種撒く人

「私の記憶に間違いなければ蒼藤の月一日。晴れ後雷雨。気持ちよく寝ていたら雷に起こされ、雨に見舞われる。昼寝を邪魔され不愉快だが、全身が洗えてすっきりできたので良しとする」

 話しかけていた相手である黒く小さな種を、薄緑色の瓶に入れてしっかりと蓋をする。

「それゆけ」

 星屑のような波が打ち寄せる汀から、力の限り遠くへ投げた。この星のどこかに流れ着いて、花開くことを願いながら。

 果てしなく広い宇宙のどこか。航行中のトラブルでここに辿り着いたのは私一人。

 孤独に慣れているとはいえ、いつまでも一人というのは寂しい。

 種が根付き花が咲けば私の言葉を囁く。


 私に気付いて。


 未知の誰かに届くことを願いながら、今日も種を撒く。


※300字

※Twitter300字SS参加作品、第75回お題「届く」

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