第5話 魔物退治

 さて、どこへ行こ。


 正面に山が見える。


 あれが村長の言ってた山やな。


 とりあえず、サエちゃんが出ても危なくないように、ここらへんから始めるか。


 でも、この棒じゃカッコつかへんよな。


 この世界が夢やないとしたら、多分妄想かそれに似たようなもんやろう。


 やとしたら・・・


 俺は、以前に振らせてもらった、親父の持っている日本刀の感触を思いだしてみた。


 あれは重かったよな。


 柄を持つとこう、ずっしりと・・・


 集中して、あの時の感覚を右手に思い浮かべてみよう。


 んんー・・・反り、刃紋の形、持った感触、今まさに持ってるように思い浮かべるんや!


 頑張れ、俺!


 ・・・


 お?右手が重たなってきたぞ。


 おー、来たきた!


 やってみるもんやな。


親父の日本刀や。


 試しに構えて型を振ってみると・・・


 うん!これやこれや。


 よし!これで怖いもんはあらへんぞ。


 やったるでぇ!


 さて、魔物はどこにおる?


 おったおった。


 向こうも気が付きよった。


 あの二足歩行のワニや。


 こっちへ走ってきよる。


 よし!俺も走って、迎え撃ったる!


 俺は目の前に来た魔物が振り下ろす右手を切り上げ、刀を返し袈裟に切り下げた。


「グガアァァ」


 魔物は悲鳴をあげ、右手は切れて飛び、体は真っ二つになって倒れた。


 よっしゃあああ!


 カッコええやん、俺!


 と、自画自賛。


 それから俺は村の周りの魔物をバッタバッタ切り倒していった。


 振り回すのは骨が折れるけど、おもろいように切れる。


 どれくらい時間が経ったか分からへんが、あらかた見える範囲の魔物を退治した頃には、腰もふらついて腕も上がらないくらい疲れてしもうた。


 そして、もう村に帰ろうと思ったがふと思いついた。


 今までは勝手に現実世界に戻されてたけど、自分の意思で戻られへんやろか。


 俺は、朝ごはんを食べたところから思い出した。


 親父はもう仕事に出かけて、おかんに宿題はしたかと聞かれて、食べ終わって自分の部屋に戻ってきて・・・


 ・・・


 おおー、戻ってきたで。俺の部屋や。


 うまいこといったわ。


 しかし、疲れたな。


 でも、待てよ。


 向こうの疲れをこっちまで引きずるんやったら、向こうで死んだらどうなるんやろ?


 分からんけどヤバそうやな。


 気を付けんといかんな。


 それに、もっと剣道の練習もせなあかんし、体も鍛えなあかん。


 そやそや、親父が前に、これを振って体を鍛えとけ、言うて渡されたくそ重たい六角の鉄棒があったよな。


 こんなん、無理や思うて確か押入れの奥に・・・


 あったあった。


 うはっ!やっぱ重たいわ。


 よしっ、早速これで素振りをしてみよ。


 俺は階段を降りて庭へ出て素振りを始めた。


 リビングにいたおかんは、鉄棒を持って降りてきた俺を目で追いかけていたが、庭でいきなり素振りを始めたのに驚いて声をかけてきた。


「あんた、いきなりどうしたん」


「うん。前にお父さんがな、これで千回素振り出来るようになったら剣道も上達するで、言うてたん思い出してな」


「へぇー」


 おかんはしばらく物珍しそうに見ていたが


「まぁ、頑張りや」


 そう言うてまたリビングに戻っていった。


 そして俺は、百回は振れるやろ、思うてたんが五十六回目で音をあげた。


 はぁ・・・千回は遠いわ。

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