詩集:小瓶の蝙蝠

まみすけ

生誕祭

旋律と鼓動の中で微睡みながら、お別れしよう

冷めた愛情は、ニコチン色に染まった指先からすり抜けてしまった

愛したのは、私の中に存在するあなたの偶像

あなたはそれでもいい、と言ったのだけれど

私はそれではもったいない、と思った

触れた時点で恋は本来の意味を失ってしまう

現実味を帯びた言動に支配された夢の世界は

せわしなく動き回る幼子のようで

わたしはいらない、を繰り返した

空はこんなにも碧く美しいのに

私は悲しみのフィルター越しでしか物事を把握できない

どこか遠くへ行った人のことなんか

もう考えるのは、止めにしよう

たばこの煙がゆらゆら揺れて

汚れた少女は憂鬱な微笑をアートする

時間は十分すぎるくらいあって

死体のような体を揺らす

神経質な少年は長い髪を無造作に束ね

細い指で涙をなぞる

時計の針は午前二時三十四分

今日はあなたの誕生日

今日はあなたの誕生日

今日はあなたの誕生日

死んだ人間は年をとれない

今日はあなたの誕生日

だからあなたは嫌った

死んだ人間の誕生日を祝う事

あなたが死んだ日にわたしはケーキを食べる

ケーキは甘いから私はいくらかの悲しみを浄化できる

さよなら

さよなら

海の果てに沈もう

既製品の出産ラッシュ

さよなら

さよなら

風に揺れるロープが美しい

死体が加わりドラマになる

孤独な恋人たちは朝日を浴びて自殺した

辛抱強い牛みたいな目をしてた

失望に失望した惰性な大学生は西日を背に自殺した

白いくびすじに、紅いべに

さよなら

さよなら

さよなら

淀川さんが映画を語る横で

息を殺して殺人をする

それは儚くて美しいシネマ

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