リズムゲームプラスパルクール
アーカーシャチャンネル
リズムゲームプラスパルクール本編
これが全ての始まりだった
西暦2019年4月9日、動画サイトにある動画がアップされた。
この動画はある種の問題提起をしているのではないか――とネット上では言及されている。
その内容を巡っては賛否両論あり――これがネット炎上の火種になる可能性も懸念していた。
その動画内容は、以下の通りだが――この動画を若干短縮したバージョンも出回っている噂もある。
しかし、それでは内容が伝わらない可能性は高いだろう。
下手に一部をカットすれば、発言を歪めたとしてネットが炎上するのも否定できない。
それを踏まえ、ここでは本家動画を流す事にする。
私の名前はビスマルク――あるARゲームに関して調査をしている。
それ以外にもARゲームを正しい方向へ向かわせる為の活動もしているが――そちらは別の機会にでも語ろう。
西暦2019年4月9日、ARゲームのアンテナショップである作品の情報が解禁された。
その作品の名は『パワードミュージック』、名称だけは知っていたユーザーもいたのだが、その詳細が判明したのはこの日である。
自分も4月1日の段階ではシステム解説を見てもARゲームのソレとは大きく趣向が違っていた。
システムとしてはARパルクールと言うパルクールにも似た競技にリズムゲーム――要するに音楽ゲームを足した物と言える。
ARパルクールのシステムは、基本的に市街地を舞台にスタートラインからゴールへ辿り着く事が目標とされている。
コースに関しては大まかな物しか存在せず、中には駅の構内や商店街、ショッピングモールの中を走る物だってある位だ。
こうしたコースに関してはパルクールの基本理念からするとアクロバットとして認められていないケースが多いだろう。
しかし、それでもARゲームの場合はARアーマーと言う特殊素材を使用し、拡張現実技術を最大限に利用した安全対策が施されている――。
ARゲームの専用インナースーツを装着し、データを読み込ませる事で特撮ヒーローや魔法少女、西洋の騎士等に変身する事が可能で、それらの映像がそのままアーマーとしてプレイヤーを守る仕組みだ。
これほどの装備がゲームに必要なのかと言われると疑問を抱くゲーマーもいるかもしれないが、安全対策の為にも止む得ないのかもしれない。
遊園地やテーマパークでも事故が確実に起こらないとは言えないだろう。それを考慮しての対策――と言えるかもしれない。
これだけの重装備がプレイする際に必要なARゲーム、それを科学の力を超えた代物と表現するネット住民もいるだろう。
どう考えても、これを魔法と言うユーザーは多いのは明白である。しかし、ARゲームの技術は、それを可能に――してしまったのだ。
フィクションの世界の存在だったヒーローに誰もがなれる――という触れ込みでARゲームは爆発的にとは言わないが、それなりにヒットした。
そうした技術の発展がさまざまな分野に還元され、ARゲームも市民権を得ているのが――この世界の現状。
それを踏まえてARゲームを町おこしやコンテンツ流通等に利用しようと言う関係者は多いだろう。
話を元に戻す。『パワードミュージック』のシステムでリズムゲームを思わせる要素は、使用するコントローラーでゲームフィールドに出現するノーツを叩くことだ。
叩くだけではなく、撃破する、接触する、通過する――と言った行動でも可能らしいが、よくは分かっていない。
ゲームフィールドの外ではノーツが発生しないので、一時期問題化した某作品の様な事はないと思うが――筺体クラッシャーが心配だな。
肝心の筺体に関して調べようとしたら、その画像は何処にもなかった。受付代わりのセンターモニターとなる筺体写真は確認出来るが――どういう事なのか?
簡単に言えば、エイプリルフールのネタとして一時期的なブームだけで終わるのを恐れたというのもあるだろうか?
一見しただけで内容を理解しろと言うのは酷なのかもしれない。
その一方で、さまざまなARゲームが草加市周辺で正式稼働され、リリースラッシュとなった。
ARゲームでは一般的なFPS、TPS、更にはイースポーツ化の話がある格ゲーもそうだな。
リズムゲームも『パワードミュージック』以外で複数確認出来るが――どれも敷居は低くされており、『パワードミュージック』よりはユーザーが集まりそうだ。
しかし、ARゲームに関しては過去に様々な事件もあっただけに、ネット炎上を含めてコントロールが出来ていない現状も――ゼロではないが、存在したのは事実だろう。
その中で唯一コントロールを可能にしていたのが草加市、そのノウハウを得ようと各都道府県から職員が派遣される事態にもなっていた。
実際、2月や3月には多くの職員の姿を草加市で目撃したという事例があって、不正行為が減ったというニュースもある。
こうした部分からすると、職員が大量に押し寄せたのはマイナスではなかったという事かもしれない。
その草加市なのだが、実は2019年よりも以前から準備を行っており、情報のコントロールも容易でなかったと当時のニュースでは書かれている。
自分もさまざまな媒体から情報を仕入れているが、ネット上のニュースが大半で、テレビや雑誌と言った物では取り上げられた事例は少数しかない。
こうした噂などもネット上の情報と言う事もあり、あっさりと受け入れられるかどうかは――今回の一件とは別の話だろう。
自分も正確なソースがないニュースは信じない。それ程、ネット炎上事件が起こした悲劇は計り知れない。
水面下でARゲームに関してのガイドラインや整備を行っていたエリアとしては、竹ノ塚、西新井、秋葉原、北千住等――皆無という訳でもなかったが、これらの事実は知っているユーザーが少ないのが現実だ。
これらの事例がニュースで大きく取り上げられたという事は報告されていない――。
その理由は別の勢力が情報操作をしていた可能性も言われていて、自分も調査をしている所だ。
理由の一つとしてネット上で取り上げられているのは、政府が超有名アイドルコンテンツを大々的に宣伝する為、東京で行う予定の国際スポーツ大会とタイアップしようと言う計画書が存在した事である。
この計画自体は別の所から流出したとも言われているのだが――週刊誌報道でも出所まで報道している物は、確認できていない。
このニュースが大きく報道され、一部テレビ局以外ではARゲームの話題を取り上げることはなく――報道バラエティー番組は、このニュース一色と言ってもいいような状態になった。
それこそ、まとめサイトや炎上サイト等が堂々と動いて世論を誘導する位には――と言うのは、あくまでも憶測でしかない。
残念ながら、その証拠をこちらも掴んでいない以上、自分も下手に話事は出来ない。さっきの事は忘れてくれ。
そうした事情もあって、ARゲームの話題はニュースと言ってもネット上をにぎわせる位程度に終わった――という記事もあるらしい。
そう言った日本のコンテンツ流通の背景もあってか、草加市の行ったARゲームによる町おこしは周囲から大注目されている。
過去にもVRゲーム等で町おこしを考えようと言う動きはあり、一定の評価を得た地域もあったが、周辺住民から理解される事はなかった。
だからこそ、今回の事例は成功させるべきなのだと思う。
自分が話せることは全てだ。
全ては繰り返されるのか――アカシックレコードというレールの上で。
だからこそ、今度は同じことの繰り返しにならないように――我々が正さないといけないのかもしれない。
ARゲームは――本来であれば過去にはグレーゾーンと言われていたようなゲーム技術を利用したもん度得あり、それに罪悪感を持つ人物もいる。
こうした議論はネット上で炎上の種として、既にアフィリエイト系まとめサイト等で悪用されてしまっている――。
繰り返しになるのだが、我々がARゲームを利用して悪しきコンテンツ流通や超有名アイドル商法を止めなくてはいけないのだ。
動画は、ここで終了している。再生されている間に流れたコメントは大抵が、彼女の発言を半信半疑で考えている物ばかり。
彼女の発言を鵜呑みにして拡散しようと言う人間はいない。そんな事をすれば――ネット炎上をする事が避けられないからだ。
鵜呑みにしたとしても、被害妄想と言う事で片づけられてしまう可能性は非常に高いだろう。
実際、ネット上でも似たような扱いで片づけ――。
そんな繰り返しが展開されているのが、この世界なのかもしれない。
動画の投稿者の名前はビスマルク――ネット上では何かの偶然を懸念していた。
【鉄血のビスマルクか?】
【まさか? それは偶然の一致だ】
【動画のキャプション文にも――ただのビスマルクと書かれている】
【創作作品でもビスマルクの名前は多く目撃されている以上、偶然と言うべき可能性は高いが】
【本当に偶然なのか――?】
ネット上では、ビスマルクと言うハンドルネームにも疑問を思う個所があった。
西暦2019年、技術革新があったとしても1980年代等の漫画にあった二十一世紀は訪れなかった。
日本でも同じような物であるが、唯一の違いがあるとすれば耐震等を含めた自然災害対策が劇的進歩を遂げている部分だろうか。
そうした技術革新は歴史の教科書でも学ぶ事が出来るだろうが――今は、その話題とは違う話題に触れる事にする。
「ARゲーム――ここまでの物になるとは、我々も予想外だ」
都内某所の芸能事務所、その会議室では何かの戦略会議を行っているようでもあった。
「2、3年前であれば我々アイドルの方が売れると断言できますが、今となっては――」
複数の芸能事務所から担当のプロデューサーが、この芸能事務所に集まっているようであった。
全員が同じような背広姿ではないが――服装によって芸能事務所の善し悪しが分かる訳ではないだろう。
「いっそのこと、金の力で潰しますか?」
ある男性プロデューサーの一言を聞き、周囲が凍りついた。
それ程に彼の発言が地雷になっているのは言うまでもないのだが、逆に言えば逆転の一手でもある。
「今となってはアイドルが出過ぎた為に、活動が目立たないようなアイドルも存在している。何とか、活動出来る場所があれば――」
「そこで、ARゲームですよ」
「我々が敵視していたジャンルに――アイドルを派遣すると言うのか?」
「その通りです。我々は、日本でテロを起こそうと言う訳ではありません。あくまでも――芸能活動をするだけです」
会議はその後も続くのだが――あるプロデューサー1人に主導権を握られているのは、誰の目から見ても明らかなのは言うまでもない。
この会議での決定事項はネット上に漏れる事はなかった。そんな事をすれば、今や国家予算匹敵するようなビジネスチャンスを捨てるような物である。
しかし、仮にそうした情報が週刊誌で報道されたとしても『三文小説』と切り捨てられるのは、目に見えているようなレベルの計画であり、芸能人の不倫等と比べると注目度は低い。
こうした事情も――超有名アイドル商法を悪だと断罪しようとしても、切り捨てが出来ないという現状である。
一方で、ARガジェットに関しては憶測で多数の噂が存在する。
ネット上の都市伝説として言及されている古代ARゲーム、人には扱えないようなスペックを持ったガジェット――そう言った話は目撃例が多い。
「不正ガジェットか――」
草加駅に姿を見せたのは、黒い提督を思わせるARガーディアン――その辺りを知らない観光客はコスプレイヤーと勘違いし、写真をスマホで取ろうとするが――。
「写真が撮れない?」
ある観光客が驚きのあまりに声を出す。
草加市内では一部のARゲームを展開しているエリアでは不具合発生を防ぐという理由で、携帯電話の電波が県外になる場所が存在している。
それを知らない人物がスマホで写真を取ろうとしたら、撮影に失敗したのだ。
しかし、ガーディアンは写真を取ろうとした観光客よりも、別の場所で検出された不正データの方に興味を持っていた。
「どうやら、草加駅の近辺で不正データが反応されたらしい。まずは、そちらへ向かう」
既に複数の部隊で姿を見せており、その何人かが指示された場所へと向かった。
彼女たちの目的は不正ガジェットの摘発である。不正ガジェットには賞金がかけられており、そうしたガジェットを専門にハントしているゲーマーもいる程。
舞台は埼玉県草加市――ARゲームのコンテンツ流通を正常化しようと動きだす勢力は複数存在している。
彼女達による行動は、過激派のソレともネット上では言及されていた。
こうした動きに対してARゲーム運営は頭を痛めている。他の地域の迷惑になるとも考えている可能性が高い。
「ARゲームねぇ――」
メイド服姿でも、メイドカフェのスタッフと認識され、ここでは特に注意されない。
髪型は黒のロングでメカクレ。身長は170センチ、貧乳という気配のする体格の女性は草加駅前の電光掲示板を見つめていた。
「やっぱり、ゲームにトラブルはつきもの――これだけは避けられないのかなぁ」
彼女が頭を抱えたくなったのは、今まで自分が見てきたゲームのトラブルの数々だった。
それだけでも列挙しきれないほどのレベルであり、両手の指で数えるのも困難かもしれない。
「これから、どうしようか――?」
天津風(あまつかぜ)いのり、彼女が電光掲示板を見つめていた際に何か大きな爆音がした。
その方向を振り向くと、そこにはARゲームが行われていたのである。
しかも、周辺の住民からすれば騒音で警察を呼ばれそうな――リズムゲームだ。
4月9日午前11時、ある情報が解禁されたのはその辺りだろうか。
新宿駅近くの中規模アンテナショップには長蛇の列が出来ると思ったが、その予想は別の意味で裏切られる事になった。
客足がゼロと言う訳ではなく『パワードミュージック』に足を止める客がいないというのが正しいのかもしれない。
「人数が――思ったほど伸びていないのか」
あるギャラリーの人物は、こうつぶやいた。さすがに写真を撮ってSNSへアップしようとは考えていなかったが。
完全予約制と言う訳ではなく、情報の出たタイミングが本日の午前9時では――周知も出来ていないと言うべきだろう。
SNSでのフライング情報もあるのではないか――と考えられたが、これに限っては情報がない。
本来であれば、前日にフライングで情報が出るのもNGと言う様な状況が理想であるが、まとめサイトや様々な状況が――それを許さないという空気を生み出したのだろう。
「他のアンテナショップも同じなのか?」
別の男性は、この現象が都心部特有と考えている。彼らがいた場所は、新宿駅近くのアンテナショップである。
場所によって人気と言うよりも推しのARゲームは異なる場合が多い。新宿の場合はビル街と言う事もあって、ARパルクールには不向きと言うのがあるのだろうか。
同じようなことは渋谷や品川、東京駅近くでも同じだった。オフィス街ではARパルクールの様なフィールドを使う系列の人気はいまひとつである。
ビル街のビルとビルの間を飛び越えられれば――と考えるユーザーもいるだろうが、安全面を前面に推し出しているARアーマーでも命に関わるような危険行為は禁止していた。
物には限度があると言う証拠だろう。そこまでARガジェットは魔法の便利アイテムではない事も――ネット上では深く言及されていないが。
同時刻、西新井駅近くのショッピングモールに併設されたARゲーム専門店――そこでの客足はそこそこだった。
新作ARゲームとなると反応が早いのは、このエリア特有である。
有名プレイヤーを多く輩出している訳ではないが、聖地として有名なのもポイントだろうか。
「レースモチーフな音楽ゲームは過去にもあったけど――」
ある女性プレイヤーは、『パワードミュージック』の電子パンフレットが入ったタブレット端末を手に取る。
しかし、反応は決して良い物ではない。批判的な意見ばかりで炎上させようと言う物ではなく、端的に言えば場所が悪いのだ。
確かに反応が少ないエリアと比べると、足を止めてパンフレットを手に取るユーザーがいるだけ、まだ西新井はマシな方だろう。
「ARパルクールはプレイ人口は多いが、マニアックなジャンルである事が言われている」
「物好きなプレイヤーが参戦する可能性はあるが、ここでは――」
「他のARゲームが支持されている以上、客足が鈍るのは自然と言える」
「新作ゲームの場合、ARゲームでは前評判よりもジャンルが何かで客足が変わるとも言われているが」
「情報が出そろうタイミングも遅かったのも――損をしているかもしれないな」
何人かのユーザーも同じような意見が多い。決して悲観的な意見ばかりではないのだが、そう聞こえても仕方がないのは当然だろう。
実際、情報解禁時期が一番足を引っ張っているのは言うまでもないからだ。
同時刻、草加駅近辺のアンテナショップ、そこでは10人ほどの列が出来ていた。最後尾にいるスタッフは立て看板を持っている。
「パワードミュージック、エントリー予定の方はお早めに!」
男性の声が響く。他のエリアと違い、草加市では少人数ではあるものの、行列が出来ていたのだ。
情報が解禁されたばかりなのに、これだけの列が出来るのはおかしいと考えるユーザーもいる。
中にはサクラが混ざっている可能性があると考えるユーザーもおり、その様子をSNSへアップしようと考えている人物もいた。
しかし、そんな事をしたとしても注目を浴びる事はないだろうと言う事は予測できる。
その理由として、『パワードミュージック』の情報がネット上に公開されたのが9日の午前9時頃と言うのもあるからだ。
もしかすると、こうしたネット炎上を避けるために情報公開を遅らせたという説もささやかれているが――。
【真相は不明だが、情報公開を遅らせた理由はネット炎上防止らしい】
【草加市ではARゲームで町おこしをしようと言う一方で、こうした炎上の話題は避けたいと言える】
【ネット炎上自体が魔女狩りと同様に――】
【しかし、ネット炎上を仕掛けようとした人物が次々と逮捕されているのには、理由があるようにも思えるが】
【魔女狩りなんて旧世紀の考え方だ】
ネット上のつぶやきも、色々な発言が――という状態である。
ネットを炎上させてまとめサイト等で儲けようという人間もいれば、超有名アイドルの知名度を上げる為のかませ犬コンテンツを探すファン――。
どういった考えを持ってつぶやきサイトを見ているのかは、十人十色である。そして、どういう風に発言を取るかも個人にゆだねられていた。
同日午前11時30分、草加駅近郊のゲーセンから一人の女性が出てきた。
服装はジーパンに半袖シャツ、それに野球帽と青色のサングラス、黒髪のツーサイドアップ――その割に目立っていたのは身長が190センチに近い事だろうか?
「ここ最近は、音ゲーをプレイするゲーマーが減っているのかな」
彼女は冷静に分析をするのだが、ゲーセンの混雑具合を踏まえると少し違うように見える。
平日のゲーセンなので、土日等に比べると人が入っている訳でもない。音楽ゲームの新作が入荷するという情報もない為、新作が稼働したてにプレイするプレイヤーもいない。
「その割には格闘ゲームにもプレイヤーが集まっている訳でもなかった。一体、どういう事なのか――」
店内では混雑している様子はなかったのに、ある一角だけに集中している印象を感じた。
そこに置かれているのは筺体ではなく、センタースクリーンである。そこに映し出されていたのは、リアル格闘技とも言えるようなAR格ゲーだった。
それ以外のARゲームも中継がされていたが、彼女は格ゲーのモニターを注視している。
彼女が見ていたモニターでは、二人の男性がボクシングの様な殴り合いを繰り広げているような展開になっていた。
しかし、その殴り合いが一変したのは――対戦相手の一人が格闘技中継ではありえない攻撃をした事による物である。
「飛び道具かよ!」
「格闘技の中継かと思ったら、格闘ゲームの中継か?」
「格闘ゲームだったらお互いにアバターではないのか? あれは明らかに人間同士の戦いだぞ」
「要するに2D格闘ゲームを現実で再現した――と言う物か。VRとかではなく、別の技術で」
「さすがに超能力者や異能力者が埼玉県に集中するはずは――ないな。WEB小説じゃあるまいし」
周囲のギャラリーも、この展開には動揺している。
普通の殴り合いに近い格闘技ではなく、プロレスでもなく――目の前に展開されていたのは格闘ゲームである。
しかも、これはCG等の作り物ではない。実際に草加市内で行われているARゲームなのだ。
さすがに飛び道具はCGの演出による物と見る人間が見れば分かるのだが、初見でこの光景を見れば動揺するのは明らかだろう。
「映画の宣伝にしては、かなり作り込まれているようにも見えるが――」
彼女は、この映像を見て最初はゲームとは認識していなかった。
画面の周囲には体力ゲージや○人抜き等のような格闘ゲームでは馴染みのあるガジェットがあるのだが――。
これをゲームと気付いたのは、試合が終了して相手プレイヤーが勝利した後だった。
【YOU WIN!】
勝利したのはフード付きの上着を着た男性であり、飛び道具を使った人物ではなかった。
その後、試合結果が表示されて――そこでゲームだと彼女は気づいたのである。
ARゲームは、何処も同じように命を賭けるようなジャンルばかりが――という認識を彼女は持っていた。
確かにARゲームにはFPSやTPS、対戦格闘等のジャンルが存在し、時としてリアルファイトを思わせるような事件が起きる事もある。
しかし、ARゲームはデスゲームの様な行為を一切禁止しており、彼女の認識はARゲームをWeb小説のチート物等と考えている可能性も否定できない。
「これも、ゲームなのだろうか?」
彼女がモニター上で繰り広げられている光景を見て思った事をストレートに言うのだが、周囲が彼女の声を聞き入れる事はなかった。
完全スルーと言う類ではないのだが、あえて自分で調べろと言うアピールかもしれない。下手に関わりあいを持ちたくないという意思表示とも取れなくないが――。
その後、彼女はゲーセン近くにあったアンテナショップが目に入り、そこへ向かう事にしたのである。
「桶は桶屋――と言う事か」
結局、ギャラリーだった人物を捕まえる事が出来なかったので、彼女はアンテナショップの自動ドアの前に立ち、店内へと入って行った。
4月9日午後1時、気が付くと『パワードミュージック』のユーザー数は1万人を突破していた。
事前登録の類で1万人突破と言う訳でなく、実際に稼働している状態での1万人突破である。これに関しては驚く声もあった。
ちなみに、これに関してはあるトリックが存在する事がネット上でも言及されており、他言無用という条件のβテストが行われていたという話である。
これを信じるユーザーは非常に少なかったが、βテスト自体は数回ほど行われている事がウィキでも言及されている為、半分は事実なのだろう。
さすがにまとめサイトの話を鵜呑みにするユーザーはいなかったが――。
午後2時、プレイ動画の類がある程度アップされた辺りで評価が変化する事になった。
午後1時の段階では動画は投稿されておらず、実際にプレイが行われているフィールドに行かなければ観戦出来ない状態だったのも理由の一つか。
ゲーセンやアンテナショップ、駅構内等に置かれているセンターモニターで動画をチェックする事は可能だが、大抵がARTPSやAR対戦格闘の中継等に占拠されている。
その為か、新規のARゲームの動画を見るのにセンターモニターは不向きと言われていた。
ARゲーム公式サイトで動画を閲覧する事も可能だが、ジャンルによっては投稿されていないケースも多い。
『パワードミュージック』に関してはプレイ動画の投稿は可能ではあったのだが、プレイヤーが動画投稿機能をオフにしている事が大半だった。
それが動画の少なかった原因だったのである。初期設定がオフと言うのも原因かもしれない。
動画の自動投稿オプションは任意だが、下手なプレイを全世界に晒すのは――という心理も動いている可能性も否定できない状況だが、真相は不明だ。
【プレイ動画の数が少ない。公式の動画もあるのだが、再生数が伸びているのがチュートリアルとか――】
【始まって数時間もたっていないゲームで、あっさりと攻略されたという話も聞いた事がない】
【RPGとかADVだったら、さすがにネタバレ規制が入ると思うが――これは音ゲーだぞ?】
【数時間でレイドイベント陥落と言うのも――ない話ではないだろう】
【何処かのソシャゲみたいにバグが発生したとか?】
【それもありえないだろう】
【何処かの位置ゲーや収集ゲーみたいな事も――】
つぶやきサイトでは、さまざまなつぶやきもあるのだが――今回の動画が少ない原因を完全特定出来た話は聞かない。
動画のアップに関しては特に制限はしていない事が公式ホームページでも言及されているが、1回のプレイ時間も20分~30分位だ。
どうしても動画の数が少ないというのであれば、アップロードが混雑している等の説を疑うべきだろう。
しかし、ARゲーム公式の方で動画のアップロードで不具合が出ている情報はない。
出ていたとしても、一部ジャンルで1プレイにつき1つまでのアップロード制限がかけられている程度である。
「稼働したばかりだから、こんなものか――」
草加駅のセンターモニターで動画を検索していたのは、天津風(あまつかぜ)いのりである。
正式稼働をした辺りでは動画のアップ数が少なかったのだが――今も多いと言えるかどうかは疑問だ。
少ない動画をチェックするよりも、今は別の目的の為にゲームフィールドへ移動する事に。
午後2時30分、谷塚駅近くのARゲームフィールド、そこでは金網デスマッチを思わせるようなリングがアンテナショップ内に展開されている。
既に前の試合では10連勝したプレイヤーが乱入者に倒され、未だに周囲は動揺を隠せていない。
「10連勝のプレイヤーが倒されたぞ?」
「あのプレイヤーは実際の格闘技にも精通していると聞いていたが」
「所詮、格闘技と格闘ゲームと同じジャンルと認識していた慢心が敗因だろうな」
「しかし、あの女性プレイヤーも相当の実力者じゃないのか?」
「AR格ゲーはプレイ人口こそは他のジャンルよりも多いとは断じて言えないが――実力者が多いのは事実だろう」
「しかし、あの人物は見た事がない。データの更新ミスか?」
周囲では、色々な声が聞こえる。中には10連勝していた人物に賭けていたという――非合法のARゲームカジノとも言うべき物に手を染めているような人物の声もしていたが。
彼女のデータがないのはデータミスと言う訳ではない――単純な事を言えば、このARゲームは初めてプレイする物だからだ。
他のAR格ゲーはプレイ済みでも、実際にプレイするARゲームが初プレイの場合は勝率等が反映されない。
基本的にはARゲームでのカードプレイは必須であり、カードプレイでない体験プレイが稀と言うのはネットでも有名な話だ。
それを踏まえれば、データがないというのも納得が出来るのかもしれないが。
「AR格闘ゲームのレベルも――って、言ってる場合じゃないか」
身長168センチと格闘家としてはごく普通な身長だが、金髪のロングヘアーに青色の眼――これは、どう考えても格闘家には見えないだろう。
格闘家よりも格闘ゲームのプレイヤーキャラと言う様な外見であり、コスプレイヤーでも乱入したのか――というブーイング交じりの声も聞こえた。
体型もマッチョと言う訳ではなく、この体型でどうやってあの相手を倒したのかを知りたい位かもしれない。
やせ型の体系でもARゲームが出来ないという訳ではないのだが、その場合は別の何かを疑われる。特に体力を使うタイプのジャンルでは。
彼女が、色々と思っている間に次の相手が乱入してきた。
ARゲームの場合は格闘ゲームにあるようなCPU戦と言う概念は存在しない為、基本的には対人戦がメインとなる。
中にはAR映像のダミープレイヤーが乱入してくるようなタイプの物もあるが、今回のARゲームでは特にないらしい。
「貴様のようなアイドルあがりの――」
フィールドに入って来た対戦相手の男性が不用意な一言、それは彼女を怒らせるには十分な理由だった。
ラウンド1が始まってすぐ、彼女のパンチ一発で勝負は決まった。俗にいうTKO勝ちである。
「あのパンチ、見えたか?」
「全く見えなかった」
「データエラーの類じゃないのか? 必殺技によってはラグが出ると言う話だ」
「ラグがひどい場合はゲームが止められる。それはさすがにないだろう」
「そうなると、文字通りのワンパンチ決着と言う事になるが――」
周辺の観客も何が起こったのか把握できていない。AR格ゲーなので、ARウェポンは使用に問題はないのだが――。
相手の方もワンパンチでKOされた事には気づいていないだろう。彼は痛みを感じる事無く――速攻で倒されたという事になる。
そして、先ほどのワンパンチに関してのスローモーションが流れると観客騒然という流れになった。
確かにワンパンチは間違いないのだが、右腕に装着されていたのはARガジェットだったのだ。
形状的には大型のナックルと言うよりはパイルバンカーに近い。打ち出したのはビームパイルと言った具合か。
更には、ビームパイルは一発だけでなく服数発は命中していたか?
「悪いけど――そう言うネット炎上を誘発するような案件は、持ち込んで欲しくないかな。ARゲームには――」
後に判明した事だが、彼女の名前はアイオワと言うらしい。
ただし、他のAR格ゲーには該当する人物の名前は確認できなかったというが――。
おそらくは、今回のARゲーム用にエントリーした可能性がある。
【アイオワ、こちらも名前に法則があるのか?】
【ビスマルクと言うプレイヤーとの関連性を疑うのであれば、それは違うだろう】
【色々とネーミング法則に疑問を持つというのなら、別の角度から調べるのもよいだろう】
あるつぶやきを見たアイオワは、目つきを変えて周囲を見回したが――何者かの視線を感じる事はない。
これを忠告と言う風に受け取る事はなかったが、彼女としては何を思ったのか?
その後もアイオワは乱入してくる相手を次々と撃破するが、20人辺りで別のプレイヤーに倒されることとなった。
午後3時、ある人物のプレイ動画が注目を浴びた。形式は対戦ではなく、ソロプレイのようだが――場所は谷塚駅近辺だろう。
その人物の外見は、ブラックのインナースーツ、軽装アーマーにはダークブルーのクリスタルが装飾されていた。
それ以外にも、音楽ゲームにあるようなDJのターンテーブルと鍵盤を足したようなコントローラのデザイン――これに関しては理解に苦しむだろう。
ARゲームでは必須のARメットは頭部全体を覆う様な物で、バイザー部分にはツインアイが光る。ただし、光るのは右目の青色のみ。
基本的に、ARゲームで派手なアクションを伴う物は安全対策と言う意味でもARメットが装着義務化されている。2輪バイクでメットを被るのが必須なのと同じである。
【デザインが地味というか――】
【ARパルクール等の走る系列では、ホバー移動の様な物でない限りは重装甲にしないだろう】
【重装甲は走るのにも影響が出る。ランニング系で懸念されるのは、その為だ】
動画内のコメントには、軽装タイプを使っている理由に言及したり、中には無関係なコメントも目立つ。
中には超有名アイドルの宣伝をしているようなコメントもあったが、宣伝目的のコメントは入力しただけでも警告されるジャンルが存在する。
パワードミュージックでは特に警告がないようだが、相当なケース出ない限りは24時間以内にコメントが削除されるようだ。
動画の人物、エントリーネームには木曾(きそ)とあった。偽名かもしれないが――。
身長は170センチ位だが、ARガジェット込みと思われる。男性プレイヤーと言う可能性も疑ったのだが、ある部分を見て不審に思う部分があった。
それは、ARアーマーのデザインである。男性タイプのアーマーと言うよりは女性型に近い雰囲気だ。もしかすると――。
《セッティングスタンバイ――》
システムボイスが流れた後、木曾は音楽ゲームのコントローラにも似たようなガジェットを振り回す。
その後、そこから展開されたのはビームブレードだった。刃の形状は刀と言うよりはロングソードにも見える。まさか、武器格闘なのだろうか?
「さて、始めるとするか!」
木曾は目の前のコースに視線を向け、スタートと同時に走り出した。
4月9日午後1時、その人物は谷塚駅近くのARゲームフィールドにいた。
ARガジェットを装着した女性プレイヤー、木曾(きそ)である。彼女が確認していたのは、周囲のドローンだった。
撮影に関してはARゲーム専用のカメラによって撮影される為、ドローンが飛んでいる事は都合が悪い。
飛んでいるドローンがARゲーム運営の物であれば問題ないのだが、どう考えても運営が飛ばしている物とは考えにくいだろう。
ドローンに関しては、ARゲームのプレイに支障が出る為に一部ジャンルでは該当エリアのドローン飛行を禁止していた。
ドローンの使用が認められているのはARFPS及びARTPSと言ったジャンル――偵察ドローンの類がプレイに重要であるという理由が付けられている為である。
しかし、ARパルクールはドローン禁止の対象――飛ばせば罰金は免れない。
それでも飛ばしているのは、週刊誌がネタを探す為に飛ばしている可能性が高いが――発覚すれば逮捕状が出かねない為、ある意味でもリスクは伴う。
出版社もノーリスクで儲けようという風に考えてはいないだろうが――。
【これだけのドローンを飛ばす理由――何かあるのか?】
【このエリアで芸能人の目撃情報はないが、スキャンダル狙いかもしれない】
【どちらにしても、週刊誌の部数アップ狙いで飛ばしているのか】
【下手にドローンを飛ばせば、ARゲーム関係なしで逮捕されるのでは?】
【ドローン以上に危険なものもあるが――】
ドローンが飛行している様子を、このようなコメントで皮肉を語る人物もいる。
しかし、それらの発言も一種のネット炎上狙いのフェイクと言う可能性も高く、油断できない部分は多かった。
コメントによっては非表示機能があったり、運営側が不適切と判断した物は削除されたりする。
動画サイトでも不適切なコメントが削除されるのと同じ原理――と言えるかどうかは、人によるところもあるかもしれない。
木曾の方は楽曲の選択を完了し、既に準備は完了しているようだ。
《セッティングスタンバイ――》
システムボイスが流れた後、木曾は音楽ゲームのコントローラにも似たようなガジェットを振り回す。
数回ほど振り回した辺りでビームブレードが展開された。その色は青にも近いが――。
「さて、始めるとするか!」
木曾は目の前のコースに視線を向け、スタートと同時に走り出す。
そのスピードは一般アスリートも真っ青なスタートダッシュであり、これがARガジェットの能力なのか――と驚く声も存在していた。
しかし、走り出した直後では何もステージ上には配置されていない。ほぼ直線の舗装された一般道であり、脇に自動車が止まっているのも確認出来る。
止まっている自動車は、ある事情で動かせないという状態であり――障害物にも似たような状態でもあった。
何も配置されていない道路から、他のランナーでも出てくるのか、あるいは敵が登場するのか――。
そうしている内にARゲームフィールドに配置されたスピーカーから音楽が流れ出したのである。
【この曲は?】
【アクションゲームでもBGMは付き物だろう。それじゃないのか?】
【それにしては、曲が何かおかしいようにも――】
【曲が聞こえないのは別に欠陥と言う訳ではない。対応しているヘッドフォンやスピーカーでないと聞こえない】
【それは分かっている。問題は、音が若干――】
コメントでも困惑するようなコメントがあった。それもそのはず――このBGMはキー音がない状態で流れているのである。
普通に楽曲が流れるパターン、プレイする際に太鼓音等であえて楽曲に重ねるタイプも存在するのだが――パワードミュージックはキー音がない楽曲がバックで流れていた。
それに加えて、ARゲーム専用のゴーグルやプレイヤー等でないと音が聞こえない仕組みにもなっている。
プレイヤーのヘッドフォンには、当然楽曲が聞こえていると思われるが――。
これに関してはARゲーム特有のシステム、無関係の住民に対して迷惑にならないよう配慮されている。
動画では音声が入っている状態だが、これは色々な仕掛けがあって上手く動画と音がリンクしている。
しかし、その詳細は企業機密と言う事で明らかにされていないが「魔法」の一言で騙せるような物ではないのも事実だろうか。
このシステムに関しては、初心者プレイヤーにとっては動揺するポイントらしい。リズムゲームなのに、本当に演奏をしている感覚を得られるのか――と。
楽曲が流れてから10秒経過した辺りで、周囲の情景は変化した。突如として出現したのは四角いプレートである。
このプレートは木曾に向かって接近する訳ではなく、彼女の進む先に配置されているようにも見えた。
その証拠に、木曾は走りながらも的確にプレートを真っ二つにしたからである。真っ二つになったプレートはCGが消滅するかのように消えた。
単純に消えただけの様な感じではあるのだが、何か音が鳴ったかのようにも感じた。どうやら、あのプレートにはキー音が仕込まれているらしい。
【あのプレートが楽器代わりと言う事か】
【アレに命中させる事で音が流れ、それで演奏する――と】
【道を走る的な発想を持ったリズムゲームであれば、過去にゲーセンで見た事もある】
【それをリアルのフィールド――それもARゲームで行うのは微妙だな】
【苦し紛れの末に生み出したARゲームにも思える】
コメントは賛否両論であり、中にはジャンル否定とも取れそうな発言もある。
しかし、この否定的な意見は削除されずにそのまま残っているという事は――運営側も若干認めている可能性は高い。
その後も、プレートを見つける度に木曾はブレードで真っ二つにしていく。
コースの直線に配置されている物だけでなく、横に配置されていた物、プレイヤーに向かってくる物もあったように見えるが――。
【的確にプレートだけを真っ二つにしていくのか】
【配置されている全てのプレートを破壊する必要性はないはずなのに――】
【アレがランカーと言う物か】
【シューティングゲーム等であれば、ターゲットを放置して切り抜けるのも戦略だろう。しかし、これはリズムゲームだ】
【リズムゲームの場合は、ターゲットを1個見逃すだけでもミス扱いになる。機種によっては、数個のミスでゲームオーバーになる作品もあるらしい】
動画コメントでも様々な反応があり、配置されたプレートは全て破壊するべきなのか、と言う意見は多かった。
それだけでも10秒に1~2個は見かける程、コメントが流れている。
【これがリズムゲームと言うのか?】
【自分が知っている物とは――次元が違いすぎる】
【これをプレイして何が楽しいと言うのか?】
実際の所は、これがARアクションやシューティングゲームであれば、パーフェクトボーナス狙いでもない限りは問題がない。
しかし、これはリズムゲームの要素も持っている――そこがポイントなのだ。
【あれだけ早く走っても、ターゲットを的確にヒットさせていく――あれだけの動きを数カ月で出来るのか?】
【パワードミュージック自体はロケテストも行われていた。ロケテ勢と考えれば、若干の納得はできる】
【あの動きは、どう考えても一般のアスリートを思わせるほどの反応速度だ。ARガジェットも、あそこまでできるのか?】
【おそらく、ARゲームだからこそだろう。あのアーマーは身体能力を強化するというか、安全性を確保する為の――】
【そこまで説明口調にする必要性はない。あのスーツを装着すれば、ARゲームでヒーローになれる。それ位に単純の方が分かりやすい】
木曾はヘッドフォンに聞こえている音楽のリズムに合わせ、的確にプレートを真っ二つにしているのである。
キー音が若干ずれていた場合、それはタイミングが早すぎた事を意味しているが――彼女には、そのようなミスプレイが見られない。
その証拠に、真っ二つとなったプレートの消滅時演出で表示される文字は【ぱーふぇくと】だった。
文字に関しては英語、カタカナ、漢字、ひらがな等のカスタマイズが可能であり、出現したプレートも用意された種類の範囲であれば変更可能だ。
木曾の場合の【ぱーふぇくと】は丸文字にも似たような物であり、ARガジェットの装備とはアンバランスである。
「これで――」
木曾はバイザーに表示されたノートの残りを確認し、目の前に現れた物でラストであると。
そして、木曾はリズムゲームのコントローラを思わせるブレードの青いボタンを押す。
次の瞬間、ブレードはビームライフルへと高速変形――最後の1枚はビーム光が貫いたのである。
《えくせれんと》
最後のターゲットを撃破した木曾のバイザーには、100%クリアを示すメッセージが表示されていた。
それを見た木曾の方は一安心と言えるような溜息をもらす。それを周囲が気づいているのかは不明だが。
木曾のプレイを見た観客は、驚きの声をあげた。今までにない音楽ゲームを――彼らは目撃したのである。
譜面を長距離のコースに例えたゲームは過去にも存在するが、それをリアルフィールドで展開した物――それがパワードミュージックだったのだ。
しかし、ここまでの物をゲームとして売り出せるのか――動画を見ていた視聴者は思う。
【話によると、3曲設定で100円らしい。装備一式もレンタルできるという話だ】
【100円? それってアミューズメントパークの乗り物よりも安くないか】
【音楽ゲームで1クレジット100円と言うのはあるが、ここまでの物を100円で提供するのは――】
【赤字になりそうな気配もする】
【採算が取れるのか? 取れなければ、あそこまでの事はしないが】
【アイテム課金とかガチャとか――そう言う辺りじゃないのか?】
【クラウドファンディングゲームという単語も存在するが――ARゲームも、その類かもしれない】
プレイ終了後、そんな動画コメントが飛び交う。それ程、ARゲームのプレイ動画は大体がそうであった。
誰もがWEB小説のVRゲーム物の専売特許とも言えるような事を――現実のフィールドでプレイ可能にしたARゲームに、誰もが驚くのは無理もない。
そして、このARゲームを巡って様々な勢力が自分達の目的の為に暴走する事も――この段階では知る由もなかったと言う。
ARゲームが市民権を得るまでには、かなりの時間を要すると思われていた。
それこそ、10年規模――それを瞬時で行ったとも言うべき事件があったのである。
ネット上では『超有名アイドル事変』とも呼ばれていた――暗黒の3日間。
しかし、ネット上では最初から暗黒の3日間と言う物はなかったという意見が存在するのも事実である。
【あの事件自体が、芸能事務所側の作り話】
【ARゲームがネット炎上するように仕組んでいる陰謀論が高い】
【芸能事務所は、世界中にあるコンテンツを我がものに独占しようとしている。それこそ、特定芸能事務所が即座に権利侵害を――】
【便乗ビジネスは他の国でも多く行われている以上、芸能事務所側はありとあらゆるものの特許を得て独占しようとしているのは明らかだ】
【それこそ、アカシックレコードと言う禁断の存在さえも――】
他にも意見は存在するのだが、その半数以上が芸能事務所に対する批判だけであり――それこそ便乗して目立とうと言う人間であるのは明らかだろう。
本当の意味で、この事件に向き合おうと言う人物はいないのか――。
そもそも、ARゲームがそう呼ばれる前は古代ARデュエルと呼ばれていたらしい。
歴史の教科書にも記されている事から、この世界では戦(いくさ)をARゲームで行っていたと言う証拠にもなっている。
だが、待って欲しい。戦国時代や江戸時代、昭和初期と言った時代にコンピュータという物は発明されていないのだ。
それなのにARゲームが存在する訳が――と誰もが思うだろう。しかし、魔法や妖術、陰陽道等によって妖怪などを使役していたとしたら――。
そうした歴史を芸能事務所が何らかの形で触れたことで、ARゲームを危険視して存在を抹消しようとした。
確かに古代ARデュエルは第12次大戦まで実際に行われていた事も教科書には書いてある。
その後、第12次大戦の終結と同時に命を賭けたデスゲームは禁止する事が条約に盛り込まれた。
歴史認識を歪めた事によるネット炎上は今に始まった事ではないが――これは特定芸能事務所のAとBだけが主導で行った事が、最大の原因となった。
その後、それに反旗を翻した勢力が超有名アイドルに対して抵抗、最終的には超有名アイドル側の全面敗北となった。
これが暗黒の3日間の全てであるが――これに関してだけは芸能事務所や政府にとっても黒歴史とも言われており、該当する情報は一切開示されていない。
このような事件が本当にあったのか、そもそも事件自体が芸能事務所の宣伝活動やマスコミを悪用したマインドコントロールなどとネット上でも言われていた。
次第に、超有名アイドルによる――。
「結局、まとめサイトでは調べられるような情報は存在しない――のかもしれない」
こうした意見や記述が芸能事務所の宣伝行為――その一言で片付けようとしている。
それこそがあの3日間を生み出すきっかけになったとも言及していた。ビスマルクも、この件に関しては色々と調べている人物の一人である。
古代ARゲームはWEB小説を元にして捏造した話である――ともネット上では言及する人間がいる。
「何処までが真実なのか――ソースを調べようとしないで、まとめサイトを見ただけで知ったかぶりをする。それがネット炎上を生み出すとも知らないで」
あの動画を作った経緯も、こうした事件を起こすべきではないという警告をする為とも言えるかもしれないが――そうした目的がネット上では歪められるのは、よくある事。
ビスマルクが懸念しているのは、もっと別の事である。超有名アイドルがありとあらゆるものを独占し、その後に何を起こそうとしているのか――。
「考え付く事が容易に想像できてしまう。それこそ、単純明快な程に」
彼女が手にしていた1枚のカード、そのテキストは単純すぎる程に短い物だった。
【このカードを使用した際、フィールドのモンスターカードを破壊する】
誰が見ても強いと明らかに思うカード――説明が長くなく、その強さも非常に分かりやすい。
超有名アイドルが起こそうとしている事案は、それ位に説明が必要がない単純な物――となっては非常に困るのだ。
コンテンツの支配と言えば、紆余曲折があっても分かる人間には分かるだろう。しかし、世界征服と説明すれば――。
4月10日午前9時30分、ある人物がノートパソコンで閲覧しようとしたのはアカシックレコードのレベル5を超えるセキュリティコード。
「結局、この先の閲覧はかなわないか」
彼女はタブレット端末を片手にコンビニの無線LANスポットでコーヒーを飲む。
身長180センチと言う長身だが、肩まで伸びる黒髪のロングヘアーにメガネ――。それでも彼女に接近しようと言う人間は少ない。
いたとしても、隣の席でコーヒーを視線を向ける事無く飲んでいるサラリーマンのようにスルースキルがなければ、難しいだろうか。
「セキュリティレベル5――それはARゲームの存在にも関わる極秘情報と言う事」
彼女に関しては口に出して物を言う様なタイプには見えない。この場で大声を出したら出入り禁止になるのは明白だが。
結局、ネット上でセキュリティコードレベル5を開こうと言う事自体が無茶だったと自覚し、コーヒーを飲み終わった辺りで店の外へ出る。
「ARゲームのイースポーツ化は加速する――か」
午前10時ごろからイースポーツルールが実装されるARゲームも何種類か出てくるだろう。
その中で、自分がプレイ出来そうなARゲームを探すも――アンテナショップへ行かないと答えは出ない気配もする。
「まずは初心者向けでも探しますか」
彼女の名は明石零(あかし・ぜろ)、自分にもプレイ出来そうなARゲームを探す為に谷塚駅のアンテナショップへと向かう事にした。
同刻、同じアカシックレコードを扱ったサイトへアクセスし、レベル5を容易に閲覧している人物もいた。
彼女の使用しているのはタブレット端末なのだが、アンテナショップの市販タイプではなく、カスタマイズ型である。
「意図的な記述変更は――見られないか」
身長165センチに黒髪のセミロング、前髪も若干整えられていた。その一方で、若干メカクレな気配もするが。
彼女の名は飛龍丸(ひりゅうまる)と言い、過去に超有名アイドル事変を救ったランカーとも言われている一人だ。
今の彼女はARゲームのルールを教える側の人間をしているが、それ以外にもガーディアンのメンバーでもある。
「芸能事務所は――同じ事を繰り返して、何が楽しいのか」
飛龍丸は感情を表に出す事はないのだが、この言葉には何か重みがあった。
過去に同じような世界を何度も巡ったかのような――そんな表情さえも感じる。
「結局、芸能事務所側はヒーロー番組のシリーズ物の様に、同じ事を繰り返すしか能がないのか」
タブレット端末を拳を握って殴りたくなる衝動、それが彼女にはあった。
しかし、物に八つ当たりをしたとして状況が変わるのかと言われると、その答えはNOである。
ネットでストレス解消の為に別コンテンツを叩くような発言をし、ネット炎上をするような勢力と――さほど変わらないだろう。
「ARゲームを変える為には、やはり――」
飛龍丸の考えた結論、それは別の人物と同じ答えに至ることとなる。
ここで時間を巻き戻し――西暦2015年。
埼玉県草加市で町おこしの一環としてARゲーム展開しようと提案したのは――ひとりの職員だった。
職員と言っても、彼の趣味がオタク的な物だった訳でもなく、何故にこの提案がされたのは未だに不明である。
彼は将来的にARゲームがブームになると考えたらしい。それを踏まえた上での提案だった。
歴史の教科書でも古代ARゲームが触れられていた事も、今回の提案に関係があったのかは分かっていないが。
ある日、草加市役所内の会議室では定例会議が行われている。
その定例会議では草加市で行う予定のイベントに関しての企画検討が行われようとしていた。
会議室内では、さまざまな企画が提案され、それに関する議論も行われており――中には却下された案もある。
そう言った状況で、あのARゲームに関する案が提案されたのだ。これには周囲もドン引きだったが、それは最初だけだったと言う。
職員の半数はARゲームに関しては反対派である為に、例の意見が却下されるのは目に見えているが――。
「そのような歴史が実在するとは思えない!」
「明治維新以降で解読できていない文書の類は多いという話があるが、それとこれとは話が違う」
「君は魔法等のファンタジー小説の様な物が実在すると本気で思っているのか?」
「あくまでも古代ARゲームは一部の歴史学者による妄言だという見解も出ている。教科書の採用にしても――」
古代ARゲームに関しては歴史認識でも間違っているとする派閥も存在し、それを理由に展開するのは非常に危険だとする意見もあった。
「歴史認識は未解読の文書次第で変化します。しかし、それを考慮しなかったとしても――ARゲームはブレイクするでしょう!」
しかし、この職員は譲らなかった。古代ARゲームがなかったとしても、ARゲームはブレイクすると。
「本当に、ゲームで町おこしが出来るとでも?」
「にわかには信じがたい。アイドルで町おこしの方が早いのでは?」
対抗意見が出る事は考慮済みで、ARゲームがブレイクすると信じている職員はある映像をスクリーンに表示した。
「これは――別の地域の一例です。町民の理解を得たことで、地域振興としても多大な結果を残している事例は存在します!」
彼が事例として提示したのは、茨城県大洗市の事例である。それ以外にも、さまざまな成功例を提示してアピールをする。
「それはあくまでも成功事例。失敗事例も多くあるのは知っているだろう?」
「だからこその超有名アイドルによる地域振興が手っ取り早い――」
ある人物が超有名アイドルの単語を出したことで彼は不快感を示す。
顔には出していないが、明らかに――超有名アイドルに関しては否定的と目を見ても分かる。
「超有名アイドルを地域振興に利用したとしても、一部のアイドル投資家のみにしか効果はないでしょう。それに、芸能事務所に億や兆にも及ぶ大金を払うのであれば――」
この後も会議は続くのだが、この後は議事録にも詳細な記載がない。何故、記載しなかったのかは不明である。
それから数カ月が経過した7月には、ARゲームによる地域振興を行う事が決まったらしい。
この社員は更迭されたり退職したという話が出てくる事はないが、該当部署を外された可能性は否定できないだろう。
一体、彼と市役所との間に何があったのか?
それから1年後の西暦2016年、あの時の発言は現実となった。
ARゲームではないのだが、位置識別型のスマホアプリが爆発的にヒットしたのである。
さまざまなバリエーションが展開される内に、モンスターをゲットしていくタイプのアプリが爆発的にヒット、それによって発生するトラブル等が社会問題化していた。
ニュース番組等では、そのゲームを悪者扱いにし、それとは違うはずのARゲームにも風評被害が及ぶ。
当然のことだが、草加市にも市民からトラブルの報告が相次いだ。
中には、単純に超有名アイドルの方が人気に出ると作為的な偽情報を拡散するケースもあるのだが――。
「やはり、超有名アイドルタイアップ型にしておくべきだったのだ」
「アイドルタイアップならば、政府が援助をしてくれるという話もある」
「今からでも遅くはない。超有名アイドルの――」
今回の事件を受け、草加市がARゲームでの町おこしを取りやめ、今からでも超有名アイドルコラボに変えるべきと発言するが――彼には聞く耳持たずであった。
「それが、今回の狙いでしょう。超有名アイドルコンテンツで日本は全世界を手中に収めようとしている。それこそ、超有名アイドルは唯一神であると海外に知らしめるための――」
結局、ARゲームでの町おこしは続行される。その後、超有名アイドルの芸能事務所が草加市の行動に関して非難する声明を発表するが、これは一部のまとめサイトによる罠だった。
現在の彼は該当部署を外されており、今回の一件に関してはノータッチのはずだが――これも風評被害だろうか?
【アイテム課金型ソシャゲとARゲームはシステムも違うと言うのに、同じように見るのは――】
【AとBは違うのに、同一に扱われるのはネットではよくあることだ】
【最近言われるようになったクラウドファンディングゲームは一体――アイテム課金を投資と言う形にしたゲームではないのか?】
ネット上のつぶやきでは、今回のARゲームが爆発的にヒットした事よりも別の事が話題になっている。
そこから先、一連の事件がどうなったのかはネット上を調べても詳細が書かれていない。
その理由として、まとめサイトの記述ばかりが拡散し、真実が書かれていないという話もある。
「結局、アカシックレコードに書かれた技術を使う事――それがコンテンツ流通の戦争を呼ぶ展開になるのか」
町おこしを提案した職員は思った。
自分が目撃したサイト――アカシックレコード、それが世界を歪めてしまうサイトだったのかもしれない、と――。
その後、彼の姿を草加市役所で見た者はいない。該当部署を外された事により、市役所に関して恨みがあったという事がネット上では書かれているが、市役所側は否定している。
それに加えて、その彼がARゲームの運営に加わったという可能性も運営側の取材で否定。運営に関しては「個別案件」と言う事で詳細を語ろうとはしない。
こうした反応もアイドル投資家や他の勢力が暗躍する事を許した可能性は高いだろう。
西暦2019年3月、その職員は気が付くと草加市役所ではなく、別の勢力に招集されていたのである。
そのガーディアン組織は正しいARゲームの知識を伝え、ネット炎上勢力の思うようにはさせないという趣旨の団体。
ARガーディアンと呼ばれているようだが、それはネット上での話であり――実際の組織名は不明だと言う。
「人の命を軽んじるデスゲーム推進勢力、超有名アイドル以外を認めないようなフーリガン――そうした勢力は許す訳にはいかない!」
彼の発言こそ、ネット炎上勢力の思う壺とも知らず――。
これが悪魔の3日間、あるいはネット炎上戦争とも言われるきっかけである。
この3日間の詳細はアカシックレコードにも記載がない。WEB小説サイトには、いくつかの二次創作があるのだが――大体がナマモノと言われる部類の作品で、資料としては役に立つ事はなかった。
しかし、この夢小説やナマモノカテゴリーの作品は、後にARゲーム運営で大きな意味を持つようになる。
4月10日午前9時50分、コンビニから近くのゲーセンへと移動していたのは飛龍丸(ひりゅうまる)だった。
彼女の目的は――ゲーセンにあるのだろうか?
「あの事件さえなければ――」
飛龍丸は一連の事件に関して、不満しかないような表情をしている。
しかし、それを今更言った所で歴史を変える事は出来ないだろう。
彼女にはタイムリープ能力を持っていなければ、世界線を越えるような事も出来ない。
歴史改変能力や記憶操作の部類なんて、もってのほかだ。そこまでできれば、もっと別の行動を起こすだろう。
「ARゲーマーにしかできない事を――伝えていくしかないのか」
飛龍丸は思っていた。自分にしかできない事、それをこなしていくしかない。
対話のテーブルを用意し、完全和解とまではいかないまでも――ARゲームの風評被害を止める為に。
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