風、来たる

 一生を、地面から離れずに生きると思っていた。

 自分が「翼なき鳥の一族」と知ったのは十になる前。ある程度の常識が身に付き、将来の姿が朧気に見えていた頃だった。

 故に、お前の背には目に見えぬ翼があり風に乗れるのだ、と言われてすぐに納得できるわけがなかった。迎えに来た姉と名乗る人が、鳥のように目の前に降り立ったとしても。

 あれから七年。自分にも翼があるとは未だに信じられない。

「いずれ風に呼ばれるから」

 姉は微笑む。

 そんなことがあるのだろうか。自分の背にある翼と同じくらい信じられなかったのに――。

 嵐の夜、呼ばれた気がした。

 ふらりと外に出て、猛々しい風に向かって両手を広げ、気が付けば体は天高く舞い上がっていた。


※300字

※Twitter300字SS企画参加作品、第92回お題「来る」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る