第22話 照子妃也
今成と宇南は言われた通り月が登り始めた頃に鳳城の正門に立っていた。
そこに車のごろごろと走ってくる音が届いた。
「曹今成様と丁宇南様でいらっしゃいますか?」
暗闇から声をかけてくる女性がいた。
「あぁ、そうだが?何用だ」
「ぎょ…玉蘭様の命でお迎えに上がりました。御車へお乗りくださいませ」
女性は金鈴だった。2人は大人しく従って乗り込むと車は走り出した。その車ははっきり言って奇妙。四方を壁が囲い、外が一切見えないのだ。
車はしばらく走ってある建物の前で止まった。そこは東宮だったのだが、大貴族の子息とはいえ入ったことのない2人にはわかるはずもない。
「こちらへ。主がお待ちにございます」
「主とは…」
金鈴はただ、お急ぎくださいとしか答えなかった。
ある一室に通された。そこにある色は様々だが、貴色である紫が基調とされている。
そしてその奥の宝座に鎮座する年若い男も紫色の衣。今成と宇南はさすがに理解した。ここは帝家に連なる方の住まう場所なのだと。
「拝謁いたします…」
2人は恭しく跪拝した。
「畏まらないでくださいな…ですわよね?殿下」
男のすぐ隣の宝座に座する女性が声をかけた。その女性は一見黒に見える衣を纏っていたが、燭台の明かりで紫にも見える長衣を身に付けていた。
「ぎょく…」
「…らん」
女性こそ瑩珠。男性こそ黎翔なのである。
「えぇ、そうよ。今成、宇南。隠していてごめんなさい…早くに明かそうと思っていたのですけれど…」
「えっと…玉蘭…?」
衝撃が強すぎて戸惑っている。
「…私の本当の名は照凰琳。この方…紫鳳国皇太子、鸞殿下が子妃でございます。名を明かせば共に過ごすことが叶わぬという事情から名を偽ってはおりましたが、友として過ごしたときは真のものです。許してくださいね?」
はっとした2人は深く礼をした。
「い、今までの数々の無礼、お許しくださいませ…」
それまで黙っていた黎翔が堪えきれぬと言うように声をあげて笑った。
「はははっ!我らはそなたらを責めようと思うて呼び寄せたのではない。我が命ではあったが、我らがそなたらを欺いていたのは事実。それをどうか許して欲しいと頼みたかったのだ。そして身勝手ではあるが、我らの友とはなってくれまいか?」
「畏れ多くも皇太子殿下のご友人となれと…」
「なれとは申さぬ。なって欲しいと頼んでおるのだ。どうで…あろうか」
黎翔は頼りなげな表情になった。
今成は立ち上がり、笑顔で言った。
「確かに学友、玉蘭が照子妃殿下ということには驚きましたが、隠されていたことは必要なこと。気にしておりませぬ。この曹今成、丁宇南で良ければ両殿下の友人でありたいと思いますっ」
4人は顔を綻ばせ、握手をした。
「我のことは鸞で良いし、妃のことは凰琳と呼ぶが良いぞ。今成、宇南、よしなにしておくれ」
「はいっ!鸞様、凰琳様」
こうして名君と皇后、双璧と呼ばれた2人の関係が築かれたのだった。
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