開眼

迫撃砲弾に右足を持っていかれたアメリカ兵が

水辺に沿って這っている

ベトナムの幼い子供たちが言うには

"その河にはイリエワニがいるよ!"

"昨日も牛が食い殺されたんだ!"



言葉がわからないアメリカ兵は

ひどい渇きに苦しみ

やかましく叫ぶ村びとを余所に

泥のような水を掬って飲んだ



子供たちは

兵士のために祈ったらしい

"どうかワニが出てきませんように!"

"兵隊さんが無事に河をはなれますように!"

祈りながら

固唾を飲んだ



けれど

渇きの癒えたアメリカ兵は

彼らの目の前で

骨も肉も散々に食いちぎられ

鉄兜を締めた彼の頭だけが残された

祈りは"届かなかった"



子供たちは悟った

まるで藪の中から抜け出たように

今までとらわれていた

忌々しい考えから脱却した

そして

祈ることは思考を停止し

すべてを放棄することに等しいと

祈ることしかできなくなったとき

それは終わりを意味するのだと

この世界に神などいないということを

信仰心が何の役にも立たないということを

子供たちは知ってしまった



それは言うまでもなく

この世界の真実だった

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