第3話 炎の魔法

 俺は幼い頃から「魔法」という存在に憧れていた。普通じゃ出来ないことも魔法が使えれば可能になる。そんな万能な力「魔法」をあったらいいなとそんな風に考えていた。






 しかし今俺の目の前に広がる光景は普通とは言えない。突然の爆発と立ち込める煙。そして、魔法使いを名乗るクラスメイトの山田ユナさん。魔法は空想の世界の存在じゃなかったのか。


「くそっ、一撃で仕留めるつもりだったのによ!わざわざ逃げんなよ!」


 薄れる煙の向こう側から男の声がする。さっきまで屋上には俺ら二人しかいなかったはずなのに。


「こっちも仕事なんでね、次は避けないでもらおうか!」


 声の主を探そうと辺りを見渡すが煙でよく見えない。するとまたしても足元に魔法陣が浮かび上がる。


(まずい)


「『爆破ヴィズル』!!」


 男が何かを叫ぶ。すると先程と同様に魔法陣を中心に爆発が起きた。俺らは爆発の直前で二手に別れ、炎に巻き込まれる事は回避したが、熱を伴った爆風だけは避けられなかった。


「あちい!!いきなり何なんだよ!!!」


「何だ、エネンが紛れてたのか。怪我したくなかったら失せな。」


 煙が晴れ視界が開けると、そこに現れたのは逆立った赤髪の若い男だった。ただ、服装からしてここら辺の人ではない事が一目で分かる。あんなコスプレみたいな格好を学校の屋上でしている人だ、相当ヤバイ奴だ。


「ヤバイ奴に出会したわね…」


 ユナさんもそう言ってる。ヤバイの意味が違う気がする。


 そんな事より、こいつ何処から現れた?


「もう一度だけ言うぞ、避けるなよ!」


 赤髪の男が叫ぶ。


 よく考えるとさっきから一方的にやられてるし、一方的に話が進んでいる。心無しか取り残された感が否めない。


 だったら抗えばいい。


「おい!お前!いきなり何してくれんだよ!お前のせいで床がぼろぼろになってんじゃねえか!どうしてくれんだよ!」


 確かに屋上の床が二箇所壊れている。けれど今気にするところか。言った後に気付く。


「そんな事俺の知ったことではない。」


(そうですよね…)


 あまりにも分かりきった回答だ。


 ちらりとユナさんの方を見る。怪我をしている訳では無いが床に跪いている。いくら魔法使いと言っても同い年の女の子だ。


 するといきなりユナさんが思いもよらない事を男に向かって口にした。


「床にしか「陣」の展開が出来ない「下級魔法使い」が、私に何か用?」


 まさかの相手を煽ったのだ。


(おいおい勘弁してくれよ…)


「それはお前が一番分かっていることだろ?!だから大人しく死ね!」


 ユナさんの足元に陣が展開される。


(まずい!)


「『爆破ヴィズル』!!」


 床に三箇所目となるクレーターが出来る。


(これ誰が弁償するんだよ)


 当のユナさんはと言うと、男が呪文を唱える直前にこちらに回避をしていた。けれど、熱風と煙でまたしても相手を見失う。


加木谷かぎや、あんたは逃げて」


 俺の耳元でユナさんはそう囁いた。


「あいつの狙いは恐らく私。だから無関係なあんたは早いとこ逃げて。あそこ、あんたの左側に出口があるから、あんたはそこから逃げなさい」


「ちょっと待てよ!相手は下級魔法使い何だろ?!だったらユナさんの魔法で…、あっ――」


「そう、今の私は魔法が使えないの。だからどう足掻いてもあいつに勝てない」


「だったら――」


「逃げて!!頼むから、逃げて……」


 ユナさんは俯いたまま叫んだ。あまりにも理不尽じゃないか。無関係だから逃げろなんて。


 けれど俺がこの場に居ても何の役にも立てない事薄々気付いていた。


「分かった……」


 そう言うと俺は出口まで走り、そのまま階段を駆け下りた。


「何だ、エネンの餓鬼は逃げたのか?まあ懸命な判断だな」


「あんたの相手は私がしてあげるわ、さあ来なさいよ「下等魔法使い」さん?」


「罪人のくせに調子に乗るなよ!!『爆破ヴィズル』!!」




 俺は爆発を背中で聞いた。

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