第20話 村の平和と謎

 ボスが倒れたのを見届けたあと、凪沙は力尽きてその場に崩れ落ちた。


 あつしも、岩壁を背にして座り、肩で息をしている。


 センタは慌てて凪沙の元へ駆け寄り


「凪沙さん、大丈夫か!」


 と、声をかけ抱き起こした。


「う、うん・・・だいじょうぶ。なんか、力が抜けちゃった」


 センタは座って凪沙を自分の胸に抱き寄せ、左腕で凪沙の頭と背中を支えた。


「凪沙さん、凄かったね。あんな技、よく出せたもんや」


「あれね。イメージで作った物なのに重くってさぁ、あそこまで大きくするのが大変だったのよ」


「うんうん。あの水攻めのおかげで勝てたようなもんや。凪沙さんのお手柄やで」


 凪沙は、うふふと笑った。


 センタはその笑顔が可愛くて胸がキュンとした。


「センタ、君はタフだなぁ。あれだけ動き回ってよく平気でいられるもんだ」


 人心地ついたあつしが言った。


「うん。毎日鍛えてるからね」


「ほんと、君は大したもんだよ。さて・・・」


 そう言ってあつしは、どっこいしょと立ち上がった。


「あつし、おっさんみたいやな」


 センタはそう言って笑った。


「君が元気すぎるんだよ」


 あつしはそう言いながら、ボスの倒れた場所へ行ってすぐに戻ってきた。


 その手には何かを持っている。


「それ、何なん?」


 あつしは


「たぶん・・・」


 と言いながら、ポケットから昨日拾った箱を取り出し、今拾ったものと見比べた。


「これと対になってるものだろう」


 そう言って、両手の手のひらに乗せたふたつのものを見せた。


「ほんまや」


 センタと一緒に、凪沙もあつしの手の平のものを覗き込んだ。


 今、あつしが拾ってきた物は、昨日拾った箱の窪みにちょうど収まる形をしている。


「これは、ここで何かするより、村の村長さんに見せた方がいいような気がする。そう思わないかい?」


 センタと凪沙は、うんうんと言ってうなづいた。


「じゃあ、村へ戻ろう」


 センタはそう言って胸に抱いていた凪沙を、そのままお姫様抱っこをして立ち上がった。


「ちょっ・・・もう大丈夫だから」


「いいって。今日の殊勲賞は凪沙さんやからな」


「いや、でも恥ずかしいし・・・」


 そう言いながら凪沙は、センタの腕から降りようとはしないばかりか、ちゃっかりとセンタの首に手を回していた。


 センタは凪沙を抱っこしたまま、あつしと一緒に村へ飛んだ。


 村では、村人全員が山の方を見て、大騒ぎをしていたところだった。


「おお、センタさま、それからえっと・・・あなた様は」


「あつしです」


「おお、そうじゃった。それから凪沙さまですな」


 このじいさん、女の子の名前はしっかり覚えてるんやな。


「魔物のボスを倒していただいて、本当になんとお礼を申し上げて良いやら。この通り、村人も喜んでおりますのじゃ」


 村人達は喜びの声をあげ、センタたちを祝福した。


 センタもあつしも、センタに抱かれたままの凪沙も誇らしげに笑っていた。


 そしてセンタはふと気づいて、凪沙を見た。


 凪沙は、んん?という様な顔をしてセンタを見たが


「ああ・・・」


 と言いながら、センタの腕から降りた。


「楽チンだったのになぁ、残念だわ」


 そんな凪沙を見て、センタは微笑んだ。


「村長さん、これなんですが・・・」


 あつしが昨日と今日拾った物を村長に見せた。


「おお、これですじゃ。これが、魔物のボスを倒した証なのですじゃ」


「やっぱり、そういうやつでしたか」


「はい。この二つのものを合わせると、救世主さまが次の村へ進めると、言い伝えで聞いております。さて・・・」


 村長はまわりの村人達に何事か目配せをした。


「次の村へ行かれる前に、ささやかな祝の席を用意しておりますじゃ。どうぞ、食べていってくだされ」


 村長はそう言って三人を広場へ案内した。


 センタにとっては思い出深い場所だった。


ここで始まって、サエちゃんと出会って・・・


 とセンタは思い出に浸っていたが、ふと気が付くと凪沙さんが睨んでいる。


 う、ヤベぇ。なんか感づいてる。


「さぁ、凪沙さん座ろうか!」


 センタは凪沙に笑いかけて一緒に座ったが、凪沙は今度は頬をふくらませてセンタを睨んでいた。


 うはっ!子供じゃなくてもこんな顔するもんなんや。


 センタはそんな凪沙が可笑しかったが、可愛くも思えた。


 センタは凪沙に耳打ちをした。


「凪沙さんの怒ってる顔も可愛いで」


「ちょっ、な、何を言うのよ!」


 凪沙は途端に顔を真っ赤にして、センタをぶった。


 センタは笑いながら凪沙の打つ手をよけた。


 その横では、あつしが二人を見ながら、やれやれという顔をしていたが、日に焼けたナイスバディの女子がやって来て自分の横に座り、腕を組んで顔をあつしの肩に持たせかけてきた事に目を白黒させていた。


 センタはそれを見て凪沙に言った。


「あつしの横にいる女の子って、ウフーラに似てへん?」


 凪沙は


「ウフーラって、ミスタースポックの恋人よね?」


 と言ってあつしの横にいる女の子をまじまじと見ていたが


「うん。にてるにてる!」


 と言って笑った。


 やがて、果物やら鳥やら豚やらの料理が運ばれてきて三人の前に並んだ。


「この頃は魔物が出なくなって、こういった食べ物を集めるのにも安心して村の外へ出ていけます。これも、救世主さまのおかげですじゃ。ささ、遠慮なく食べてくだされ。ゾーイや、従者さま・・・ではなく救世主さまのお口にほれ」


 うっ、ツッコミどころが二つ。やけど、一個は置いといて、ゾーイって確信犯やろ?それともあつしの創り出したものか?


 ゾーイと呼ばれた娘は、肉汁のしたたり落ちている焼きたての肉の塊から切り分けたものを箸でつまみ、あつしの口元に持っていった。


「はい、あーんして」


 あつしはドギマギしながらも口を開けて肉を頬張っている。


「凪沙さん、ゾーイって・・・」


「うん。ウフーラ役の女優よね?これって、偶然?」


 その言葉を受けてセンタは


「じゃ、ないよね?」


 と言った。


 二人の疑念をよそに、宴は続いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る