第6話 虐殺

 邪神の侵略の魔の手は、さらに人類の版図を狭めていた。

 最早どこにも逃れる術など無いのだ……。


「今日もゴミを始末するのです」


「おじいさんに、おにぎりを貰うのです」


 だが、今日の老人は、禍々しい雰囲気を備えていた……。


「おじいさんが武器を持っているのです!」


「やる気のじじいなのです」


 老人が振り上げたのは、恐るべき凶器、名状し難き鎌のような物だ!


「今日は、草刈りの日だからね」


「武器をよこすのです」


「クトゥルーもかまを使うのです」


「鎌は、危ないから、こっちの草を毟ってくれるかい?」


 草を毟る!

 その言葉が邪神の弑逆心を掻き立てる!

 抵抗できぬ力弱きものを、屠り、引き千切り、根絶やしにするのだ。


「根っこから抜くのです!」


「根絶やしにしてしまうのです」


「かたくて、抜けないのです」


 雑草は、その小さき命を摘み取られまいと必死に大地へと根を伸ばし抵抗を試みる。恐怖に震え、決して勝てぬと分かっていても、抗わねばならぬ人類のように!

 だが……、邪神の前には、小さき命の抵抗など無意味であった。

 邪神の触手がうねうねと絡み合い、雑草に襲い掛かる!

 四人は協力して一本の雑草を抜き放った。


「抜けたのです!」


「根っこから抜けたのです」


「次の草も抜くのです」


 その時、草の影から忍び寄る影が!

 棒のように細長い足を持つ全身緑色の虫だ!


「虫が出たのです!」


「虫けらも根絶やしなのです」


「贄にするのです」


 この不運な生き物は邪神の贄となるのか。しかし、その怪物はただ捕食される弱き物ではない。三角の頭に無感情の複眼を持ち、両腕は鎌のように鋭い恐るべき生き物だった。


「よく見るのです、この虫は、カマを持っているのです」


「おじいさんと同じなのです」


「草刈りに来たのです」


「わーい、仲間なのです~」


 邪神に新たな仲間が加わった!

 凶悪な怪物を従えた邪神の前に、一本の草さえ残る事は無いであろう。

 最早この地上のどこにも安住の地はないのだ!


「ボリボリ……」


 クトゥルーは、カマキリに食われた。

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