まつろわぬ姫の心には…
第29話 宇南苦悩
瑩珠は黎翔の戻ってきてほしいという言葉を受け、黎翔と共に東宮へと戻ることとなった。
「龍飛お兄様、ゆるりと休暇をお過ごしくださいませ」
「ありがとう、
「他人行儀なことを仰って…また語らいましょう」
龍飛は拝礼をしてその言葉に応えた。
東宮への道中で瑩珠は黎翔に尋ねた。
「東宮で何かございましたの?それとも後華宮で何か…」
「どちらかと言えば、鳳城の方でね。累が東宮に及んでいるというのが正しいかな。宇南がとても困らされているんだよ、李家の残花殿にね」
瑩珠は暗い表情になった。
「なぜあの様な者が官吏として登用されたのか私、とてもわかりませんわ…探花の器ではないように僭越ながらも思う次第なのですけれど…」
「それは父上も同じことを仰せだった。宇南に至っては"名門の令嬢としても些か…"と申しておるほどだ」
瑩珠は何かに気づいたようだ。
「黎翔様は宇南をお助けになりたいと思われたのですね。この蓉側侍、皇太子殿下のご下命あらば直ちに…」
黎翔はくすりと笑った後、表情を引き締めて言った。
「では蓉側侍、我が東宮に戻り次第下命を待て」
「御心のままに」
程なくして東宮の門に着いたので、瑩珠は車を降りて自分の居室へと向かった。
「まったく…残花は手がかかる者ね…友のために一度離れた職を負うなんて、考えてもいませんでしたわ。側侍とは忙しい職ですのにね」
「皇太子殿下、お召しにより蓉玉蘭が参上いたしました」
入室を許可する声が聞こえてくる。
入室後、すぐに拝跪した。
「皇太子殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅう存じます。お召しとは何事かございましたか」
「他でもないこの東宮での問題、ひいては鳳城の問題を解決してもらいたく思い、召したのだ。その役をそなたに命じたい」
拝命の意を伝える。
「側侍、蓉玉蘭に命ず。側近、
「拝命いたします」
他でもない探花の奏沙が側近補佐として丁宇南についたのは良いが、名門で皇族の妻を排出したり、公主の降嫁を受けたりしていることを鼻にかけて宇南を軽んじているのだという。
拝命した瑩珠は鳳城へと向かい、
「宇南、いらっしゃいますか?」
側近の間の入り口には宇南の姿はなかった。代わりに…
「あら?丁側近に用向き?しょうがないわね、この忙しい身の
奏沙が茶を飲んでいた。
「李殿?見たところ公務中だと思いますが、茶を喫するお時間はおありのようですね。その衣からして現探花でございましょう?学宮はどうなさいました?」
「私はね、必要ないの。皇后候補なのだから身分・位階の講義なんて必要ないのよ?私が膝を折るのは夫とその両親と祖廟くらいなものだもの」
「そのようなことを仰るのは李殿の身を危険にさらしておられるのと同義ですわ」
そこに話し声に気づいた宇南がやってきた。
「玉蘭…!?退官したはずでは…」
瑩珠は微笑んでただいま戻りました、と伝えた。
「側侍、蓉玉蘭。皇太子殿下直々のご下命により、一時復官して丁側近を補佐いたします。」
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