第22話 調査隊


 アルゴとヒスイの二人は問題の村の一つ、リール村に向かっている最中だった。

 十人ほどの冒険者の集団が前をいき、その少し後方で追いかけるように二人は馬に乗り走っていた。なぜそんなに距離を取っているのかというと周りの視線が非常に面倒に感じたからだ。

 彼らは大した武器を持たないヒスイを見ては足手まといを蔑むような視線を向けるのだ。魔術師は数が非常に少なく、他者と組んで依頼をこなすこともほとんどないため、一般的に認知されていないのだ。それでも声をかけることもなく視線だけで済んでいたのはひとえに彼女の隣に並ぶアルゴのおかげだろう。一部、何を考えているのか、ねっとりと舐め回すような嫌な目つきでヒスイを見ている者もいたがアルゴが睨むと以後そのようなことはなくなった。

 ヒスイに向ける視線とは打って変わりアルゴには皆、明らかに恐怖や畏怖の感情を内包した眼差しを向けていた。関わりたくない、わかりやすくそんな心情を読み取れた。

 そんな二人の凸凹で全く調和が取れない組み合わせがさらに異質さを醸し出し、周囲から浮いている。そのことがまたさらに別の種類の視線を呼び寄せる。

 そんな周囲の目に嫌気がさし、最後方に移動した二人は今に至る。


「アルゴにビビるようじゃあの鬼が出て来た時には期待できないわね」

「その判断基準はどうかと思うが」

「先頭でやけに周りを仕切っている人がかろうじて上級かどうかといったところかしら。あとは私と中級だけど武器のせいで過小評価されていたアルゴぐらいね、使い物になりそうなのは」

「ヒスイは上級だったのか? あの馬鹿火力の炎を生み出すとなるとそれも当然と思えるが」

「あら、もう何ヶ月もの付き合いになるのに知らなかったの? これでも上級冒険者よ。でも、たまに個別の依頼を受ける以外は中級と基本的に変わらないから気づかないのも無理ないわね。場数が少し足りないけどアルゴも実力は上級を軽く超えているから安心しなさいよ」


 自分の半分以下の年齢であるヒスイに場数が足りないと言われてアルゴは少し複雑な気持ちになる。ヒスイのように子供の時から冒険者業をやっていたわけではないことに加え、農閑期という限られた期間しか冒険者業をしていないので仕方ないといえば仕方ない。しかし、まだ成人もしていないヒスイがそこまで気負わなければいけないことにアルゴは割り切れない思いを抱いた。



 それからしばらく経ち、ミトレスの町から馬で四時間ほど移動した頃ようやくリール村だった場所に到着した。

 

 村の惨状はひどいものであった。およそ村の様相を成してはいなかった。家々は燃え尽きて黒く焼き焦げ、すでに炭と灰になっていた。それでも所々に小さな火がまだ残っていて、あたり一面から煙がくすぶっていた。

 初めてこの惨状を見た面々はもちろん、一度同じような光景を見ているアルゴとヒスイさえも思わず呆然としてしまう。


「速やかに住民の捜索と魔物の確認を取れ! 必ず二人以上で行動しろ」


 そんな集団を叱咤するような声が響いた。特に隊長など決まっていないのだが先程からアルゴとヒスイを除いた集団を仕切っていた男の声であった。異論の在るものはいないのですぐさま我に返った者たちは行動に移す。アルゴとヒスイもその一部であった。


「やっぱり慣れるもんではないわね」

「あぁ、今回こそは一人でも助けられるといいんだが」

「……前回は私を助けてくれたんだからそれを忘れてはダメよ。アルゴがいなかったら死んでたと思うわ」

「そうか……ヒスイはあまり村の住人という感じがしなくてな。無駄口を叩く暇はあまりないな。とにかく探すぞ」


 こうして手分けして捜索がなされた。リール村は比較的広い村だが、所詮は村なので捜索はすぐに終わった。だが人一人、魔物一匹足りとも見つけることは叶わなかった。


「全員逃げたのか? 魔物の集団に襲われたと聞いたから一人の死者も出さずにただの村人が逃げおおせるとは思えないんだが……」

「隊長! 反対側の村の入り口付近に比較的新しい足跡と車輪の跡がありました」

「なにっ!」


 リーダー気取りの男はいつのまにか本当にリーダーになっていたらしく隊長と呼ばれていたが気にする者はあぶれていたアルゴとヒスイを除いて誰もいなかった。


「このまま帰るわけにもいくまい。よし、その跡を追うぞ」


 隊長の指示で次の方針が決まった。追跡となるとここで時間をかけるわけにはいかないのですぐさま行動を開始する。



 その後、休みもせず一時間移動し、そろそろ休憩を取らねば馬がもたないというところで最後方を行くヒスイとアルゴは前から届く声を聞いた。


「何かいるぞ!」


 声を聞き二人も隊から横に少しずれて前を見ると確かに豆粒ほどの小さな何かがうごめいている場所が確認できた。


「ゴブリンだな。オークも確認できる」


 何か見分けがつかずじっと目を凝らしていたヒスイの隣でアルゴが呟いた。


「あれが見えるの? 顔と体以外に目まで人間離れしていたのね」


 もはや驚きを通り越して呆れるようにヒスイが返した。すぐさま威圧的なアルゴに代わってヒスイが隊長の元へと報告に行く。ここ数ヶ月の付き合いでアルゴに代わり人と話したり交渉するのはいつのまにかヒスイの役目となっていた。

 ヒスイの話に隊長は半信半疑の様子だったが、どちらにせよ近づくほかないので慎重に接近することとなった。戦闘となっては他人と離れすぎていては危険なので二人も隊長への報告で隊の前へ来たままそこに留まり先へと進んだ。周りの戦闘力に少し不安を抱いていたことも前に留まった理由だった。

 いきなり前に陣取り始めた二人になにやら物々しげな視線を送る者もいたが、アルゴがいるのでとやかく言われることはない。


 そのまま豆粒ほどだったものに近づくと段々それがはっきり見えるようになってきた。

 深緑やくすんだ青、姿形ははっきり見て取れないが明らかに人間に色ではない。


「魔物だ! 気をつけろ」


 隊長が全員を引き締めるさせるように大声をあげた。

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