第26話 クトゥルーの呼び声

 君は聞いた事があるか?

 地の底から万物を震わせるその声を。

 金属になまったのこぎりの刃を引くような、足の裏から鑢で骨を削られるような、その声を。

 君がその声を耳にしたなら、踏み出そうとした地面が、ブヨブヨとしたゼリー状に変わったしまったかのように、動く事も出来ず、恐怖に引きずり込まれて行くだろう。


「ホテプー、ホテプー」


「誰が呼んでるのですよ?」


「ホテプー、こっちなのです」


「クトゥルー、橋の下で何をしてるのよ?」


「住んでいるのです。ここは、ルルイエなのです」


 ついに外なる者、這い寄る混沌と邪神が出会ってしまったのだ!


「ふーん、ホテプは、大きな家に住んでいるのよ。あったかいベットもあるのよ」


「ルル家は、立派な家なのです」


「クトゥルーも布にくるまって寝てるのです」


 邪神が触手を振り上げた。邪神の恐るべき威嚇だ!

 その姿を見た者は恐怖に心臓が凍り付き、生きながら石像と化すであろう。


「ホテプは、家の鍵も持ってるのよ」


「銀の鍵なのです!」


「究極の門の鍵なのです!」


「庭で、犬も飼っているのよ」


「犬!……」


「犬なら、ベスがいるのです」


「公園に居るのです」


 次々と繰り出される、人間には予測不可能な混沌の攻撃も、邪神は受け流して行くのだ!

 恐るべき魔物たちの戦いは、人類のそれとはまったく次元が異なるのだ!


「ホテプちゃん、早くいかないと学校に遅れるわよー」


「はーい、ママ」


「ナイアルラトホテプは、ママがいるのです!」


「すごいのです」


「きっと、ヨグ=ソトースの力なのです」


「負けていられないのです」


「クトゥルーも学校に行くのです!」


 ついに、子供たちが集う学校に邪神の魔の手が迫る!

 幼き子供たちに、邪神に抗う術などあるはずもない。

 人類は、邪神の前に頭を垂れるしかないのだ……。

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