第19話 カナル・グランシス


「死にさらせァあぁぁあああぁあああああ!!!!」

 怒号。次いで生み出されたのは大きな風の渦だった。その風の渦は次第に大きくなっていき、周りの砂利や鉄屑、割れたガラスまで巻き取り凶器に変わる。

 僕はこの現象を知っている。竜巻と呼ばれるものだ。

「お前らみてェなハエがよォ・・・いちいち癪に障るようなことばっかしてきやがってよォ・・・」

 男は両手を広げ、徐々に天へと向かって腕を上げていく。竜巻はその間、ひとつも形が乱れずにただ静かに回っていた。

 だが、静かに回っているのも今のうちだけだろう。すぐにあの竜巻は暴れだし、僕達の命を掻きに来るはずだ。

「メイト・・お前の雷であれを打ち消すことはできないか?」

 僕は体の中で魂として存在しているメイトに向かって声をかける。メイトの声は音には出ず、代わりに思念波のようなもので僕の脳に直接語りかけてくる。

「いや、さすがにムリだね。」

「え・・・っ?」

「いやいや、雷で風をどうにかしろなんていささか無理な注文なんだぜ。死んじゃうよ?」

「死んでるだろ?」

「死にたくないよ?」

 ・・・・・。だめだ。こいつちょっと使えない時がある。

「う~ん・・でもあの風使いくん。どっかで見たことあるんだぜ。近くにいた存在だったはずなんだけどなぁ・・・」

 メイトは一人でぶつぶつと話す。僕は特に興味を持たぬままあの竜巻を避けるための最善策を考えていた。

「おい!ご主人!!」

 瞬間、メイトより少し声の高い少年の声が頭に響く。

「キツナか?なんだ?」

 それはこの街に来る前、クレイプ森で出会った化け狐の少年、キツナの声だった。なにかの作戦があるのか、その声からは不思議な強さが感じ取れた。

「なにか、提案でもあるのか?」

「うん、ご主人は剣士がスキルを持っている事は知ってるよね?」

 スキルというのは、おそらく剣士スキルの事だろう。剣士は確か3つまでスキルを使う事ができたはずだ。

「俺の剣士スキルを使えば、たぶん、あの攻撃をかわすことができるはずだ。」

「どんなのがあるんだ?」

 うん。とキツナは頷いてそのまま自分の持つ3つのスキルを述べていく。

「1つは筋力倍加、その名前の通り、自分の筋力を一定時間倍近く跳ね上げることができる。2つ目は自己軽化、これは自分の感じている重力を軽くすることができる。3つ目は物質軽化、手に触れている物を軽くすることができる。」

 なるほど・・・使えそうなスキルがなかなか多い・・・ん?

キツナが言いたい事が少しわかってきた気がする・・・要するに・・

「筋力倍加を使って早く走れってことだよな。」

「うん、それもあるけど。まずあそこにいるツンツン髪とアカネお姉さんに触れて物質軽化を使う。そのあとに筋力倍加を使って二人を持ち上げる。これだと逃げれないから最後に自己軽化を使うと今持ち上げてる二人の体重とご主人の感じている重力を半分にすることができる。後は二倍にまであがった筋力で竜巻の射程外へ出るんだ。」

 驚いた・・・スキルの組み合わせが凄いこともそうだが、なによりもキツナは頭がいい・・・さすが、戦闘経験と剣士のしての戦い方は一流ものだ。

 迷うわけがない。

「採用だ、よろしく頼む。」

「まかせて。」

「いやぁ。驚いたねぇ。こ~んなちびっ子がここまでの作戦を思いつくとはね。残念脳のご主人君とは違ってキツナ君はボク並に頭がいいよ。」

「リリースしていいかい?」

「いやぁ!?ごめんよ!?」

「おい、てめェ何一人で喋ってンだよ・・・?」

 ゴウッ!!とついぞ動くことを我慢していた竜巻が猛威を奮う。ガリガリと地面を削って襲ってくる竜巻は怪物という他になにと言えるだろうか。

「いきなりかよ・・行くぞ!テイム!キツナ!!」

 自分中心に淡い紫色の光が漏れ出す。テイム完了と能力発動ができる状態だ。

「レント!アカネ!!こっちへ来てくれ!!」

 僕は轟音を響かせる竜巻にも負けないような声で二人を呼ぶ。ちゃんと届いたのか二人はこちらへ気づき駆けてきた。

「剣士スキル1!筋力倍加!!」

 スキル名を宣言する。

「レオン!?目が青く!?」

 目が青い。これはキツナがスキルを発動したときにも起きた現象だ。つまり、僕がスキルを発動させる事が出来たのだ。

「魔術であの壁を作ってくれレント!少し強めに!!」

「お・・おぅ!わかった!!」

 レントが腰につるしてあるホルダーに挟まれた大判の本を取り出してぺージを捲る。そうこうしている間にアカネも近くに駆け寄って来たところだった。

「二重魔法陣、ラ・シールド!」

 ピィィンと甲高い音をたてて透明の壁が一枚作られる。レントが壁を生成したのを確認して僕は二人の近くへ行き、軽く触れる。

「剣士スキル2!!物質軽化!!」

 宣言する!その瞬間、二人を脇に抱えるような形で僕は二人を持ち上げた。

「おわ!?」「キャア!!」

 まるで何も持っていないかのように軽い。だが、今のままでは走れても普通だ。

「剣士スキル3!!自己軽化!!」

 宣言する!!

体がまるで宙に浮いてるかと錯覚するくらい軽くなる。いける・・・これなら射程外へ逃げれる。

「逃げれると思ってンのかァ!?消え去れェア!!!」

 男は天に向かってあげていた腕を振りおろす。竜巻はあり得ない方向に傾き、驚愕のスピードで僕らを襲ってくる。


 まるで槌が鐘を叩いたような重く鈍い重低音があたりを支配する。男の攻撃がレントの作った壁に当たった衝突音だろう。地震かと思わせるくらいの地響きに体を輸されつつも僕はその地を大きく蹴り飛ばした。

「う、うわぁ!?」

 この声を自分が出したものだと気づくのに少しの時間を費やした。

 走る。そう思っていたが全くの想定外だった。まるで飛んでるかのように風が僕のそばを吹き抜けていく。行ける。このままならじゃ堤外へ逃げれる!


 さっきの鈍い音とは違い、ガラスが盛大に割れたような音が鳴る。レントの作った壁が壊された音だろう。


「行っけぇえええ!!」

 危険な状態だというのに、僕の気分はどこか爽快感を感じていたのだった。


  ◇


 逃げ切れた・・・

男が作った竜巻は次第に形を崩していき威力をなくしていく。

「はぁ・・・はぁ」

 息切れが激しい。自分を軽くしたところで筋肉にかかる負担は変わらないのだろう。足が重くて上がらない。これはもっと練習しなきゃな・・

 だけど、ここでは自分だけが疲れていた。なぜなら、男はまだ目の前にいるのだから。

「どォやって逃げたかと思いきャ、霊飼い術師だったのか。驚いたぜェ?だけどなァ・・そんな君もここでゲームオーバーだなァ!!!」

 ビュウ!とまた風が吹く。

塊ができていく。動けない・・・殺される・・・。

「あぎゃはは!!逃げれねェとはァ無様だなァ!!」

 男は右手を軽く薙ぐ。それだけで風の塊はうねり、僕らの首を落としにくる。

「ラ・シールドォ!!!」

 金が叩かれたような音が鳴る。無論、レントが生み出した防護壁だ。

「こンな紙で防げると思うンじャねェよ!!!」

 男の声に気圧されたかのように壁に一筋のひびが走る。やがてそのひびは大きく枝別れをし、まるで壁を蝕んでいるかように跡をつけた。

「レントォ!!アカネェ!!伏せろぉ!!!」

 限界点に達した壁ははじけ飛ぶように我、盛大な音とともに爆散する。男は不気味な笑みを浮かべた後、一瞬で風の塊生み出してたたきつけてきた。


 死ぬ・・・!そう覚悟したその時だった。


 バリィ!!と一筋の閃光が塞がれた瞼越しでもわかるくらいの光の量でかけていく。目を開けるとそこには、風の塊は無く、代わりに紅い赤い衣服を身に纏った青年の姿が視界に映った・・。


「やれやれ、君たちも災難だねぇ・・・」

 流れるように言葉を結ぶこの声は・・メイトだ。

「風でなにか引っかかってたんだよねぇ。しかも高能力者、やっと思い出したよ。やぁ、お久しぶりだね。」

 後姿だが、メイトが笑っていることはどことなくわかったような気がした。

「カナルくん。」

 カナル。メイトが知っている人物・・・?目の前の男の名前なのだろうか。

「あァ、あの時から見てねェとは思ってたンだけどよォ。まさかこんなとこで感動の再開をするとはなァ・・メイトさんよォ?」

 目の前の男の方もさっきとは打って変わったような態度へと変化する。なんだこの二人、知り合いなのか・・?

「知り合いなのか・・・メイト?」

 メイトは一度首を小さく立てに振り、言葉を紡いだ。

「科学的能力開発校、カナル・グランシス。ボクと共にあの学校に居た、大親友さ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る