第12話 伊坂の母親

 伊坂の実家への報告は、入籍して二週間経ってからだった。電話に出たのは妹の聡美で、彼女はは理世と同じ三十八歳。専業主婦で、頻繁に小学一年生の娘を連れて実家を訪ねていた。父親が数年前に他界して以来、実家の居心地が格段に良くなったのだ。


「お母さん、お兄ちゃん結婚したって。子どもが生まれて、女の子でゆりちゃん。友に里。忙しいみたいで、用件だけ伝えて電話、切れた」


「あら。じゃあ、会いに行かなくちゃ」


「でも、早産でNICUに入院中だから来ないで欲しい、って言ってたよ?」


 聡美が言ったことは全く意に介さない様子で、母である京子は、歌うような調子で言った。


「照れてるのよ。口ではそう言っても、来て欲しいものよ」 



 伊坂は物心ついたころから、母親が好きになれなかった。母は人目を惹く美人で社交的だったが、子ども心に、何かがずれているように感じていた。大人になった今では、一体何が違和感の原因だったのか思い出せなかったが、当時の自分は、母が妹をかわいがりすぎるのが気に入らなかったのかも知れない。「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」と頻繁に言われたことは、よく覚えていたからだ。


 伊坂は未だに母親が苦手で、同じ都内に住んでいるのに、一年に一度会うか会わないかだった。電話をかけた時に聡美が出たので、内心ほっとした。そして、「息子として伝える義務は果たしたから、あとはこれまでのように距離を保とう」と思った。友里はNICUに入院しているのだし、会わせるのは退院してからがいいと考え、妹の聡美にもそう伝えた。

  

 ところが、京子はF総合病院にやってきた。

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