試験評価 [4話目]

「エラー番号1Bです。……あれ?聞こえます?1Bですよ。」

 勝将はM³《エムキューブ》の前から、5メートルほど離れた上司の背中に声をかけた。

 高めに調整されたイスに腰かけ、背筋をピンと伸ばしながらパソコンの画面を見続けるスピカが不機嫌な声で答えた。

「一回言えば分かります。ログを見てるところだから黙って下さい。」


 この三ヶ月、勝将とスピカは研究所にこもりきりの生活を続けていた。


「しかし、ようやく1Bまで来ましたね。0Fの時には解決まで時間がかかってどうしょうかと思いましたよ。」

 聞こえているのか分からないスピカの背中に話を続けた。

「1Bはアーム先端部との通信不良ですから、もう終盤ですね。とりあえず再起動してみましょうか?それで治るかも知れないですし。」


 ストレートの黒髪がムチのようにクルッと回り、スピカが首から上だけで振り返る。キーボードの音は続いたままだ。


「その方法は無意味。再起動してエラーが出なくなったら最悪です。」


(再起動だけでエラーが出なくなったらラッキーだと思うけど……)


勝将の考えを察知したのか、スピカが加える。


「対策を探すのはあと。現象を知ることがまずは重要。同じ現象が再現できるようになったら、8割は解決したようなものよ。」


 その日はエラー内容を調べ続けたが、原因は分からなかった。


「1Bが解決するか分かりませんが、回転寿しにでも行きませんか?」


 スピカから食事に誘われたのは初めてだ。勝将は慌ててスマホで店を探した。


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