第38話 病室で
翌日センタは、凪沙の父親に連れられて東京武道館に来ていた。
凪咲も一緒だった。
第二武道場へ入ると凪沙の父親は友人を見つけて声をかけた。
「よお、武藤」
「おお、相川。彼が昨日電話で言ってた子かい?いい身体をしてるなぁ」
友人は凪沙と話しているセンタのTシャツ越しの体と見えている腕を見て言った。
「うん。何でも父親が大学の時に全日本で優勝しているらしい」
「ふーん、なんて名前だ?」
「九十九って名前だが、お前知ってるか」
「おお、その人なら知ってるぞ。そうか、あの人の息子かぁ」
センタは凪沙の父親に友人を紹介され、最低限の道具を借りて身につけた。
センタと対面し竹刀を構えた時友人は唸った。
隙がない。
それだけではなく、動こうとした瞬間に竹刀が飛んできそうで動けなかった。
暫くして固まったままの友人を促すように、センタの体が気合で膨れ上がり、友人が思わず竹刀でよけようとした瞬間に、センタの竹刀の先が友人の小手を打っていた。
二度目の試合は、構えてすぐにセンタの竹刀が消えたと思ったら面を取られていた。
三度目は流石に一方的では悪いと思ったのか、何度かは竹刀を交えたが、そのセンタの竹刀がやたらと重くすぐに小手を取られて終わった。
試合が終わり互いに挨拶を交わしたあと友人はぐったりとしていたが、センタは涼しい顔で汗もかいていなかった。
「あっさりと負けたなぁ。武藤」
「ああ、歯が立たなかったよ。バケモンだぜ、あの子は」
「そんなに強いのか」
「ああ、お前には分からんだろうな。竹刀が刀のように見えて怖いんだよ。強い人とは何人もやったがこんなことは初めでだ。すごい奴もいるもんだな」
「ふーん……」
その後センタは凪沙の父親を通じて友人の武藤に呼ばれ東京へ行き、彼の知り合いや噂を聞いた人達と試合をしたが、誰もセンタに勝てなかった。
センタは凪沙の父親の友人に呼ばれると凪沙に会えるので喜んでいた。
そして大阪だけでなく東京でもセンタの名前が広まっていった。
夏休みも終わりに近づいたある日、センタたち三人に玲弥の母親から電話がかかってきた。
それは玲弥が意識を取り戻し、会いたいと言っているので病院に来てくれないかというものだった。
三人は数日後に待ち合わせをして教えてもらった病院に行った。
そして入口で待っていた母親に連れられて玲弥の病室に入っていった。
「玲弥君、戻ってこれて良かったな!」
病室で見る玲弥は痩せてはいたが妄想の世界で話した玲弥だった。
「元気そうね。玲弥君」
「うん。ありがとう。まだ、身体に力が入らないんだけどさ」
「どうだい?戻ってきた感想は」
「やっぱり現実の方がいいね。向こうの世界も楽しかったんだけどさ。特に君たちが来てくれてからはずっと見てたけど面白かった」
「ん?玲弥君ひょっとして何もかも見てたん?」
「え?……」
凪沙の顔が赤くなった。
「そうだよ?ああ……君たちの事は二人だけになったら見ないようにしてた」
「そうかぁ、ところでさ、あの世界はまだあるみたいやけどあのまま残すん?」
「消せるのかどうかも分からないからそのままにしてるけど、どうなんだろうね。勝手に消えるんだろうか」
「出来れば残してくれた方がありがたいんやけどな」
「え?あ、そうか。君たちは遠距離だもんな。自分たちで作ればいいんじゃないの?」
「ああ、そういう手もあるか」
「それはいいけどさ、今日は来てくれてありがとう。お礼を言いたかったんだ。本当にありがとう。君たちが来てくれなかったらこうやって戻ってくることも出来なかった。君たちは僕にとって救世主だよ」
「僕達も役に立ててよかってよ。それに楽しかったし、いい経験もさせてもらった。僕達にとって忘れられない夏休みになったよ」
それから四人は妄想の世界の思い出話で盛り上がっていった。
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