第14話 MRI

「いよいよ明日ですね、退院前の検査」


 翌日、伊坂が友里の面会に行くと、廊下で看護師長の間宮が声をかけてきた。


「ええ。大丈夫と思ってはいても、気になります」


「わかります。心配ですよね。ところで、あと二週間ほどで退院になると思いますが、ご自宅の準備はできました?」


「それがまだで」


 伊坂も理世も、最初のうちは病院通いが大変だったが、慣れるとすっかり生活リズムに組み込まれ、今では、ずっとこの生活が続くような気がしていた。赤ちゃん用品専門店に行って色々揃えなくては、と思っていたものの、先延ばしにしてここまで来てしまった。


「明日の検査が終われば、気持ちを切り替えられると思います」


 伊坂がそう答えた時、GCUの中から激しく泣く声がした。友里の声だ。最近の友里は、お腹が空くとよく泣く。看護師達が交換ノートに


「今日も友里ちゃんは、おなかが空いたアピールを上手にしていました!」


 と頻繁に書くようになっていた。


 こんなに元気ならきっと大丈夫だ、と伊坂は心の中で、自分に言い聞かせた。


 だが、理世と伊坂の願いとは逆に、友里のMRIの結果はあまり良くなかった。




 翌日の午後、理世と伊坂が一緒にGCUに行くと、友里はいつものコットで激しく泣いていた。


「あら。お腹すいちゃったのね?」


 理世が思わず友里を抱き上げると、看護師の千穂がやってきて、


「こんにちは。今朝の検査結果について中沢先生がお話ししたいそうなんですが、お二人とも、今お時間大丈夫ですか?」


「大丈夫ですけど、お腹を空かせているみたいで」


 理世が泣いている友里を見せた。


「ほんとだ、ご機嫌斜めですね。今日は早弁しちゃいましょう! すぐにミルクを用意します」


 千穂は笑って、友里を理世から引き取った。

 


 理世と伊坂が面談室に入ると、主治医の中沢はすでに来ていた。椅子を勧められ、テーブルに向かい合って座る。


「友里ちゃん、すっかり元気に大きくなりましたね」


 中沢は穏やかに話し始めた。


「今日は退院に向けてのお話と、退院前の検査結果についてお伝えします。友里ちゃんは小さく生まれましたが、その後は意外なほど順調で、このままいけば一年以内に通常の成長ペースに追いつけると思います。眼や肺、心臓などに問題はありませんし、貧血も改善されました」


 ここまで聞いて伊坂は嫌な予感がし、思わず口を開いた。


「MRIはどうでしたか? 今朝の―」


 すると中沢は、持参していたノートPCに表示されている画像を、伊坂と理世に見せた。友里の脳だ。


「必要以上に落胆しないで頂きたいのですが、少し問題のある所見です。この部分、わかりますか」


 中沢は、画面に映っている脳の右側をペンで指した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る