いま大切なものは

 どうしても欲しいのならば、力を示せ。己の力を。


 一度始めてしまったら引き返せない。相棒の竜と共に森や砂漠、山岳地帯をひたすら駆け抜け、指定された目的地に到達する。ただそれだけの競走。

 優勝者には賞金と、望みを一つ叶えてもらえるという副賞がある。

 賞金はどうでもいい。だが、欲しい者がいる。どうしても欲しい人が。

 そのはずだったのに。

 もたれていた大きな体が身じろぎをしたので、目が覚めた。日の出はまだだが、空はすっかり明るい。

「……おはよう、相棒」

 ただ駆け抜けるためだけに得た相棒は、何も知らず懸命に駆けてくれる。

 長い首を曲げて擦り付けてくる頭を優しく撫でている間に、太陽が顔をのぞかせる。

 一日がまた始まる。


※299字

※毎月300字小説企画参加作品、第7回お題「朝」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る