ツリー』に突撃していく、


「斥候は生き残ってる魔物を探してトドメ! メグミちゃんとタツオ君は後衛の防衛! 前衛以外は魔力・精神力の回復と周辺の警戒、前衛に何かあれば即、支援が出来るように! その他の前衛はアキと私に続きなさい!」


アキの指示に対して、エミが細かい指示を補足して先行しているアキ、ヒトシに続く、更にミホ、ユカリ、レンが続いて突撃していく。シンイチ、アズサ、ケンタ、サオリが部屋の方々に散っていき、まだ少し動いている『ゴールデンアップルラビット』に止めを刺していく。


「むうぅ、お留守番とか不本意だわ」


「何かあった時の為の保険だ、腐るなよ」


「分かってるわよ……」


 そんな事をメグミとタツオが話し、アキ達が巨大な『ツリー』本体に後10メートルと迫った時それは起きた。突如として、『ツリー』の根が地面から飛び出しアキ達に襲い掛かる。


「え?? なんで?」


 不意を突かれたアキが驚き声を上げる。


「なんで『ツリー』が動くのよ! もしかして狂化が終わってる?」


 エミが根に拘束されながら叫ぶ。


「ねえ、『ツリー』て『ラビット』以外攻撃手段持ってないんじゃないの?」


「その筈ですが、狂化で進化したんじゃないでしょうか?」


 それを見ながらメグミとサアヤが話していると、


「こらーー! 後衛陣、なにのんびり雑談してるの、早く助けなさい!」


 とアキが叫ぶ、しかし『ツリー』の根は女性陣に絡みつきその位置を替え、本体との射線上に盾のように配置する。そして男性陣にはその無数の根で鞭や槍のように攻撃を加えていく。


「ねえ、この『ツリー』凄いわよ、知能が可成り高いんじゃない?」


 メグミが『ツリー』の分析をすると、サアヤが、


「確かに、人を盾のように使ってます。これでは本体に攻撃が出来ません」


「どうしましょう……ねえメグミちゃん、早く助けないと!」


 ノリコがオロオロしている、するとナツオが、


「ノリコちゃん達回復支援要員は先ずは前衛・斥候男性陣の回復優先だよ、女性陣は直ぐに命の危険はない。にしても『ツリー』の根による触手攻撃とはね、驚いたねえ」


「ナツオさん、そんなにのんびりしてて良いのかい? それに女性陣だって危険じゃあ……」


コウイチは焦りながらナツオに意見するが、


「コウイチ、落ち着きなよ、あの触手の動き、あれは命の危険よりってよりも、貞操の危機って感じだね」


タイチがなぜか嬉しそうに根に絡みつかれた女性陣を眺めながら言う。


「それこそ一大事じゃないですか? なんで男性陣はニヤついているんですか? 最低ですよ!」


 アスカが男性陣に『回復』を飛ばしながら抗議し、マコとハナが同意する。その前方ではアキ、エミ、ユカリ、ミホが触手に際どい拘束のされ方をしている、そこにアズサが捕まったのか根に連れられて加わる。サオリがハナの影から浮かび上がり、


「ヤバいわよ、あの『ツリー』どうなってるの? 根っこが嫌らしい触手みたいに動くのよ」


「おや、サオリちゃんは逃げられたんだね、どうするかな、あの位置じゃあ本体を攻撃できないし、見てよあの触手、人を盾にして触手自体も攻撃されにくく配置してる。それにあの動き……あれは多分、この街の改造魔物用のプログラムが使われているよ。あれ見た覚えが有るんだ」


ナツオが言うと、タイチが、


「ああ! 確かにこの街の触手系改造魔物の動きだ以前AVで見たよ、間違いないね」


「なんだ人が必死で逃げてきたのに、AVの話してるのか!」


「死ぬかと思ったよ、何だよあの『ツリー』ってなんだ? AV?」


「やあおかえり、無事で何よりだよ、シンイチ、ケンタ、見てごらんあの女性陣に絡みつく根っこの動き、あれは間違いないだろう?」


「ん?? お? おおおっ! 間違いないね、あれは改造魔物の動きだスゲエ、緊縛の胸の強調の仕方とか普通じゃああは成らない」


「うわっ、姉さん達スゲエ事に成ってんな」


 男性陣はこの緊急事態にも関わらず大喜びだ、


「くっ、どこ触ってんのよ、この糞『ツリー』、ああっちょ、待ってそこは……」


 アキが叫ぶと、エミが、


「コラ! 良いから早く助けなさい、ああっ、ダメよそんな、そこはダメええ」


「うくぅ、なんだこの魔物は、なんでそんな、うぅ、服の中に入ってくるな、くぅ、摘まむんじゃない」


「なんで、引きちぎれない、力が、ああっ、魔法も集中が、ああいやああぁ」


「耳はダメよ、ああ、ダメだったら、いやあ、早く助けてぇえ!」


 ユカリ、ミホ、アズサが悶える。


「ねえ凄いわ! 凄いわよタツオ、あれ欲しい! 持って帰ったりできないのかしら? くそおっ! 記録用にビデオカメラ用意してくるんだったわ」


「大丈夫だよメグミちゃん。僕が記録してるよ! 後でコピーしてあげるね」


何時の間に用意していたのかナツオの周囲には何やら撮影用らしき魔道具が3機浮いている。


「やるわね、ナツオ先輩、是非後で頼むわ!」


「なあメグミ、そろそろ助けねえと後で女性陣に殺されるぞ?」


 メグミの肩を叩きながらタツオが言う、ノリコが祈るように、


「ねえメグミちゃん、お願いよ、助けてあげて!」


「もうあの装置の回収とか無視して良いでしょう? ねえサオリさん達、アレ壊しますよ?」


 サアヤが宣言すると、サオリが、


「でも部屋の中は『ツリー』の根っこだらけよ? 近寄れないし、魔法の射線が通らないわ。距離も遠いし、範囲魔法ではあの装置の破壊は無理よ、さっきの範囲魔法でも傷が全くついてない。

 恐らく魔法防御の結界が張ってあるのねよ、物理防御の結界も張っていそうだし……私が『影渡り』で移動して直接攻撃しても破壊できそうにないわ、威力が足りない」


「流石にこの部屋を突っ切るのは無理だねえ、人が居ないところの根を『風刃』で切りながら少しずつ前進するしかないかな?」


 ナツオも撮影装置らしき魔法装置を弄りながら、救助方法を模索する。それを聞いたサアヤが、


「大丈夫です、メグミちゃんとタツオお兄ちゃんならあれを破壊できると思いますわ」


「そうね、メグミちゃんなら行けますわね、この距離なら余裕でしょ? 追撃はタツオ君が居れば行けますよね?」


「メグミ先輩、そろそろ本当に女性陣の貞操がヤバいですわ、行ってください」


アカリやサクヤも追従すると、2本の刀を構えたメグミが少し残念そうに、


「そうね、あんな木の化け物にあげるには惜しいものね、じゃあ先に行くわよタツオ、装置は壊すから木の方をお願いね、私は左に抜けるわ」


「分かったよ、俺は右に抜ける、切り終わったら出来るだけ離れろよ」


 メグミは微笑むと、その姿が消える、


 ピキッゴッロロオォ!!


 雷鳴を響かせプラズマの尾を引きながらメグミの姿は『ツリー』の根元に木の幹にめり込む様にある、装置の脇に現れる。直ぐ様メグミは回転するように左右の刀を振るい、キキンッと澄んだ音を響かせ、装置を豆腐の様に切り裂いくと左横に掛け抜けていく。

 同時にタツオは弾丸の様に空中に飛び出し、盾にされた女性陣の頭上を超え、そこで空中を足場に蹴り飛ばして軌道を修正し木の幹に迫りそのまま横凪に太い幹を切り払う。


 ズズズッ


その幹に斜めに一条の筋が走る、筋の上の幹が斜めにずり下がっていく、丁度その時、メグミの姿が再び掻き消え雷鳴とプラズマを伴いながら触手に捕えらえた女性陣の後ろに現れる。少し逡巡するように眺めてから、諦めたように、


「はあっ、ちょっぴり残念ですけど、此処までですね」


 霞む様な踏み込みで女性陣の周りを駆け抜けると、根が切り飛ばされて女性陣が解放される。タツオも再び弾丸の様に飛び出してヒトシとレンに襲い掛かっていた根っこを木の根の背後から切り飛ばす。後では黒い『ゴールデンアップルツリー』が大きな地響きと共に倒れ、魔素に分解されていく。

 その時天井付近に魔方陣が現れ、真っ二つに破壊され転がっている遠隔観察・音声伝達魔道具らしき物の同機が再び転送されてくる。


「糞冒険者共め、既にくたばっておるか? この装置が幾らすると思っておるのだ! まあ良い、これで……」


喧しいやかましい! しつけえんだよ!!」


 現れたばかりで何か喋り出していたところを、またもやタツオに一撃で真っ二つにされる。


「ねえタツオ? 既に装置も壊して『ツリー』も倒してんだから喋らせて情報収集しても良かったんじゃない?」


「あっ……まあ、何か言いたいことが有ればまた送ってくるんじゃねえか?」


「ねえ、メグミちゃん、たすけてくれありがとうね、先ずお礼を言うわね」


 タツオに話しかけるメグミに、アキが声を掛けその後ろには他の4人が顔を赤らめてメグミの後ろに立っていた、振り向いたメグミは、


「いやあ、そんなお礼なんて……」


「でもね、メグミちゃん、もっと早く助かられたわよね」


 振り向いたメグミはその5人の顔を見て固まる、エミがの顔は汗ばんで火照っているのか少し赤い、それは触手に弄られたからか?


「えーーと、怒ってらっしゃる?」


「んふっ、もうね少し手遅れだったのよ?」


「鬼人族の鬼の部分を御見せしたくて堪りませんわ」


「お仕置きが必要だと思うのよ、ねえ、メグミちゃん」


 恐る恐る尋ねるメグミに、ユカリ、ミホ、アズサが凄い笑顔で答える。


「あははははっ」


 誤魔化すように笑うメグミの姿が掻き消える、


「「「「「待ちなさいっ!! メグミーーー!!」」」」」

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