六日目⑪

 香港での移動手段にかかせないのが地下鉄MTRである。安くて涼しく快適、さらに渋滞しないので時間ロスがない。

 サクヤたちはMTRチケット販売機で切符を購入した。

 発券機の路線図画面の行先駅をタッチ、購入数をタッチしてからお金を入れる手順をカコに教えて買わせてみる。


「簡単だね」


 チケットを手にしたカコは、うれしそうに笑った。

 サクヤたちはMTR佐敦駅二番線ホームにいた。行き先はMTR金鐘駅なので中環方面行きに乗るためだ。

 線路とホームの間はガラス壁で仕切られ、電車が到着すると電車のドアに合わせてホームドアが開くようになっている。

 じゃじゃじゃやーん、セルフ効果音をつけてサクヤが問いかける。


「さて、カコに問題です。日本の地下鉄にあって香港のMTRにはないものは何でしょう?」

「なんだろう……時間どおりに電車が到着して出発すること?」


 さらりと答えたカコに、サクヤは腕を組んで首を傾げてしまう。


「んー、まあそういうことなんだけども……答えは時刻表。決まっているのは始発と終電の時間のみ」

「でも大丈夫」トモが補足する。「電車はどんどんやってくるし、電光掲示板につぎ来る電車の接近情報を英語と中国語で表示してくれるから不便はないよ」


 日本のような乗車する際、降りる人が先といった順番はなく、利用客は自由に乗り降りしている。

 車内は無機質な内装で、椅子はステンレス製でクッションはない。連結部分にドアはなく、直線を走っていると車内の端から端まで見通せ、不思議な開放感がある。走行中も地上と同じく、通話もネットもやりたい放題だ。

 車内アナウンスは広東語、英語、北京語が流れ、ドア上部にある路線図には、現在地が点灯している。アナウンスがわからない観光客でも降り間違えないだろう。


「ところで、これから行く店は、香港島のどこにあるんですか?」


 カコの問いかけを聞いて、サクヤとトモは顔を見合わせてしまう。

 サクヤが口を開けようとする前に、


「アイランド・シャングリ・ラ香港だよ」


 トモは答え、笑みを浮かべた。

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