第18話 賢妃之願
それから7年の月日が流れ。
氷波の治世は長く続かず、栄皇后との間に誕生した
龍安は、氷波も寵愛した念賢妃を慕っていたため、本来皇帝が退位した時に一斉に退宮することになる妃嬪であるのに、後華宮に留め置こうとした。
しかし、それを栄皇后は良しとしなかった。
「母上、何故念の母君を太妃として留めてはならぬのですか!」
「あの女狐をそなたの側に置くなど母は嫌です。先帝陛下もあやつばかりを寵愛しておりました」
「余は寵愛するのではありません!ただ、母としてお慕いしているだけでございます」
「そなたの母は私だけです。あやつは退宮させ、菩提を弔わせなさいませ。大家の英断を求めますよ」
龍安は歯噛みし、言い放った。
「念の母君は留めます。母上、嫉妬に狂うなど見苦しい限りです。失望いたしました。もう、母とお慕いすることは有りますまい。さぁ、余は政務がございますので院宮へお帰りを、栄太后」
宦官に促されて院宮へと連れていかれる栄太后は吐き捨てた。
「覚えておかれませ、大家。そなたを帝たらしめるために尽力し、後華宮を統括しているのは私であると」
その言葉を龍安は無視した。
だが、その言葉通り、栄太后は太妃となった琴風を
栄太后派の宦官や女官が監視していたので皇帝と言えども龍安は無力だった。
4年後にその栄太后が亡くなり、一年間喪に服していた龍安は、喪が明けてすぐに冷宮へと向かった。
「念の母君様」
庭先に佇んでいた琴風は振り返り、跪いた。
「大家…?賜死のときが参ったのでしょうか」
龍安は苦笑した。
「久方ぶりにお会いできたと思ったらそんなことを仰せとは…違いますよ、太妃として院宮へとお移り頂きたくて」
きょとんとしている琴風に龍安は手を差し伸べた。
「余は齢十一。まだ支えてもらわねばなりませぬ故に…お受けくださいますよね?」
「吾子様に会わせてくださいますならば」
龍安は困ったように首を傾げた。
「亡くなられた王子でしょう」
控えていた宦官が口を開いた。
「恐れながら大家。王子は生きておられます」
「太妃様の頼みとあらばお探ししましょう。余はそのまだ見ぬ兄王子が羨ましい。余は栄太后より、太妃様の子でありたかった。宜しければ、余を子として見てくださいませんか」
「承知いたしました、龍安様」
琴風に呼ばれた名は龍安にとって何よりも暖かい響きを持っていた。
「母上…兄上を、王門としてお迎えします」
「ありがとう存じます…!もう12年、お会いできておりませんでしたの…!」
そうして、琴風は念太妃として院宮へと移った。
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