第16話 サエちゃんの仇討ち

 しばらくして、あつしと凪沙さんが追いついて来た。


「あいつや」


「うん。俺が左目を潰してやったやつだ」


「あいつが、憎いサエちゃんの仇なんや。トドメは俺にやらしてや。それから、俺が仕掛けるまで弓は使ったらあかんで」


「ちょっと待って」


 俺が行こうとすると、それまでじっと魔物を観察していた凪沙さんに止められた。


「武器をこっちに、そう、そうやって水平に持っててね」


 凪沙さんは刀に手をかざして何やらやっていたが


「うん。これでいいと思うわ」


 と言った。


 俺は


「いったい、何なん?」


 と言って刀を見ると、薄氷で表面がキラキラしている。


「おお?これって・・・」


「そう、氷の属性を付けたのよ。あいつ、どうも冷たさに弱そうだからね。うまく出来るかどうか分からなかったけど、やってみるもんだね」


「凄いやん。凪沙さん」


 凪沙さんは、えへへ、と言いながら照れている。


「じゃ、僕のにも付けてよ」


「うん。弓を貸して」


 凪沙さんは弓を手に取りじっと見つめた。


「これで、つがえる矢にも氷の属性が付くはずよ

 」


 そう言って凪沙さんがあつしに手渡した弓を見てみると、キラキラと細かく氷が浮いている。


「よしっ!行くで!」


 センタはスタスタと歩きだした。


 あつしは、事もなげに魔物に向かって歩いて行くセンタを、後ろから見ていた。


 センタの体からは殺気はまったく感じられず、まるで知り合いに挨拶をしに行くような気楽さが漂っていた。


 あいつ、凄いやつだな、とあつしは呟いた。


 センタに気付いた魔物は、不思議そうな目をして近付いてくるセンタを見ている。


 やがて、魔物の目の前まで行ったセンタは身構えることなく、だらりと右手に持っていた刀を、すっと左上に切り上げた。


「グァ!・・・」


 刃がキラリと煌きらめき、虚をつかれた魔物は、体を斜めに切られていた。


 が、致命傷にはなっていない。


 センタは刀を振り上げると同時に、右後方へ飛んでいる。


 あいつ、動きが上手い!


 矢を射る邪魔にはならない位置に飛んでいる。おまけに魔物は潰れた右目で俺の方は見えていない。


 あつしは渾身の力で弓を引き絞った。


 その弓に、番つがえられた氷の矢が現れ、ひょう、と放たれた矢は唸りをあげて魔物の右胸を貫いた。


 と同時に、センタは魔物の頭上目がけて飛び上がり、魔物の頭から一直線に下まで、ありったけの力を込めて切り裂き、着地した。


 仁王の形相で、シコを踏んで着地したまま刀を持ち、魔物を睨むセンタの目の前で、魔物の体が左右に別れて倒れ、やがて消えていった。


 緊張を解いて立ち上がったセンタは、魔物の消えた場所を見ながら


「サエちゃん、仇はとってやったで」


 と、呟いた。

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