第20話 黎翔決意
「…これが余の父上に教えていただいた話だ。余の父上こそ龍安帝なのだよ…故に父上は照王家への尊敬と謝意を忘れてはならぬと余が幼き頃から言い聞かせ、養育を
遠き日を懐かしむように語った。
「祖父上…我は、凰琳をしかと守り、後継へと語り継いで参ります」
深く黎翔は頭を下げた。
その時、凰琳が黎翔を真っ直ぐ見詰めた。
「凰琳ではございません…私の真名は、
凰琳、いや、瑩珠は紫の瞳に安堵の色を滲ませた。
「瑩珠…良き名だね。そなたの目は紫の銀星を散らした空の色をしていたのか」
瑩珠はふわりと微笑んで、紫陽の証で紫髪なのもそうなのですよ、と答えた。
「そなたを護り、この国を導く名君たらんと励むとするよ」
「殿下ならば成せましょう…この紫陽瑩珠、御身をお支えする立派な妃に…」
その場の大人達は暖かな目で見ていた。
暎帝が思い出したように告げた。
「鸞、そなたの従者としている宦官…念昇勇は念妃殿下のかなり年の離れた縁者なのだよ。念の家を離れ、そなたに仕えているのだ、心せよ」
昇勇も帝家の被害者の一人であったのだ。
「そういえば…念の名は聞き及びませんね?」
苦しげに先帝が吐き捨てた。
「紫陽君が王太子であられた頃に念氏の血筋は李氏に滅ぼされたのだっ…」
それまでずっと黙っていた照王が口を開いた。
「先の大家、それはまだ良いでしょう。皇太子殿下がもう少し政道を学ばれましたら分かること。瑩珠にとっても無関係なことではありません故…真に帝家とは平和に血脈を繋ぐことを致さぬものだ」
「紫陽君がそう仰せであれば…」
そうして会はお開きになった。
「瑩珠…我の真名は黎翔。そなたは知っておいてくれ…この名は我が帝位に就こうともそなたにしか教えぬ」
「黎翔様…」
瑩珠は頬を紅潮させて呟いた。
黎翔は気恥ずかしげに濃紫の衣を翻し、父帝の後を追いかけようとした。
「あ…今日は早く東宮に戻るから…一緒に夕餉を食べよう」
「はい、黎翔様。お待ち申し上げておりますね」
満足げに黎翔は笑って廊下の奥に駆けていった。
「さぁ、時は動き始めてしまいましたこと…黎翔様、貴方様はどうなさいますの?思う以上に皇帝とは難儀な座でございますのに…」
瑩珠は黎翔の向かった先と反対、東宮へと歩み出した。
「殿下は悩みなさるでしょうが、必ず英断なさいますでしょう」
「そうね…お兄様」
兄と呼ばれた男は瑩珠に微笑んだ。
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