第24話 子妃行啓
騒動のあった皇上御見もつつがなく終わり、奏沙は側近補となって宇南の部下に任じられた。
そんなある日。
あまりの暑さに瑩珠は暑気あたりをおこしていた。
「瑩珠…大事ないか?なにか必要なものがあれば持ってこさせよう」
「黎翔様、ご心配なさらずに。暑さも和らげば治りましょうほどに…どうか、政務へお行きくださいませ」
名残惜しそうに黎翔は行ってくると告げた。
「お見送り、いたします」
黎翔は父帝の補佐をし、休憩を挟むことになった。
「…黎翔。凰琳はまだ床に臥せっておるのか?」
「そうなのです。どうやら帝都の暑さは凰琳にとって厳しいらしく…」
その時、黎翔の後ろに控えている昇勇が跪きながら提案した。
「避暑として涼しいところへ行啓はいかがでございましょう?」
「避暑か!妙案だ、昇勇。我も異存ございませんが、父上はいかがでしょう?」
「うむ、良かろう。何処が良いだろうか」
「臣めは照王府がよろしいかと存じます。帝都の中で涼しい気候を持つのは照王府でございましょう」
父母への挨拶を兼ねての行啓という名目が定まり、瑩珠の避暑が決まった。
「つける女官と宦官は東宮からが良いだろうな。昇勇、そなたが筆頭となり、決めよ。武術の心得があるそなたになら凰琳を任せられる故な」
「承知いたしました」
黎翔は満足すると昇勇を伴って退出した。
その夜。暎帝が自室で政務をしていると微かに扉を叩く音が聞こえた。
「む…?」
「わたしです」
”わたし”と言った声の主は扉を少し開け、体を滑り込ませてきた。
「あぁ、あなたでしたか」
「この度は子妃様の行啓をお許しくださり、ありがとうございます」
「いえいえ…余が出来るのはそれくらいなもので。安心なされたか?あなたもついていかれると良い」
「無論そのつもり。子妃様を鳳城から出御させるのはしたくないのですが…致し方ないことですからね。わたしがつき、平穏に城へお送りしませんとね」
「左様でしたか…あなたは後悔しておられぬか?誰よりも歴史の被害者となられた方よ」
その人はふっと笑った。
「後悔?全くありませんよ。子妃様を護った、それが全てです。だからこそ、子妃様の憂いとなる者は一国の皇帝であろうと生かしはしませんのでね」
「気をつけねばな」
その答えを聞くとありがとうと言って、声の主は去っていった。
それから一週間過ぎ、皇太子妃の照氏は照王府への行啓の旅を始めた。皇太子は自らの側近や子妃の世話係などを付け、送り出したと言われている。
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