code-3:その名はクルセイド

「容態はどうだい」

「ちょっと脳震盪を起こしてるだけ。外装へのダメージは全くないよ」

声が聞こえる。知らない声だ。いや、記憶がないのだからどんな声を聞こうが知らない声になるだろう。

目を開けると、木製の天井が見えた。体を包み込む柔らかい感触から、ベッドに寝かせられているとわかった。

「ここは…」

「あ、気がつきました?びっくりしましたよー、おっきい音がしたと思って音のした方に行ったらあなたが倒れてるんですから」

顔を覗き込んできたのは中性的な声色のロボットだった。どうやらあのとき見た影は彼(彼女?)のものだったらしい。

「おや、やっと起きたか小僧。このまま起きないんじゃないかと思ったよ」

どうやら先ほどロボットと話していたらしいその声の主は、若々しい見た目の老人だった。初めて会うはずだがどこか懐かしい感じがする。

「えと、あなたたちは…」

「ん?あたしはクロン、こっちはメディカルマシンのメディだ」

「ク、クロン!?クロンってもしかして、終末大戦で武器やMHの整備を担当してたあの!?」

記憶を消されたといっても、どうやら今まで学んだ知識などは消されていないようだ。

「おや、あたしを知ってるのかい。嬉しいねぇ」

「まさか生きてるうちに本物に会えるとは…」

「ところで、あんたは何者だい?」

自分の体を見回すと、金属製の装甲のようなものやあらゆる武装が施されている。これだけ武装されていればさすがに隠すことはできない。

「あー、あんたがMHだってのは一目見てわかったよ。だから気にする必要はない。それよりも、あんたの名前とかは?」

まるで内面を見透かされたかのような返答に一瞬驚いたが、体について疑われているのではないとわかり安堵する。

「…名前は思い出せない。というか、記憶から消されてしまったんです。code-Xっていうのが新しい名前らしくて…」

「code-Xだぁ?そんな人をなんかの道具みたいに…」

実際、そうなのだろう。社長はMHを兵器と呼んでいた。人間どころか生き物とすら思っていないのだ。

「そうだ!ないんならあたしがつけてやるよ!」

唐突な提案に困惑した。名前をつける?しかも有名人が見ず知らずの相手に?

「いや、いくらなんでも初対面なのにそれは…」

「そうだよクロン、それにあなた名前つけるの下手でしょう?

僕の名前だってメディカルマシンだからメディって…」

 その一言で、一転して困惑は恐怖に変わった。

「いらんこと言うんじゃないよ!うーんそうだね、X、X…よし、クルセイド、これだ!今日からあんたはクルセイドだ!」

「あれ、なんか珍しくまともですね。どういう意味なんです?それ」

「意味なんて知らないよ、どっかで聞いていい響きだと思ってたから覚えてただけさ」

「結局適当なんですか…」

「まあそう言うなって!これから仲良くしようや、カッカッカッ!」

大きく口を開けて笑う。年に似合わずなんとも豪快な笑い方だ。

「はい、これからよろし…え?これから?」

「おう、当たり前だろ?記憶がないってことは身寄りがないことも一緒さ。それに…」

 クロンがクルセイドの背中をバンと強く叩く。装甲で守られているはずだがかなり衝撃がきた。

「あんた、ゼニスの野郎に復讐したくはないかい?」

「復讐…」

 そこまでは考えてもいなかった。逃げて生き延びれさえすればいいと思っていたが、その後たった一人で生活をするのは確かにこの体では困難だ。それに、MHを利用した征服を画策している社長をこのまま放ってはおけない。個人的な恨みももちろんあるが。

「…わかりました、今日から俺はクルセイド。社長…いや、ゼニスに復讐をする人間です」


━こうして、名も無き一人の青年の、平和と自身の尊厳を守る戦いは始まった。まだ見ぬ敵と、その奥に佇む諸悪だけを見据えて。

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